TheBazaarExpress101、めざせ給食日本一!

 全国から2266校(給食センター含む)が参加して行われた、給食の全国大会『第8回全国学校給食甲子園』(2013年12月8日開催)。その栄冠は、史上初めて文京区青柳小学校の男性栄養士・松丸奨さん(調理師は大野雅代さん)の頭上に輝いた。しかも、審査基準の一つとして地産地消を謳う大会でありながら、これまた史上初めて、畑や生産者の少ない東京都(文京区)のメニューが評価されたことも驚きだった。審査員の一人、馬場錬成氏は表彰式の最後にこういう主旨の挨拶をした。

―――男性の活躍といい東京校の優勝といい給食新時代を実感する。ユネスコ世界無形文化遺産に登録された和食の原点には、学校給食も貢献している。日本のような給食システムは、世界の大国にはない。素晴しい文化だ。

 この日、青柳小チームのメニューのテーマは「江戸・明治から続く食を巡る物語、東京地場産物で江戸の粋を味わう」。『のらぼう飯』『江戸前つくねの宝袋』『伝統つくだ煮あえ』『すり流し小鍋立て汁』『はちみつにんじんゼリー』、そして東京牛乳。全てのメニューに、江戸東京野菜と呼ばれる伝統野菜が使用されていた。

 のらぼう菜とは、江戸時代に西多摩地方で作られ始めた、いまでは希少な食材だ。『江戸前つくね』には、東京軍鶏肉、千住ネギ、東京大豆、七国峠の卵。ゼリーに使われた人参も駒込三寸人参。はちみつは練馬で採れたもので、仕上げに金町小カブのミルクピューレがかけられている。

 江戸東京野菜は、農地や生産者の激減で現在はごく一部の農家でしか作られていない。病害にも弱いし流通量も少ないから、給食には不向きだ。

 ところが松丸さんは、「なんとか給食に使って子どもたちに故郷に対する愛情を持ってもらいたい」との思いから、学期内の週末や長期休み等を使って、東京中の生産者を訪ね歩いた。「馬込三寸人参」や「のらぼう菜」を生産している、小平市の農家の畑を訪ねたのは、夏休み中のことだった。

「今日はどんな作業をさせていただけますか?なんでもやります。言ってください」

 松丸さんは、食材をわけてもらう交渉を始める前に、まずは畑仕事の手伝いから始めた。生産者とのコミュニケーションをとりながら、仕事の合間に語り合う中で給食にかける熱意を理解してもらう。自分も畑仕事を通して季節ごとに実る江戸東京野菜のことを学んでいく。どの季節のどんな食材ならば給食に必要な量が確保できるのか。どの食材でどんなメニューができそうか。実際の流通は農協等を通さないと難しいが、まずは川上を押さえる作戦だ。生産者も「そこまで熱心だったら」と、畑の一部を青柳小用に確保してくれることになった。

別のケースもある。「まずは食材を知るために、現場を訪ねる場合もあります」。

そこは秋川市内の山裾。風通しのいい場所に、いくつもの鶏舎があった。

「いい軍鶏を育てるためには、湿気が少なく風通しがいい南向き斜面がいい」

経営者の浅野良仁さんが言う。

「ブロイラーは鶏の形をした鶏ではない生き物。うちの軍鶏は特注の餌を与えて早く便を出させる。だから肉が美味しいんです」

ひと言ひと言に頷きながら、松丸さんは赤いトサカ、茶色い頭、黒の羽の美しいグラデーションをした鶏を見ながら「丹精込めて育てた鶏とわかりますね」と呟く。脂身が少なく霜降りではないこの肉をどう使うか、考えていたのだ。のちにこの肉をミンチして、『江戸前つくねの宝袋』のつくねになった。

甲子園大会優勝の結果は、こんな足を使った取材活動の賜物だったのだ。

       ※

「××先生、今日の担当はやきそばです。しっかり炒めてくださいね」

声をかけたのは、埼玉県志木市宗岡小学校栄養教諭・猪瀬里美さんだった。夏休みの一日、調理室には白衣に着替えた全職員が集まった。「子どもたちにしっかりと食べてもらうためには、担任や管理職との連携が大切」と考える猪瀬さんが提案した、「職員調理体験研修」だ。参加している八巻公紀校長も言う。

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