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通院日
三ヶ月に一度、骨粗鬆症の通院をする日
いつもならすぐに入れる病院の小さな駐車場
今日はいっぱいだ
予約の時間にはまだ余裕がある
仕方なく空きを待つ
やっと空いた駐車場に車を止める
病院の入り口で手を消毒をして体温を測る
受付の順番表を取ろうとすると前のご婦人が二枚取ったと一枚をわたしに渡してくれる
ご婦人が受付窓口で
「Y 先生… 」と言っている
あぁ、やはりこの方も骨粗鬆症
わたしも受付の事務員さんに前のご婦人と同じことを言う
診察室の前、廊下に並ぶ椅子に座ろうとすると前にいたご婦人が 「ここにいらっしゃい」と自分の横を開けてくれる
「あなたもY先生」
「はい、骨粗鬆症です」
「えぇ?お若いのに」
「いえいえ、若くありません」
「いや、私より十分若いわよ」
それはそうか
昨年に腕を骨折して四ヶ月も入院したと話される
「えぇ?四ヶ月?」
「そうなのよ、家に帰っても一人だから先生がゆっくりしなさいって…」
二人でおしゃべりが続く
病院のそばのマンションで一人暮らしをしていると、母と同い年、子供はいない、ご主人は三年位前に亡くされた
今は本当にひとり
毎日お友達が電話で安否確認をしてくれるらしい
爪はピカピカに磨かれておしゃれさん
「いくつなの?」
人の歳を聞きかたがる
「昭和○○年ですよ」
「わたしは昭和○○年」
あぁ、母と同い年
この人は元気なのに泣きそうになる
「母と同い年ですね」
廊下ではわたしの見知らぬリハビリの療法士さんらしい人が通る
ひとつ置いた席の人が挨拶をしている
わたしが入院していたのはもう三年前になる
そんなことを思い出していると
「お母さんは」
と聞かれる
「母は一昨年に亡くなりました」
「あら、ごめんなさい」
別に謝らなくてもいいのに、わたしには母がいないことを人に言えたことがちょっとうれしい
ちゃんとわたしの時間は進んでいる
「大丈夫ですよ」
「子供がいれば、あなたくらいなのね」
独り言のようにつぶやく
子供が欲しかったけれど出来なかったと話される
やっぱりひとりはさみしいのか
二人で寄り添うように椅子に座る
そのご婦人よりも遅いはずなのにわたしの方が先に診察室に呼ばれる
ご婦人はわたしより予約時間が三十分遅かった、早めに来られたようである
「お先に失礼します」と診察室に入ると、いつも見馴れた医師がいる
「この間の血液検査の結果は良好だね、このまま薬は続けよう、次は三ヶ月後。次回はまた血液検査をするよ」
三ヶ月後はまた母の月命日、まあ仕方ないかぁ~と心の中で思う
もう会うこともないかもしれないご婦人に「さようなら」と挨拶をして、会計に向かう
世の中には孤独な人がいっぱいいる
一時のふれあいだけど人の温かさを感じる
母はしあわせだったのね
わたしの退院を心待ちにしていた母
一日も早く退院しなきゃと思えたわたしもしあわせだった
そんなことを思いながらひとりの家に帰る
なんだかどっとくたびれた
ひとりに慣れてきた
人とのふれあいは大切だろうが
その後にさみしさがやってくることを知る
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