何処にもないの落とし穴
弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
今回は、「何処にもないの落とし穴」について説明します。
時々、発明者から聞く言葉に「この製品はどこにもありません。見たこともありません。だからとても良いものです。」というものがあります。
ここで、いくつか気を付けなければならないことがあります。
1つ目は、仮にその製品が世の中の何処にもないとしても、特許文献(過去の特許公開公報など)を検索すると、似たようなものが大抵あるということです。
全く新規の発明をするということは、通常考えられません。
例えば、エジソンが発明した電球でも、その前にはアーク灯、ガス灯、油ランプ、ろうそく、たいまつ等が過去の発明としてありました。
エジソンは、これらの過去の技術には欠点がある、これらの欠点を克服してより良いものを作ろうと考えて、電球を発明したのです。
つまり、過去の技術にはこんな課題(欠点、問題点)がある。
そこで今回は、この課題をこれこれこういう構成で解決し、その結果こんな良い作用効果がある、というのが発明なのです。
逆に、何もない状態から発明を作り出すことはとても大変です。
人は、過去の技術の問題点を見つけ出して、それを改良するということは比較的容易にできます。
逆に、何もない状態から全くの新たな発明を作るということは至難の業です。
例えば、100年前の技術で今のコンピュータを作れといっても無理ですよね。
もっというと、必死に開発して製品化してみたら、過去にあるものと同じだったということになりかねません。
それだけならまだしも、他人の権利を侵害していたなんてことになったら目も当てられません。
ですので、良いアイデアが浮かんだとき、先ずは特許先行技術調査をする方が良いのです。
そこで、似たような技術が出てくるのは当たり前です。
その上で、自分が考えているアイデアと何処が違うのだろう、過去の技術の課題は何だろうと検討して、相違点を作っていくのです。
そして、その相違点からどんな作用効果が出てくるのだろうと検討していきます。
そうやって発明を完成させ、製品化に向けて活動していく方が良いのではないでしょうか。
次に、2つ目です。
同じ製品または似たような製品が世の中にないということは、そもそもその製品が売れないということかもしれません。
つまり、その製品の必要性が低くて市場がないのです。
これは、いわゆる個人発明家が活躍しやすい分野の製品に多く見られます。
例えば、サンダル等の履き物とか、台所用品とかです。
この様な分野の特許先行技術調査をすると、似たような文献がこれでもかと多数存在することがあります。
しかし、発明者が考えたものに類似する製品は、実際にはどこを探しても売っていません。
これって、過去に少なくとも十数人が似たようなことを考えてチャレンジしたけど、結局は売れずにお蔵入りになったってことです。
絶対に売れないとはいいません。
ソニーのウオークマンだって、最初は誰もが売れないといっていたのに、販売してみたら世界的なヒットになりました。
ですから、似たような製品が市場になくても、お金があればチャレンジしていいと思います。
歳を取って、あのときチャレンジしていれば、と後悔するよりいいでしょう。
しかし、事業としての可能性を高めたいなら、他人が成功しているものを参考にして、それを改良してより良いものを作っていく方が上手く行くと思います。
上記のウオークマンだって、その後に複数社から類似品が出ました。
但し、他人のしていることの猿マネはお勧めしません。
他人の知的財産権をきちんと調査した上で、あなたなりの独自色を出していきましょう。
いかがでしたでしょうか?
何かアイデアを考えたとき、これは何処にもないから良いのだと喜ぶのは良いのですが、少しだけ冷静に検討してみませんか。
坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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