骨粗鬆症の治療始まる~福相には騙されるな
リハビリ病棟へ移り
ナースステーションから一番遠い部屋へ変わると同時に骨粗鬆症の治療が始まった
へその横を一日一回消毒をして
自分でテリパラチドの注射をする
少しチクッとするけれど
すぐ慣れる
へその右と左、交互に打つ
初日は看護師がお手本でやってみせる
「ほら、簡単でしょう」
次の日からは自分でする
看護師の目が光る
ちゃんとできるかとチェックしていた
大丈夫、わたしの前の九十歳のおばあちゃんも自分でやっている
その人はかわいい人で医療従事者のみんなから人気者
「今はまだ注射をしたくないから」と看護師に頼んで、注射をナースステーションの冷蔵庫に戻してもらうこともある
自由に振る舞っている
いつもくる看護師はやさしいけれど
もうすぐに産休でいなくなる、さみしくなるな
でも他の看護師もやさしい、師長もやさしい
ところが一人、ブラックな准看護師がいた
リハビリの直前にやって来て注射を打てという
これからリハビリだから後にしてと言うけど、どうしても打てと無理強いをする
この注射を打った後は三十分安静にしていなければならないのに
(准)看護師のくせにそんなことも分からないのか…(いえいえ、知ってるはずだよね)
人の言うことに全く耳をかさない准看護師
ふと見ると言い争いしている最中に
やって来た理学療法士が無言で立っていた
しかも初めて見る実習生を連れている
おばさんが二人、揉めているを見て、目を丸くする理学療法士のお兄ちゃんと実習生のお姉ちゃん
揉めた挙げ句にわたしは「(持ってきた注射はナースステーションの)冷蔵庫に戻しておいて」と言い残して、リハビリに行く
強行突破
でも怒り爆発、もうプンプン
気持ちを落ち着けて落ち着けてと
自分に言い聞かせる
「あの准看護師はいつもあんなに強引なの?」と理学療法士に聞くと
黙ってうなずく
どうやら理学療法士よりも、患者様よりも看護師の方が立場が上と思っているふしがある
リハビリだって朝から時間を組んでやっているから、ずれると後の調整が必要となる
注射はリハビリの後でもいいのに
仲良くなった患者仲間Sが
その准看護師はリハビリの前を狙って骨粗鬆症の注射をする人たちに注射器を持ってくる
みんな年寄りで、できるならリハビリはやりたくないという利害関係が一致するから「はい、はい」と快く注射することを受け入れている
と教えてくれた
ブラック准看護師は福相で見た目は誰よりもやさしそう
病院の近くに住むわたしの知人が差し入れを持って来てくれた時
知人は見事に騙されていた
「本当はこの時間は差し入れは出来ないんですよ、でもまぁ(仕方ない)受け取ります」と言われていたという
コロナ禍で面会は出来ない時期だったけど、その時間はもともとの面会時間に当たるからそんなことを言われる筋合いはない
知人は「なんだ、謝らなくて良かったのね、あの福相にすっかり騙された」
嘘つくんじゃない
そうやって平気でいじわるをする
性格悪いよ、さすがブラック
他にも後から後からブラック准看護師の悪行はわたしの耳に入ってくる
担当の理学療法士は「家族が病院に苦情を言うといいよ」と教えてくれたが、息子は同じ医療従事者として二の足を踏んで、黙ったまま
ブラック准看護師は師長の後ろを腰巾着のように張り付いて、師長に言っても却下されるのは目に見えている
やさしい主任看護師にこっそり伝えると彼女のいる時はわたしをブラック准看護師から守ってくれるが、彼女は病棟にいつもいる訳ではない
何か策を練ろうと患者仲間のSがわたしより必死になって考える
「そうだ、主治医の院長に言えばいい。毎日顔を出す院長に…(一番強い)」
その日の午後、院長がやって来た
「ノリかなさん、調子はどう」
いつも温和な院長
「すみません、院長先生
骨粗鬆症の注射のことなんですが…看護師さんによって色々と対応が違って困ります」
「えっ!どういうこと」
「あぁ、わかった、わかった。僕からみんなに伝えておくよ」
とすぐに一件落着
でもわたしの骨粗鬆症の注射は基本
好きな時間にナースステーションの冷蔵庫まで自分で取りに行くことになった
車椅子で…
時々はやさしい看護師が冷え冷えの注射器を持って来てくれることもあるが
わたしの手間も増えた
痛み分け
それからブラック准看護師はわたしとは顔を合わさないようにこそこそとしだしたのである
めでたし、めでたし?
《2021年8月の話しです》