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システム化能力の高い人をそのまま大切にする|34冊目『ザ・パターン・シーカー』
サイモン・バロン=コーエン 著(2022, 化学同人)
共感指数(EQ)とシステム化指数(SQ)
ダニエル・ゴールマン氏とピーター・センゲ氏は、EQ(こころの知能指数、共感指数)を高めることが、教育やビジネスにおいて、重要であることを説いています。
それはまさにその通りであり、私自身もEQを高めることは大切なことと考え、自分自身そう努めるとともに、子どもの教育にもEQに意識を向けてきました。
本のタイトルでもあるパターン・シンカーとは、物事の中にあるパターンを見出し、そのパターンについて観察し、実験をして検証を繰り返していくことで物事の道理を紐解いていく人です。
システム化の能力を持つ人でもあるので、システマイザーともいいます。
また、極めてシステム化の能力が強い人はハイパー・システマイザーといいます。
ハイパー・システマイザーを代表する著名人として本に登場するのはアル、すなわちトーマス・アル・エジソンです。
エジソンの偉大なる発明たちは、果てしない実験の繰り返しによって誕生しています。
システマイザーの特徴はSQ(システム化指数)の高さです。
エジソンが天才であるとすれば、天才とSQとの関係はとても深いと考えられます。
人の社会にEQが重要なことは明確ですが、同様に、人類の歴史にSQが重要であることも間違いがありません。
ハイパー・システマイザーやシステマイザーの存在意義、存在価値、存在理由、そして果たす役割に目を向ける必要があるでしょう。
システム化メカニズム(システマイジング)
物事は if-and-then(もしならば)のパターンの法則にしたがってシステムとして観察することができます。
そうした人の脳の働きをシステム化メカニズムといいます。
システム化メカニズムは以下の4段階からなります。
1段階目は「質問をする」です。
物事に好奇心や興味、関心を持って関わることで、「どうして?」「どうやって?」という疑問が生じるということです。
2段階目は「質問に答える」です。
今、自分が持っている情報や知識を使って答えを導き出すことですが、それは必ずしも正しいとはいえないことであり、言葉を代えれば「仮説を立てる」ということになります。
3段階目はパターンを「検証する」ことです。
再現性を見極めるために、実験や観察を繰り返すことで、2段階目で得た仮説=パターンの検証を行なっていきます。
そして最後の4段階目では「あるパターンを発見したとき、このパターンに修正を加え、ループのなかで検証を繰り返す」ことを行います。
if and then の「if」とは、もしXが真であればという「仮定」、もしXが先に起こればといった「先行」、そして入力として捉えられます。
if and then の「and」は足し算、引き算などの演算のようなもので、if に対しての関わりを表しています。
そして「then」は「if」+「and」で導き出された「結論」「結果」、あるいは「出力」という捉え方ができます。
SQとEQに着目した英国脳タイプ研究ー5つの脳タイプ
英国脳タイプ研究によって、共感力とシステム化能力を測定する調査が60万人を対象として実施された結果、以下の5つの脳のタイプがあることが認識されました。
①B型=SQ とEQとのバランスが取れているタイプ
②S型=システム化が高度で、共感力は低い。男性が多い。
③E型=共感力高、システム化は調高度。女性が多い。
④エクストリームS型=システム化超高度、共感力は平均以下。パターン・シーカー。男性は女性の2倍。
⑤エクストリームE型=共感力超高度、システム化能力平均以下。システム・ブラインド
巻末に付録がついていて、簡単なテストでSQとEQのスコアを出し、自分のタイプを知ることができます。
ちなみに私はE型でした。
SQは男性の平均スコア6.7点よりも低い6点で、自分がシステマイザーではないことが明らかになりました。
薄々はわかっていましたが自分は天才タイプではないんだなと、実は少しがっかりしました。
この5つの脳のタイプは、ニューロ・ダイバシティ(神経多様性)の実例であり、どのタイプが優れているということではなく、ただ違うというだけで、それぞれが異なる環境のもとで繁栄するように進化してきたといいます。
SQを高度化する教育とビジネスの可能性
冒頭に書いたゴールマン氏やセンゲ氏の著作、研究によってEQの重要性が主張され、企業や教育の現場で重視されてきています。
それには私も賛成ですが、前述のように、脳にタイプがあることは認識しておく必要があると思います。
5つの脳のタイプの中では、一見、SQとEQのバランスがとれたB型が良さそうに思えますが、それは言葉を代えれば凡庸であるということかも知れません。
しかし、凡庸が悪いということではありません。
異なる環境のもとで進化がなされてきたそれぞれのタイプですから、そのタイプにふさわしいシチュエーションがあるわけです。
誰もが高い共感力を身に付けた社会を想像するならば、思いやりのあるやさしい社会がイメージできます。
平和な社会を築くためにEQを高めることに反対する理由はありません。
しかし、S型、またはエクストリームS型の脳のタイプを持つ人が存在することにも特別な意味があります。
SQとEQとはゼロサムゲームなのだといいます。
つまり人は、SQが高くなるほどEQは低くなり、EQが高くなればSQが低くなるのだそうです。
であるとしたら、EQを強化することは、SQを弱めることでもあります。
ゴールマン氏らのSEL教育(Social and Emotional Learning)は日本語では「社会性と感情の学習」と訳され、自分を知り、他者を知り、社会を知る、共感すなわちEQを重視した教育です。
↓ゴールマン氏とセンゲ氏のSELの本についてはこちらで紹介しています。
しかし、ハイパー・システマイザーの興味の対象は「自分」でもないし、「他者」でもありません。
何か特定のものごとに対して徹底した興味を抱き、その追求のみに人生をかけます。
決して自分を知りたいとは思わないし、他者にも、社会にも関心が低く、結果、共感はしません。
エクストリームS型、すなわちハイパー・システマイザーと自閉症の関係についての研究がなされています。
ハイパー・システマイザーは自閉症になる確率が高いそうです。
また、自閉症の人の200人に1人はサヴァン症候群であり、その確率は自閉症でない人のケースと比較して極端に高いというデータもあります。
シリコンバレーには自閉症が多いという研究があります。
ハイパー・システマイザーが多いことに加え、ハイパー・システマイザー同士が出会い、結婚し、子どもを授かり、遺伝による増加もあるようです。
自閉症は本人が生活するのに問題がないならば診断の必要はないといいますが、生きづらさや病気のリスクが高いことは否めません。
しかし病気でなければ、それは個性であり、才能であり、人類進化の可能性でもあります。
E型やエクストリームE型が、調和をとり平和な社会づくりに貢献する一方で、新しい何かを発見し、進化を促す役割をS型やエクストリームS型が担います。
そしてE型とS型の間をB型が調整します。
SQを高度化する教育とビジネスの可能性
E型やB型に対してSELのようなEQを重視する教育が必要なように、S型にはSQを促進する特別な教育が必要なのではないかと思います。
デンマークのスペシャリスタナ社という自閉症の人を集めて雇用している企業が紹介されています。
コミュニケーションが不得意なためにせっかくの才能を活かせない人がたくさんいることに着目した先進的な取り組みです。
すべての学校がそうでなくても良いのですが、S型をE型に矯正する教育ではなくて、S型をむしろエクストリームS型へと強化させる、そんな教育を持つ学校があってもよいのではないか、というのが私がこの本を読んでひらめいたことです。
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