第2回「情報収集、デスクリサーチ、メディアクリッピング」
広報でとても重要な「広聴(公聴)」の業務
広報は「広く報せる」と書くので、みなさんは、情報発信が主な業務だと思っているかも知れません。
前回、「広報」は「コーポレート・コミュニケーション」と英訳されると言いました。
コミュニケーションが得意な人といえば、話をするのが上手な人が思い浮かぶかも知れません。
もちろん情報発信は広報の重要な業務の一つですし、話が上手なことはコミュニケーションスキルの大切な一要素には違いありません。
しかしまた、広報には「広く聴く」こと、「広聴(あるいは公聴)」というもう一つの重要な側面があります。
そして、コミュニケーションには、「傾聴」が話すスキル以上に重要であったりします。
今回の授業では、広報の情報収集の側面に焦点を当てて、みなさんと一緒に学んでいきたいと思います。
クリッピングのすすめ
昔、広告代理店で働いていたとき、毎日、新聞に目を通して、仕事に関係のある気になった記事を切り抜いてスクラップブックに貼っていました。
その日の新聞を切り抜いてしまうと、新聞を他の人が読めなくなってしまうので、少し前の新聞を切り貼りしていました。
会社で日経新聞と読売新聞を購読していたので、自宅では朝日新聞を購読して、いつも3紙の新聞をチェックしていました。
このように新聞に目を通して、記事をチェックして情報を集めることを、クリッピングと言います。
しかし現在、新聞をとっている会社は少なくなっています。
私の家でさえ、もうだいぶ前に新聞をとるのをやめてしまいました。
ですから、新聞や雑誌など紙媒体に限らず、WEBメディアやテレビ、ラジオから情報を収集することもクリッピングと言います。
クリッピングは何を目的としているかと言うと、大きくは以下の3つであるとPR TIMESのWEBサイト『PR TIMES MAGAZINE』に記載されています。
メディア企業のそれぞれの好みや特性を把握して、どんなプレスリリースを出したら取り上げてくれるのか、その傾向を理解できることがクリッピングを行うことのメリットであると説明されています。
そして、自社で配信したプレスリリースがメディアに取り上げられているのかどうかを確認して、広報効果を測定をする意味があると言います。
PR会社のクリッピングの説明なので、「広報効果」や「メディア対策」といったところに焦点が当てられているようです。
しかし私は、アンテナを立てて情報を集めることは、広報戦略のためだけでなく、経営戦略を考える上でも意味があることだと考えています。
広報で集めた貴重な情報を経営層に届けること。
場合によっては、そうした情報を分析・加工して、戦略の形にして提案することも、広報のとても重要な仕事であると私は認識しています。
また、クリッピングの作業には、作業者に知識を与え、情報収集のスキルや情報に関する感度を高めてくれるという教育的側面があります。
現在は、WEB記事などを集めて、分析レポートまで出してくれるクリッピングサービスを商品として提供している会社がありますが、それでは社内の広報スタッフの成長の機会を逃してしまいます。
クリッピングは、単に情報を集めることが目的なのではなくて、業務を通して学び、成長するプロセスでもあるので、広報スタッフが自らクリッピングをすることを私は推奨したいと思います。
デスクリサーチ!エゴサーチ!!パブリックサーチ!!!
デスク(トップ)リサーチとは、調査する目的を明確にして、必要な情報を集めることです。
インターネット上で市場調査や競合調査をしたり、あるいは論文にアプローチして理論を探したりします。
自分の会社の属する業界や、業務に関わる情報を探すことが多いですが、調査する目的を明確にせずに、facebookなどのSNSをなんとなく閲覧しているときに、偶然に重要な情報に出会うことだって少なくありません。
しかし側から見るとインターネットを見て遊んでいるように思われることも多く、理解のない職場では苦労することもあるでしょう。
エゴサーチとは自分や自社が関わる事柄を検索することで、パブリックサーチは自分や自社に関わりがない事柄を検索することです。
私はビュー数や読了率などの確認と同様に、定期的にnote上でエゴサーチを行って、自組織関連の記事を探すようにしています。
ネットを捨てて街に出よう!
