TheBazaarExpress103、「知られざる坂井三郎」書評(産経新聞)

 映画館では『風立ちぬ』、書店では『永遠の0』が一際目を引いたこの夏。慎ましやかに、本書が出版された。

 戦争と零戦に対する日本人の興味の深さは前二者の人気からもわかるが、本書にはそれとは全く異なる視点がある。

 宮崎駿は登場人物にこう言わせる。「飛行機は美しくものろわれた夢だ」。百田尚樹は主人公に、「いつかお前たちに語らなければならないと思っていた」と、60年前の戦争秘話を語らせる。

スタイルは異なるが、ともにあの時代がもっていた非情さを描いた物語であり、戦時下における「夢」や「悲恋」、「約束」が語られる。

ところが同じ零戦をモチーフにしながらも、本人の講演記や多くの関係者による「撃墜王坂井三郎」の秘話が盛り込まれた本書には、違った趣がある。坂井はこう書く。

「運命とは生命を運ぶと書く。まさに自分が自分の生命を運ぶのである」

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