平均力ポテンシャルとは
分子シミュレーションにおいて,平均力ポテンシャル(Potential of Mean Force)はポピュラーな計算量だと思います。少なくとも様々な論文で散見されます。この平均力ポテンシャルとはどのような計算量かを簡単に説明したいと思います。
物理的意味
平均力ポテンシャルは系のある自由度の確率分布をエネルギー換算したものになります。
ここで,qが系の全自由度,sがqから定義される自由度,<...>がボルツマン分布の統計平均になります。sは,集団座標(Collective Variable)や反応経路(Reaction Path)と称されることもあります。
sは分子間の距離だったり二面角であったりと,系内で定義できるあらゆる自由度が平均力ポテンシャル計算の対象になりえます。
何故に平均力ポテンシャルと称されるか?
平均力ポテンシャルを自由度sで微分すると,sが受ける平均力が得られます。まさに,平均力のポテンシャルなわけです。つまり,平均力ポテンシャルという名称は計算量の物理的意味を的確に表現していることになります。
ここで,
と定義すると,
となります。
自由エネルギー曲面との関係
分子シミュレーションの研究において,自由エネルギー曲面(Free Energy Surface)という計算量もよく見かけます。自由エネルギー曲面は,平均力ポテンシャルと全く同じ計算量であり,単に言い方が異なるだけです。
個人的には平均力ポテンシャルという表現の方が好ましいのですが,世間的には自由エネルギー曲面と称されることが多い印象です。平均力ポテンシャルは自由エネルギーと関連した計算量であるのは確かなのですが,シミュレーション専門じゃない人にとって平均力ポテンシャルはイメージしずらい表現であるというところが事情としてあるような気がしています。