見出し画像

『ミッドサマー』のTwitter戦略ーまじクリエイティブ神。ー

個人的に今年爆裂よかった映画がポン・ジュノ監督作の『パラサイト 半地下の家族』。この作品についてはまたの機会に考察するとして、もう一作品は超絶問題作アリ・アスター監督の『ミッドサマー』。明るいのにホラーという新感覚ホラームービーだけあって注目度が高かったが、どうSNS(Twitter)で波を作って、どうヒットにつなげていったのかを個人的に見つけてみたい。SNS以外にもいろいろやっているので、ここだけがヒットの理由!とは言えないけれど。
大ヒットをかましているからこそ、何か得るべきことがあるような気がするのと、単なる興味本位で調べてみた。

この映画の戦略として素晴らしかった3ポイント。

①最初から最後まで一貫した「新しいホラー感」の不気味さの訴求

②徹底したクリエイティブ管理

③公開前・公開後にUGCを誘発させるキャンペーンを連続的・複数行うことによりUGC投稿数を最大化させた

以下で、時期を追って探っていきたい。

【アカウントスタート時期】

いろいろな映画の宣伝に携わってきたので、この規模(宣伝予算を知らないから肌感で…)でのアカウントだと、半年くらい前からスタートすることが多い。この映画に関しては、アリ・アスター監督の前作『ヘレディタリー/継承』を継承する形でアカウントの移行がされている。シリーズものではよくあることだ。

2019年5月9日に日本での公開情報が解禁になった。

その際の投稿のエンゲージメント数はRT:391、いいね:484である。この段階でファンのいる映画、つまりアリ・アスターファンが一定層いることが分かるが、爆発的な数ではないし、本日(2020年3月28日)時点のものなので正確な解禁時の数字は不明である。まだ、邦題も決まっていないタイミングだ。公開4・3ヶ月前辺りになるとアカウントは本格稼働していく。

【公開4ヶ月~1ヶ月前】

ほんと素敵って思ったハッシュタグ!「#祝祭がはじまる」考えた人は天才!10月に特報解禁になると一気に注目を浴びることになる。

画像1

エンゲージメント数はコメント:35、RT:1.8万、いいね:1.9万。おそらく広告はなし。この数値はかなり異常である。トレンド入りまでしている…
例えば、前作も大ヒットし今年の夏に公開を控える佐藤健さん主演の『るろうに剣心 最終章』の特報はRT:317、いいね:1,021、同じくホラー映画の新鋭ジョーダン・ピール監督の『アス』の本予告もRT:383、いいね:391である。『パラサイト 半地下の家族』のプレゼントキャンペーン投稿などもそこには遠く及ばないというか、桁が違う

その理由はなにか?映像が明るく美しいにも関わらずホラー!?前述した「#祝祭がはじまる」「フェスティバル・スリラー」といった普通のホラーとは一線を画すワードに引きつけられるし、予告のサムネイルがお花畑という極めて新鮮味があり、カルト的=あぶなっかしさを感じるビジュアルだったからだろう。

最近の映画のトレンド、特に若い人(10代~20代前半)をよく見かけるのはこうした「今までにない刺激的なもの」である傾向が強い気がする。『クワイエット・プレイス』『IT イット “それ”が見えたら、終わり』でも同様だった。『ミッドサマー』の投稿のエンゲージメント数が高いのはそういった若年層(10代~20代前半)が中心に動いたからだと思われる。

投稿コンテンツではGIF、静止画を使い世界観を徹底的に煽り続ける鬼畜の所業を展開。もはや僕などは注目せずにはいられないのである。あとは脳裏にこびりつく「花」の絵文字連続攻撃

12月になると、インフルエンサーのコメントや海外評を使用したり、海外でのルイヴィトンのお花畑投稿をRT投稿するなど精力的にたたみかけてくる。「花」を意識させることでホラーにもかかわらず「美しさ」を付加し、女性も見やすいと感じられるものになっているかもしれない。この徹底ぶりこそもはやカルト的である。

ここで1ヶ月前までのUGC投稿件数について触れたい。公開1ヶ月以前の3ヶ月(2019年10月22日~2019年1月21日、「ミッドサマー」で計測)での投稿件数は6,153件である。(※数値はサンプリングデータ 以後も同様)
『パラサイト 半地下の家族』(2019年9月11日~2019年12月10日、「パラサイト」で計測)では5,042件、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2019年12月20日~2020年2月19日、「ハーレイ・クイン」で計測)では4,125件。『ミッドサマー』は1ヶ月以前の数値でもこの作品内では最も多い。ただ、それほど大きな差はない。

【公開1ヶ月前~公開】

前述した通り、残り1ヶ月を前にし、話題化には成功している。それは作品の強み=今までにない特別なホラー映画感が充満させるビジュアルを億すことなく出し続ける強気さによるものだと思う。これほど著名人がしっかりコメントしてくれる映画もそう多くない。あとは、売るポイントが明確化しており、それがしっかりクリエイティブに、徹底的に落とし込まれていたこと。(海外素材が多いとは思うが)
最初、売り方は結構悩んだのかもしれない。普通のホラーに寄せていくとか、サスペンスに仕立てるとか…ただ、最後まで新しいホラーでみせるという統一した強気さが功を奏した。
公開1ヶ月前になると、投稿キャンペーンがスタート。「あと一ヶ月祝祭がはじまる」キャンペーンである。

