Adiabatic free energy dynamics
状態間の自由エネルギー変化を求める分子シミュレーション法の一種であるAdiabatic free energy dynamicsを解説します。
動的変数λの導入
体積VにN個の粒子が存在し,状態A, Bがポテンシャルエネルギー
でそれぞれ記述されるとします。
次に変数λ(0 ≦ λ ≦ 1)を導入し,状態Aから状態Bの変化をλで表すポテンシャルエネルギー
を導入します。
自由エネルギー摂動法(free energy perturbation method)ではλをある値に固定したシミュレーションを複数のλに対して実施しますが,adiabatic free energy dynamicsではλを動的変数として扱い,シミュレーション中にλの値が変化します。
λを動的変数として含めたハミルトニアンは式④になります。
対応する分配関数は
となります。
式⑤を得る際に
を導入しました。
はλに対する平均力ポテンシャルであり,この平均力ポテンシャルが求まれば目的の自由エネルギー差も求めることができます。
動的変数λはあたかも式⑥で表される有効ハミルトニアンに従うと解釈できます。
adiabatic decoupling
次にλに関するサンプリングをできる限り効率化することを考えます。
温度を上げることが運動性を高める手っ取り早い方法ですが,実粒子の温度は興味ある温度(例えば,300K)に保ちたいところです。
そこで,m_λを極端に重くする(=λの速度を極端に遅くなるようにする)ことによって,λと実粒子の運動が断熱的に分断(adiabatic decoupling)されるような状況を考えます。
そのような状況下においては,λに対してのみ高温のthermostatを適用することができるため,その温度をT_λ( >> T)とすると,adiabatic decouplingが成立する極限においてλの平均力ポテンシャルA(λ, T_λ)は
となります。
つまり,温度T_λのthermostatとcouplingしているにも関わらず,その平均力ポテンシャルは温度Tにおける平均力ポテンシャルと(λに依存しない項を除くと)一致することになります。
参考文献
1. Mark Tuckerman, Statistical Mechanics: Theory and Molecular Simulation (Oxford Graduate Texts)