第9回「インターナル・コミュニケーション、社内報」
みなさん、こんにちは。
「広報リーダーシップ学」授業の9回目となります。
第8回の授業から少し時間があいてしまいましたが、いよいよ後半戦です。
今回は皆さんがよく知っている、社外に向けての広報ではなくて、社内の従業員・スタッフに向けての広報、「インターナル・コミュニケーション」についての講義をします。
なぜ社内への広報が必要なのか?
これまでの授業の中で、広報は社内の情報を集めて社外に報せることの他に、社内に報せる役割があることをお話ししましたが覚えているでしょうか?
”広報”と”広告・宣伝”とを同義として理解していると、社内に情報を報せる意味は理解できないかも知れません。
広報の重要な業務の一つとして「インターナル・コミュニケーション」があります。
「ビジネスの成功にとって、従業員が他のステークホルダーよりも重要であることを認識し、従業員に対して同じような配慮をするようになった」と『アージェンティのコーポレート・コミュニケーション』(東急エージェンシー , 2019)には書かれています。
『広報コミュニケーション基礎』(宣伝会議 , 2017)には、「会社とは人を育てるところ」という考え方があり、社員が社内で成長していくプロセスにおいて、様々な社内コミュニケーションが求められ、会社が利益をあげるためには、会社の方針や戦略を社員に伝え、一体感を持って生産性を高めていくことが大切で、そのために社内コミュニケーション活動が必要であると書かれています。
そして、「社員は社内外における様々なコミュニケーション活動にかかわっており、これらの活動をマネジメントすることは重要です。会社や社員一人ひとりに関わる双方向でのコミュニケーション活動をインターナル・コミュニケーションと言います」と定義しています。
また、同書によれば、インターナル・コミュニケーションには6つの目的があるとしており、それは以下の通りです。
興味があれば、本を読んでいただくのが良いと思いますが、ひとまず簡単に説明します。
会社が、オリジナリティや個性を発揮して、他社との差別化を行うこと、すなわちその会社の「らしさ」を磨くことが会社が繁栄していく上で必要なこととなります。
「らしさ」とは企業文化とも言えます。
企業文化を醸成して、それを伝承していくためには社内でのコミュニケーションが大切であり、経営者や経営陣が会社の理念やビジョンを伝えるトップダウンによる「タテの連携」、逆に、現場の思いや活躍、要望を吸い上げて上層部に伝えるボトムアップの「タテの連携」、会社が大きくなるとタテ割りのナショナリズムが生じることがありますが、部署間を超えて情報を広く伝える「ヨコの連携」や、他部署の上司や先輩、あるいは後輩との交流を通して視点を広げる「ナナメ連携」が必要であると考えます。
そして、従業員一人ひとりが社内の情報に詳しくなり、広報スタッフでなくても社外に対して良いスポークスパーソンになるといった「ソト連携」もインターナル・コミュニケーションの目的の一つとしてあげられています。
インターナル・コミュニケーション(IC)によって発揮される広報リーダーシップ
それでは次に、「広報リーダーシップ」の視点でインターナル・コミュニケーションの目的を考えていきましょう。
と最初の講義の際にお話をしました。
『広報コミュニケーション基礎』に書かれている、6つの目的のうちの2番目である「従業員のモチベーション向上への貢献」は、サーバント・リーダーシップを発揮することであると言えます。
また6つの目的の1番目にある、「企業理念やビジョンや方針を社内に浸透させること」は、インターナル・コミュニケーションの重要な目的ですが、従業員が会社の理念やビジョンに共感することによって、ロイヤリティを向上させ、会社の一員であることを誇りに思うようになります。
インターナル・コミュニケーションは、このように、従業員の、会社や仕事への思いを変える効果があります。
「従業員の価値観、目標、願望を根本的に変革させて、彼らが、自分の行動が報いられるという期待から外発的に動機付けられるのではなく、その仕事を行うことが自分の価値観に一致したものであるからという理由から内発的に動機付けられるようにするもの」(e.g.,Bass, 1985)とビンガムトン大学のバーナード・バス先生は変革型リーダーシップ(transformational leadership)を定義しています。
つまり広報は、インターナル・コミュニケーションを通して、変革型リーダーシップも発揮することができると言えます。
ICのツール「社内報」
それでは、どのようにインターナル・コミュニケーションを行うのかということですが、会社と従業員とのコミュニケーションの種類には、会議や朝礼、1on1などがあり、メール、チャット、イントラネットなどのツールが活用されています。
さらには、人事考課や福利厚生なども会社から従業員に対してのメッセージであり、コミュニケーションの一種であると言えます。
