ソリューションではなくて「意味のイノベーション」|6冊目『突破するデザイン』
ロベルト・ベルガンティ 著 八重樫文・安西洋之 日本語版監訳(2017, 日経BP社)
メタファーのできが良いとセンスメイキングはカンタン
本に書かれていることが、自分の身近なできごとに置き換えられて、自分の経験と一致するときに、納得感を感じることがないでしょうか。
そして、その本はなんて面白いのだろうと思います。
ちょっと占いを信じるプロセスにも似ています。
本の内容を身近なできごとに置き換える行為はセンスメイキングであり、置き換えられたできごとはいわばメタファーです。
メタファーのできが良いとセンスメイキングはカンタン!
なんて、いつも思いながら本を読んでいます。
ソリューションではなくて「意味のイノベーション」
『サーキュラーデザイン』にデザイン思考の限界が語られていました。
デザイン思考は人間を観察するところからスタートします。
固定観念を捨て、箱の外で考えます。
顧客の立場に立ち、顧客の視点で見て、共感します。
そして課題を発見します。
それは外から内に向かうユーザー中心のイノベーションをめざすものです。
でも、そこで実現されるのはソリューションです。
必要なのはソリューションではなくて「意味のイノベーション」だとこの本の著者ロベルト・ベルガンティ氏はいいます。
RBS(立教大学ビジネススクール)に在学中のときに、大学で山口周さんの講演会がありました。
そのときに、山口周さんは、これからは「役に立つ」ではなくて「意味がある」ことが大切だと、ベルガンティ氏がいうのと同じようなことをいっていました。
建築家でコピーライターでハーバード・デザインスクールを修了している各務(かがみ)太郎氏は著書『デザイン思考の先を行くもの』でデザイン思考は他者に課題を見出す「他人中心デザイン」であり、ハーバード・デザインスクールが教えるのは「自己中心デザイン」であるといっています。
クリスチャン・マスビアウ氏は著書『センスメイキング』でソリューションの時代ではなくてセンスメイキングの時代だといっています。
IDEOのティム・ブラウン氏は「IDEOは特定の業界だけで活躍しているデザインコンサルタントではないために専門知識に邪魔されずに課題に取り組めることが長所だ」といっていますが、そこにあるのはソリューションで、イノベーションは生まれないというのが、マスビアウ氏やベルガンティ氏の主張です。
最近はワークショップのスタイルでアイデア出しをすることはめずらしいことではありませんが、たいていそういうときは、「他者のアイデアの否定は禁止」というルールがあります。
すばやく、たくさんのアイデアを出すことが重視され、「判断」は後回しにされます。
量の多さが質を向上させることはもちろんあると思いますが、ときにはじっくりクリティカルに考えることも必要でしょう。
批判精神に基づく、意味のイノベーションの内から外へのプロセス
意味のイノベーションをめざすには、外から内ではなくて、内から外へ向かいます。
これは私が常々考えている「これがやりたいという自分の思い」「自分自身のビジョン」にもつながります。
スティーブ・ウォズニアックは「人々はあなたが愛していない製品を愛することはない」といったそうですが、まさに私もそう思います。
まずは自分一人で深くクリティカルに考えてビジョンを描きます。
次にパートナーとペアで、スパーリングをするように、アイデアを批判的に考えていきます。
次はもう少し人数を増やして、ラディカル・サークルと呼ばれるグループでアイデアをブラッシュアップし、そして専門的知識を持つ、多様な専門家を解釈者として迎えます。
そこまでのプロセスを踏んでから、いよいよ市場テストです。
ここまで顧客にアプローチしないのは顧客の意見が重要でないからではなくて、顧客は私たちからの「贈り物」の受け取り手であるからです。
でも、やっぱりデザイン思考が好き
ここからはあまり『突破するデザイン』の本の内容と関係ありません。
IDEOのデザイン思考のツールに「メソッドカード」というものがあります。ソリューションのための様々な手法を集めたもので、視覚的にも素晴らしいツールです。
↑オリジナルのメソッドカードは51枚ですが、メソッドカードのエッセンスを日本語で紹介した『デザイン思考家が知っておくべき39のメソッド -Design Thinking Bootcamp Bootleg-』を無料でデザイン思考研究所のサイトからダウンロードできます。
東京大学i•Schoolの『東大式イノベーションのつくりかた』という本があります。
「あつめる」「ひきだす」「つくってみる」というプロセスでの課題の見つけ方とその解決方法を説明する本で、とてもクリエイティブな内容です。
私はデザイン思考が大好きですが、それはソリューションであり、イノベーションを起こすものではないといわれると、なるほど納得するところはあります。
それでもIDEOのデザイン思考を使った手法は魅力的です。
しかし、私がIDEOに憧れているのは手法を持っているからだけではありません。
それはIDEOがクリエイティブでプレイフルな仕事の仕方をし、従業員がそうしたマインドセットを持っているからです。
眉間に皺を寄せて、苦痛の中からイノベーションが生まれるとは私は思いません。
確かに、たんなるソリューションにとどまらないためには、顧客の課題を探すだけではなくて、自分自身の中に実現させたいビジョンを見出すこと、そしてそれを本気で磨いていくことが必要だとは思いますが、でもそれはポジティブに楽しくやっていくべきです。
手法や考え方だけがデザイン思考なのではなくて、そこにある姿勢、マインドセットもデザイン思考の構成要素だと思っているので、やっぱり自分はデザイン思考には肯定的です。