波動のはなし
あれは母方の祖母が彼の世に旅立ってから三年近く経った頃だろうか
わたしが晩に少し早目に休んでいた時に
わたしのことを心配そうに見つめる視線を感じる
わたしの身体は金縛りにでも合ったように自由にならない
上を見上げるとばあちゃんが覗いている
ばあちゃんは普段着姿
言葉ではなくわたしのことを心配してやってきたのだと顔を見て、分かっしまう
これが以心伝心と言うやつか…
彼の世があることは本を読んで知ってはいたが、わたしが実際にこの世にいないばあちゃんに出会ったのは初めてである
肉体のないものと有るものは波動が違うことが分かった
それから半年後、今度は昼寝中
ばあちゃんはお出掛けに着るオシャレな大島紬の着物を着て出て来た
笑いながら
「福井のご先祖とは話しがついている」と言って消えた
「福井の御先祖」とは一体誰なのか?
それから一年後「福井の御先祖」を持つ男がやって来る
そうわたしが学生時代に付き合った、ばあちゃんが会いたいと言うから一度合わせた男だった
なんだ…
結局、わたしは意気地がなくてひとりで生きるよりはと楽な道を選んだ
本当はとんでもない茨の道だと言うことも分からずに
それから少し時をおいて
今度は母方のじいちゃんも現れる
じいちゃんもすでに彼の世に旅立っていた
その時はもっと不思議なことが起こる
わたしは肉体を離れて宙に浮かぶ
わたしは空から地上を眺める
家から少し離れて流れる川がキラキラと輝いて見える
その時にじいちゃんの声を聞く
わたしではない従姉のKに対する伝言だった
Kに伝えると
「分かった」
「そんなの直接Kに伝えてよ」
わたしはもう見えなくなったじいちゃんに不平をつぶやく
宙に浮き、じいちゃんの声を聞いてから自分の身体に戻ると顔に西日が当たっている
波動が違うとは気力も体力もとてもとても奪われる
そんな体験をした
二十歳の頃、自分の身体から離れて、部屋の上からその身体を見つめることはあったけど…
あの時は「おいで、おいで」と呼ばれて、わたしが「うん」と頷いたら、恐らく肉体のない世界へ還っていたに違いない
気力も体力もあって無いに等しい異常事態
そうわたしは死と隣合わせ
彼の世とこの世には川というよりも、何かみんなが通れぬビリビリがある
じいちゃんもばあちゃんもそのビリビリの側までやって来た
これを三途の川と言うのだろうか
あのビリビリなんか怖くない
そう言えば最近は朝起きると異常にくたびれている
やっぱりあの世に行って戻って来てるのだろうか
何にも覚えてないけれど
身体は感じてる
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