真の発明者を記載しよう その2
【稼ぐ中小企業になるための知的財産情報】
弁理士の坂岡範穗(さかおかのりお)です。
今回は、「真の発明者を記載しよう その2」について説明します。
前回の「真の発明者を記載しよう その1」https://note.com/norio_sakaoka/n/nd3a7047b8e72では、特許の発明者について説明しました。
今回は、発明者から特許を受ける権利を譲渡してもらう話をします。
前提として、特許を受ける権利は、発明者に帰属します。
つまり、雇用する企業がどんなに高給を払っていても、その発明の完成までに莫大な投資をしていても、何もしなければ企業がその発明について特許を受けることはできないのです。
これって、企業側からすると随分と不公平ですね。
従業者は投資などのリスクも負わず、給料を貰いながらその業務として発明をしているのです。
それなのに、特許を受ける権利が発明者側にあるなんて。
そこで、職務発明制度というものがあります。
これは、従業者がした発明が職務発明であれば、発明をしたときにその特許を受ける権利が、有無を言わせず企業に譲渡されるという制度です。
これは、大企業ならば入社時に新入社員がハンコを押す書面に書いてあります。
目の前に人事課長がいる状態で、隅から隅まで読んでハンコを押す新入社員もあまりいないでしょうから気付きにくいのですが、ほぼ間違いなく記載してあります。
中小企業も同様のことを書面にして、新入社員に押印してもらう方がいいですね。
但し、主な注意点が2つあります。
その発明が職務発明であることと、従業者は相当の利益を受ける権利があると言うことです。
もう少し詳しく説明します。
1.職務発明について
従業者がする発明には、以下の3つがあると言われています。
(1)職務発明
これは、その従業者の職務範囲で行なわれた発明です。
例えば、自動車メーカーの研究開発員がエンジンの燃費向上に関する発明をしたようなときです。
(2)業務発明
これは、従業者の職務範囲外ながら、使用者である企業の業務範囲に属する発明です。
例えば、自動車メーカーの社長の秘書がエンジンに関する発明をしたようなときです。
但し、この業務発明も現実的には従業者と企業の双方が希望して、譲渡の対象になることが多いのではないでしょうか。
(3)自由発明
これは、使用者である企業の業務範囲外の発明です。
例えば、自動車メーカーの従業員が、お菓子の発明をしたような場合です。
このように、従業者がする発明には3種類ありますが、強制的に企業に譲渡させるには、その発明が職務発明であることが必要になります。
2.相当の利益について
これは一概にどうとは言えないところがあります。
何故なら、その企業の規模によってかなり事情が異なるからです。
一般に、利益額が大きい場合は、発明者の功績というより企業の実力の結果という場合が多いと思います。
発明だけでは利益を生むことはできません。
大きな利益額を上げるためには経済的な活動が不可避であり、生産設備の増強、全国的なマーケティングや営業活動等の多大な投資が必要だからです。
さらに、利益を上げるためには発明者以外にも、量産化や販売数の増加など大勢の従業者の活躍があります。
これらは発明者の功績というより、主にその企業の実力といえるのではないでしょうか。
このため、企業の規模が大きくなればなるほど、発明者の貢献度は下がると考えます。
以前、とある大企業が数値を公表していました。
そのとき、発明者への報奨額は、企業が受けた利益額の千分の一とか万分の一とかの数字だったように思います。
つまり、数人規模の組織でない限り、発明者の貢献度は思ったほど高くないのです。
あと、相当の利益について企業が従業者と十分な話し合いをして、双方が納得していることが大事です。
使用者である企業からの一方的な通知では不十分です。
このとき、発明者は自らの貢献度を過大評価しがちです。
そんなときは、既に述べたように、基本的に従業者に給料を払って、発明に必要な投資をしているのは企業側であること、利益を上げるためには他の従業者の活躍も必要なことを説明して、従業者に納得してもらう必要があります。
次に、相当の利益の具体的な額ですが、中小企業の場合、特許出願時と特許査定時にそれぞれ金一封を渡すくらいで良いと思います。
そもそも、その発明がどれだけの利益を生むか分かりませんし、特許出願に必要な費用も企業が負担しているからです。
つまり、改善提案の報奨の高いやつと思っていただければ結構です。
その後に大きな利益が出れば、昇級や昇進などで個別に応えてあげれば良いのではないでしょうか。
実は、上記の相当の利益は金銭だけに限られません。
有給休暇、研修に参加させる、留学させる、昇進させる等でも構いません。
大事なのは従業者に納得してもらうことです。
そして、さらに大事なのは、発明者を褒めて会社全体の士気を向上させることです。
そうすることで、会社全体の雰囲気が良くなり、さらなる発明が生まれます。
いかがでしょうか、特許を受ける権利の譲渡についてご理解いただけたでしょうか。
この記事が御社のご発展に役立つことを願っています。
坂岡特許事務所 弁理士 坂岡範穗(さかおかのりお)
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