キャンペーンの告知・説明がまた面白い。

キャンペーンだけでなく、アートポスターの販売の告知も大きな話題となった。ポスターデザインはヒグチユウコさんと大島依提亜さんによるもの。この投稿でもエンゲージメント数(コメント:94、RT:1.7万、いいね:4.2万)が大きく伸びた。映画、しかも実写の洋画でここまでエンゲージメント数が獲得できるのはかなり異常である。

この時期になると、かのアカデミー賞で作品賞に入っていない『ミッドサマー』はそのまま忘れ去られてしまうのかな…という危惧も少々あったが、全く心配はいらなかったようである。

キャンペーンがさらに一つ加わったのが1月30日。翌日のプレミアを見越しての施策だと思われる。

プレミアのゲストはなんとLiLiCoさん。ここはある意味攻めたなという…つまり基本は王様のブランチ狙いである。ただ、ターゲットが明確であり、作品のテイスト(若い女性が反応しそう)なので、番組的にもはまるし、ほぼブランチ確定できるというのはかなり大きかったのかもしれない。この戦略もはまった気がする。

ここまでを簡単に振り返ると、3ヶ月前までは大きな活動をせずに特報でトレンド入り。コンセプトを明確に伝えるクリエイティブを出し続け、世界観をしっかり訴求。作品を担保する著名人や海外評を入れつつ、1ヶ月前になるとUGCの発生数を促すキャンペーン施策。
セオリー通りの流れではあるが、そのクリエイティブ(海外素材含め)の徹底ぶりには目をみはる。宣伝チームやデザイナーがあっぱれすぎる。ブレず、ビビらずな姿勢がかっこいい。

公開2週間前には、オンライン・オフライン関わらず各媒体での露出情報、町山智浩さんの解説付きイベントを公開1週間前に実施するなどの最後の追い込みを見せる。露出を最大化させつつ、前述した2つのキャンペーンを実施し、UGCを増やす施策も展開している。

それとともに、静止画、GIF、動画を活かした投稿も最終まで徹底的に行っていく。バレンタイン投稿も他と一線を画す投稿である。

公開当週になると、一気にプレミア時のインタビュー露出が始まり、特集記事を含め、露出のピークを迎える。公式ではそれをRTする形で拡散し続ける。


実際にキャンペーンなどで公開前までにどれくらいUGC件数が増加しているか。公開1ヶ月~公開日前日(2020年1月21日~2019年2月20日、「ミッドサマー」で計測)での投稿件数は16,107件である。
『パラサイト 半地下の家族』(2019年12月10日~2020年1月9日、「パラサイト」で計測)では7,140件『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020年2月20日~2020年3月19日、「ハーレイ・クイン」で計測)では4,088件。ここになると大きな差が出てくる。「パラサイト」に関しては先行公開期間、感想キャンペーンもあっただけに大きく差が開いたのはなぜか?Twitterユーザーの関心層が圧倒的に「ミッドサマー」の世界観を指示していたということだろう。ただならぬ気配と空気感をうまく醸造することに成功していたと言える。

【公開日以降】

初週を大ヒットでスタート。トレンド入りもした。ここでも感想キャンペーンの投稿を重ねつつ、その感想に連動した世界観を表すクリエイティブを投下し続ける。公開前日より開催しているファンアートキャンペーンも同様である。

参加型のアートキャンペーンは敷居が高いが、鑑賞者で作品のファンになった人にとっては、イラストを作ることはさほどハードルが高くなかったのかもしれない。アートが投稿されることで新たな興味関心層にも拡散されるサイクルも作ることができる。

3月13日にはディレクターズカット版の上映がスタートし、リピーターを続出させることになった。この投稿のエンゲージメント数(コメント:53、RT:1.2万、いいね:1.4万)は特報や予告解禁時並みである。

また、海外の超ティザーで使用されていたこれだけだとよくわからない「クマ」を中心にした動画も投下。最終的にこれを出す感じがいやらしいのである。映画を観ないと意味が分からない。ただ観た人はにやにやしてしまう内容なのである…笑

最後に公開後のUGC発生件数についてみてみたい。公開後1ヶ月間(2020年2月21日~2020年3月20日、「ミッドサマー」で計測)での投稿件数は121,894件である。
『パラサイト 半地下の家族』(2020年1月10日~2020年2月9日、「パラサイト」で計測)では31,339件、アカデミー賞期間を入れた際(2020年1月10日~2020年3月9日)では105,451件『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY』(2020年3月20日~2020年3月29日、「ハーレイ・クイン」で計測)では5,469件アカデミー賞の影響を含めた「パラサイト」よりもTwitter上では話題となっているのである。

まとめ

見てきたように、コンセプト作りから徹底したクリエイティブ作成・管理によって達成した大ヒットだと思う。「作品もクオリティがすごい!」というものなのに、それが伝わらずヒットせず…なんてことはいっぱいある。『ミッドサマー』はうまくSNSを一つの起爆剤にした事例で、Twitterというプラットフォームをうまく使っていた。
やっぱりクリエイティブは超大事!あらためて身に染みた。

個人的なミッドサマーの感想や解釈はまた次にでも。

いいなと思ったら応援しよう!