そうした中で、広報が担当するインターナル・コミュニケーションといえば、その代表的なツールとして社内報があげられます。
社内報には紙媒体として作られたもののほか、近年では、WEBやアプリ、動画を活用した社内報などがあります。
どんな業務でもそうなのですが、時の経過によって、やり方や手順は引き継がれていても、なぜそれを行なっているのか、意義やコンセプトがいつの間にか失われてしまっていることがあります。
社内報も例外ではありません。
社内報を発行すること自体が一番の目的となり、そもそもなぜ社内報を制作しているのか、その意味を考えなくなってしまうことはよくあることです。
せっかくたいへんな思いで社内報づくりを行うわけですから、目的を明確にして、コンセプトをしっかり持って制作に臨みたいですね。
そのためには作りっ放しにしないで、振り返りの場を持つことが大切です。
主観的な振り返りにも意味はありますが、読者からの客観的な意見はとても重要な学びとなります。
そのために、読者からアンケートや意見を集めるという方法があります。
また、客観的かつプロフェッショナルな視点で社内報を審査してもらえる場として、『社内報アワード』があります。
『社内報アワード』とはウィズワークス株式会社が主催する” 社内報企画コンクール” で、2002年から開催されています(旧称時代:「全国社内誌企画コンペティション」「社内報企画コンペティション」を含む)。
エントリーが有料であるのは、プロの審査員による審査(1企画につき3人の審査員が審査)が社内報を通した、企業のコンサルティングの意味を持っているからです。
『社内報アワード』は単なるコンテストではなく、「コンクール」「表彰・交流イベント」「ICP Session」とで構成されています。
詳しくは社内報アワードのホームページをご覧ください。
この社内報アワードの審査基準として掲げられている項目が、つまり、インターナル・コミュニケーションや社内報にとって、とても重要な項目であります。
単純に社内報を発行することだけを目的としてしまうならば、デザイン・ビジュアルやテキスト(記事内容)ばかりに注力してしまいがちです。
デザインやテキストも、社内報のクオリティを高めるという意味で、もちろん重要な項目なのですが、発行目的や編集方針、そしてそれをどのように社内報に落とし込むのか、構成や情報の伝え方はもっと重要なわけです。
そして、忘れてならないのが ”ターゲット” という観点です。
「私たちの社内報は誰に向けて作られていて、誰のどのような行動変容を期待しているのか?」をあらかじめ明確にしておくことは極めて重要なことと言えます。
社内報アワードにエントリーを行うと、毎号の企画立案時に、社内報の発行目的、編集方針に立ち返ることを意識するようになり、テーマや、その表現を行うための構成案についても考察するようになります。
そして、社内報アワードの審査基準の項目は、社内報発行後の振り返りを行う上での良いヒントになるので、エントリーシートを実際に記入することがその絶好の機会となります。
そしてもちろん、審査員の評価や書面によるアドバイスは的を射ており、社内報の具体的な改善につなげることができます。
社内報のポジティブ効果
社内報のクオリティが向上していくと、それを自覚できるできごとが起こりはじめます。
社内報を発行しても、興味・関心を持ってもらえず、表紙さえめくってもらえないことは、広報によくある悩みです。
しかし、良い社内報を発行しようと熱意を持って頑張っていると、「いつも読んでますよ」と声をかけられる機会が増えてきます。
声をかけてもらえるとうれしいので、私たち広報スタッフのモチベーションはあがり、自信になり、自己効力感が生まれ、もっと良いものを作ろうと思うようになります。
すると社内報のクオリティは高められ、さらに読んでくれる従業員が増えるという好循環が生まれます。
このような好循環のサイクルが回っているときに、社内報アワードに受賞などすれば、好循環はさらに加速するわけです。
繰り返しになりますが、社内報の発行は手段であって目的ではありません。
目的は社内報を活用したコミュニケーションによる、ミッション、ビジョンの伝達・共有、従業員のモチベーションの向上です。
社内報がきっかけで、他部署の社員から「読んでますよ」と笑顔で声をかけてもらい、広報という業務に興味をもってもらえること、社内報がきっかけで楽しいコミュニケーションが社内のあちこちに起こること、それこそが広報リーダーシップの成果であると考えています。
さて、以上で今日の授業はおしまいです。
今回は社内に向けての広報、インターナル・コミュニケーションについて一緒に学んでいきました。
次回は、インターナル・コミュニケーションの実践として、実際にキャンパス内を探索してもらい、社内報の特集企画や記事として掲載する内容を集める演習授業を行いたいと思います。
次回もどうぞお楽しみにしていてください。