Targeted MD

本記事では,Biased molecular dynamics simulationの一種であるTargeted MDについて解説します。

そもそもBiased molecular dynamics simulationとは?

Biased molecular dynamics simulationは,モデル化された原子間に働く相互作用以外に外場となるポテンシャルを加えたMD計算の総称となります。外場となるポテンシャルはbiasing potentialと称されます。

Targeted MDにおけるbiasing potential

Targeted MDでは,RMSDに対して以下のbiasing potentialが課されます。

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s*(t)はbiasing potentialの平衡点になるのですが,これが時間に対して線形変化する関数形が採用されています(standardなTargeted MDがそうしているだけであって,変化のさせ方は様々なバリエーションがあり得えます)。広義な意味でのSteered MDの一種と解釈できます。

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より,

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となります。つまり,t=0ではbiasing potentialが0です。この状態から線形に平衡点を変化させることにより,目標値s*_lastとの差(=reference構造とのRMSD)に対するペナルティを徐々に大きくしていきます。

Targeted MDの有用性

上手くいくと始状態から終状態(=reference構造,上式でのr_ref^N)への構造変化の様子,つまり反応経路を可視化することができます。ただし,よほど単純な系を除けば反応経路は複数あるのが普通のため,あくまでその一例が得られたに過ぎないと解釈すべきです。また,Targeted MDは非平衡MD計算であるため,得られた反応経路が平衡状態で実現確率の高い反応経路であるかは不明です。そのため,Targeted MDはUmbrella sampling等のより信頼性の高い反応経路計算の初期配置を生成することを目的に実行されることも多いです。
Targeted MDで目標値s*_lastに近い構造まで変化しきらないことも良く生じます。理由は,その反応経路においてRMSDが良い指標とは限らないためです。Targeted MDではRMSDのbiasing potentialの平衡点を線形に減少させていきます。そのため,始状態から終状態への変化に対して,終状態に対するRMSDが単調に減少していくような反応経路を有する系と相性が良い手法と言えます。


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