ネット上や紙媒体で情報にアクセスするだけではなくて、街に出たり、リアルなイベントの場に顔を出すこともとても有意義であると考えています。
リアルな場に出向くことで、その場所にある雰囲気や、人々の思い、熱量を感じることができます。
また都心に出て、そこで働くセンスの良い人たちを観察することで、良い刺激を受けることもあります。
仕事として頭の固い上司に認めてもらうには、自社が分類される業界や、業務と直接関連があるセミナーや勉強会に限定されてしまうかも知れませんが、実は業務とあまり関係なさそうに思われる情報を得る場合の方が有意義だったりします。
『両利きの経営』の「知の探索」や「バウンダリー・スパナー」「越境人材」というキーワードで、そうした考え方の重要性が研究されていますが、現実的には、なかなかそうした理解のある組織は多くはないものです。
「働き方改革」が全国的に掲げられている今、強要できるものではないのですが、できることならば、プライベートな時間を活用して、主体的にセミナーや勉強会に参加することを個人的におすすめします。
企業にイノベーションをもたらすのは、「業務の範囲内で勉強する人」ではなくて、「業務の範囲を超えて自主的に学ぶ人」、「役割外行動を取れる人」というのが私の持論です。
宣伝会議賞のコピーを書いてみよう!
それではこれから少しデスクリサーチのトレーニングのワークをしましょう。
宣伝会議という出版社が主催する『宣伝会議賞』というコピーライティングのコンテストがあります。
1963年に創設されて以来毎年開催されていて、最新の61回には59万点の作品の応募がありました。
私も十数年にわたって作品を応募していますが、良くても2次審査通過止まりで、100本に1本一次審査を通過するかどうかという通過率です。
このコピーを書くという作業が、情報収集の良いトレーニングになります。
考えてみてください。
対象となる商品やサービス、会社のことをよく知らなくて、果たしてコピーが書けるでしょうか?
あるいは業界のトレンドや成長性、競合会社、メインの顧客などを理解しなくて商品やサービスの魅力を伝えることなどできるわけがありません。
ということで今回はみなさんに第61回の宣伝会議賞のお題に沿って、コピーを実際に書いてもらいたいと思います。
宣伝会議賞に応募するのであれば、100本〜200本のコピーを考える必要がありますが、コピーを書くことが目的ではなくて、情報収集のトレーニングのためのワークなので、今回は1本だけのコピーで結構です。
お題は以下の3つの中から選んでください。
知っている会社、商品もありますが、初めて聞いた会社、サービスもあるのではないでしょうか?
まずは会社と商品、サービスを調べることろからはじめましょう。
また知っているつもりの会社でも実はよく知らないという場合も多いので、まずはしっかり調べてみましょう。
そしてその会社の業界について、競合商品についても調べてみましょう。
顧客のニーズも把握する必要があります。
いかがでしたか?
良いコピーは書けましたか?
コピーを書くためには情報が必要だということを実感していただけたのではないでしょうか。
食品や飲料の商品のコピーを書く場合は、インターネットで調べるだけでなく、実際に対象商品を食べたり飲んだりした上でコピーを考えるべきだと私は思っています。
昔、いも焼酎の「黒霧島」のコピーで2次審査を通過したことがあります。
コピーを書くために毎晩、やむを得ず黒霧島で一杯やりました 笑 。
実際に飲んで、黒霧島の物語の主人公に自らがなって書いたコピーなので、リアルな、良いコピーが書けたのではないかと思っています、ホント。
クリッピングワークショップ!
本日はもう一つ、ワークを行いたいと思います。
今書いてもらったコピーのお題として選んだ会社の広報スタッフであると想像してください。
ここに複数の新聞社の新聞を用意してあります。
これらの新聞に目を通して、その会社に関係ありそうな記事を切り抜いて集めてください。
1つの記事だけではなくて、最低でも3つ、4つ集めてもらえたらと思います。
そしてそこから、業界の傾向や顧客のニーズなど、なんらかの情報を読み取って、広報戦略や経営戦略として会社に提案をしてください。
情報収集は広報の重要な役割であると理解できたでしょうか?
本日はみなさんに、広報の業務の中でも、情報発信ではなくて、情報を受信することの重要性を学んでいただきました。
営業部など顧客との接点になる部署もありますが、広報セクションも社会との接点になる重要なポジションです。
大量の情報が溢れている中から、会社にとって意味のある情報を選び出して、経営執行者の意思決定の判断材料を提供することで貢献するという重要な役割が広報にあることを覚えておいていただきたいと思います。
本日の授業は以上となります。
みなさん、お疲れ様でした。
次回は、実際に広報の現場で活躍されている企業の広報担当者をお招きしてお話をうかがいたいと思います。
どうぞお楽しみに。
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