童話「スーパーヒーローレボリューション」/#014 最終回
スーパーヒーローレボリューションズ誕生
14
カヴと僕は自動運転の車に乗り込んで移動をしていました。
行き先はカヴだけが知っていて、僕はどこに向かっているのかまったく知らされてはいませんでした。
しかし、窓から見える風景には見覚えがありました。
それはつい最近、この時代に目覚めてからソラたちと一緒に見た風景でした。
そこはまさしく僕のお父さんの故郷の町でした。
町はやはりゴーストタウンで人が住んでいる気配はまったくありませんでした。
僕のお父さんの実家、おじいちゃんおばあちゃんの家を通り越して、山の麓まで行くと、そこにはこんな荒れた町の中で1軒だけ手入れが行き届いた小さな家がありました。
それは教会でした。
教会の前に車を停めるとカヴは車を降りて教会の中に入って行きました。
僕もカヴに着いて行きました。
「こんにちは、神父さん。」
まさか、人が住んでいるとは思わなかったのですが、カヴが声を掛けると、照明が点いていないうす暗い礼拝堂から人影が現れました。
それが神父さんでした。
神父さんがカヴの声に気がついて僕らの前までやってきました。
手にはキャンドルを持っていました。
そしてそのキャンドルで照らすようにして神父さんは僕の顔を見ると、驚いた顔をして、そしてこう言いました。
「とうとう目覚めたんだね。」
それは僕のことを言っているのでした。
「神父さん、母と話をしたいんだ。」
カヴが言いました。
「そうだね。存分に話をするといいよ。」
言葉は少なくても、すべてを理解した神父さんは小さなドアをくぐって奥の部屋へと入って姿が見えなくなりました。
カヴは僕を連れて礼拝堂の十字架の下に立ち、そして跪きました。
頭を下げて目を瞑り、静かな声を発しました。
「お母さん、やっと兄が目覚めました。」
そして顔をあげて十字架を見上げました。
「私はといえば、もうすっかりこんなおじさんになってしまいましたよ。でも、もう大丈夫です。兄と一緒にきっと世界を守っていきます。」
そして、胸に手を当てて、再び頭を下げて目を瞑りました。
そのまましばらくの間緩やかな時間が流れました。
一つ深呼吸をして、カヴは僕に向かってこう話しはじめました。
「ジャンくん、いや、ジャン。ちゃんと説明しよう。」
僕に笑顔を見せると、十字架を見上げて話を続けました。
「残念なことだけれど、君の母親はすでにもうこの世の中にはいない。もう何十年も前に亡くなってしまったんだ。母はこの教会の向こう側の山の頂の地面の下に眠っている。私は今日のように、こうやって教会に母に会いに来るんだ。もう気がついているだろう。ジャン、君の母親は、私の母親でもある。」
カヴの今までの話の内容から、なんとなく推測はしていましたが、あらためてハッキリ言われて、僕は驚きました。
僕よりもずっと年上のカヴが僕の弟だなんて。
「ジャン、君が生命維持装置に入った時には実は私は母のお腹の中に居たんだ。そのことに気がついたのは君が眠りについてしばらく経ってからのことだったらしい。やがて戦争が始まって私は生まれた。父親といえば、仕事が忙しくてほとんど家に帰って来ることはなかった。」
僕は黙ってうなずいてカブの話を聞いていました。
「戦争が激しくなって、国が丸ごとなくなるなんてことも珍しくなかった。都市部にいることはとても危険だったので、母と私は父の故郷であるこの町に来て暮らした。」
カヴは顔を上げて十字架を仰ぎました。
「戦争は長くは続かなかったよ。しかし、君が聞いている通り、世界の半分の人口が失われるようなひどい戦争だった。」
人口の半分が失われるような戦争なんて、僕にはとても想像できませんでした。
「幸いにも私と母は生き延びた。しかし戦争が終わっても父は忙しいままだった。やっぱりあまり家に帰ることはなかった。大学の研究所から政府へと勤務地を移し、国を世界を作り変える仕事をしていたんだ。私が10歳になった頃、父が家に帰ってきて私を山登りに誘った。そうこの教会の後ろにある山だ。山頂に着くと二人で遠く街を眺めた。この町は戦争の被害を受けなかったが、この町の外はひどいもんだった。その風景を見ながら、父が話を始めた。自分は今、世界を一から作り直す仕事をしていると言った。そしてその後に話したことは、以前、私がみんなにも話したことだ。180万年の将来まで人類を延命させる計算に基づいてプログラムが組まれ、AIが管理しているという話だよ、憶えているだろう。そして、父親はこう言った。自分は信念を持って仕事をしているがそれが100%正しいことなのかどうか、本当は自信がない。だからカヴ、君がそのセーフティシステムになってくれないか。後40年経てば君の兄、ジャンが目を覚ます。兄弟力を合わせて私が作った世の中が正しいかどうかを見極めて、間違っていると思ったら抵抗して欲しいんだ、と。」
突然の話に、僕は気持ちの整理がうまくできませんでした。
「カヴさん、それで結局、僕たちのお父さんはどうなったんですか?…もう死んじゃったんですか?」
カヴは僕の方に顔を向けて、僕と目を合わせ、そして少しだけ視線をずらしました。
「父は私にそんな話をして、そして、また仕事に戻ったけれど、時々は私たちに会いに来てくれた。会うたびに私にいろいろなことを教えてくれたんだ。しかし、それは国家の機密事項でもあったはずで、多分、その行動は常に監視されていたんだと思う。やがて私が20歳になった時、父と誕生日を祝うワインを飲もうと母がワインを用意してくれた。だけど、その日、私の誕生日には父は帰ってこなかった。そして、それ以来、連絡が取れなくなってしまったんだ。だから実は私にも、父が生きているのか死んでしまったのか本当のところがどうなのかわからないんだ。もしも生きていたら85歳のはずだけど、今の時代120歳以上生きる時代であるし、私は生きていると信じているんだが。」
僕たちが教会を出るとすっかり日が暮れていて、人気のない町は真っ暗でした。
「これから段々といろいろなことを教えていくから、一緒にこのミッションを引き受けてくれるかな?」
とカヴがあらたまって僕に言いました。
「僕にできることかどうか、自信がすごくあるわけじゃあないけど、それが僕のすべきことなのだとしたら、喜んでお引き受けします。」
僕がそう言うと、カヴは頬を緩めて笑顔となって、そして僕にこう言いました。
「ありがとう。だけど、ジャン、君は私の兄さんなんだから、もう敬語はやめてくれないかな。」
一眠りのうちに世の中のことがすっかり変わってしまって、戸惑いばかりの日々でしたが、それでも血を分けた肉親がこの時代に存在することで、僕は安堵の気持ちでいっぱいになりました。
「カヴさん、いやカヴ、一つ聞きたいんだけど。僕たちのこのチームに名前はついているのかな?」
「名前?いや、考えたことなかったな。」
「じゃあ、付けても良いかな?」
「何かアイデアがあるのか?」
「スーパーヒーローレボリューションズってどうかな。」
カヴは答える代わりに僕に笑顔を送りました。
#014(最終回)をお読みいただきありがとうございます。
続編はアイデアが湧いて書きたくなったらまた書いてみます。
その節はどうぞよろしくお願いいたします。
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