ブロックチェーン技術を用いたプロダクトにおけるUXデザインの重要性について
DMMブロックチェーン研究室の@norinity1103 です。
暗号通貨の投機的なブームが去りはじめ、いよいよブロックチェーン技術で実現できるコトそのものに注目が集まって参りました。
今回は『UX Tokyo Hangout』にて事例として紹介したユニークなプロジェクトをネタに界隈のUXデザインの話をします。
循環するトークンエコノミーの形成とUXデザイン
昨今「ブロックチェーン技術」を利用したプロダクト開発のプロジェクトが乱立していますが、その多くが実現にいたっていません。
国家や教育機関を巻き込んで資本が集まったプロジェクトでも、「ブロックチェーン技術」自体が単なる手段として先行して本来の目的が達成されないケースが散見されます。
1つの要因として、手段が先行するあまり広義のUXの設計が怠られ、結果的に利用者にとって既存の体験より利用しにくいものとなっていることがあげられます。
単純に資本やユーザーを集めるだけでなく、そのプロダクトを中心にトークンを媒介とした循環するエコノミーが形成されなければ、プロダクトはもちろん、そのトークン自体の価値も失われてきます。
仮想通貨プロジェクト「Poop」の事例
仮想通貨プロジェクト「Poop」は、韓国政府が人間廃棄物と仮想通貨について研究する大学プロジェクトに100億ウォン(約8億6,500万ドル)を投資した取り組みです。
このプロジェクトは、名前の通り「人体廃棄物」を熱エネルギーや電気エネルギーなどに再資源化できる専用の施設(便器)を利用することで、仮想通貨の報酬を得るユニークなものです。
水面下でこんなプロジェクトが動いていたなんて...おトイレだけに!
現地の報道によると、韓国政府は蔚山(ウルサン)を拠点とする大学の「トンボンウィファッファ(標準通貨)」で販売されています。
人体廃棄物の提供者は、仮想通貨「kkul」(韓国語で蜂蜜)を得られます。この時点での報酬の値は1回の利用につき10kkulが提供され、ドル換算すると$0.43です。政府関係者は、2022年までに10kkulの値を約3.12ドルに引き上げられるように努力すると報じています。
回数なのか重さなのかは今後の詳細によりけりですが、いずれにしても十分な報酬を得るには、それなりに色々と頑張らないといけませんね。
少し気になったのが、相場を政府がコントロール出来る状況って結局、「中央集権」なんじゃないか?と思いましたが、あくまで環境エコシステムを研究するプロジェクトに対してでの投資で、恣意的な操作は含まないとのことです。
プロダクトが目指すビジョン
今後この専用の便器を公園などの公共施設に設置することで、より多くの資源「人体廃棄物」を集めること目指すそう。
このプロジェクトにおいて政府は今後5年間で韓国の町や都市で通貨の考え方を定着させると宣言しています。
生成されるエネルギーは都市電力を補ったり、全く新しいインフラを構築することができるでしょう。そして提供者は報酬を得ることができます。更に、このシステムが周辺の都市や町に波及することで経済圏は大きくなります。
最終的には、社会的に恵まれていない貧困地域の財政支援としても検討しているようです。壮大ですね。
このように、ブロックチェーン技術を利用したプロダクトはこのように明るい未来に向けて建設的な目的を持つものが今も世界中で進行しています。
新たなトークンエコノミーを一般に浸透させる為に
付加価値や報酬が得られるとしても、既に利便性が確保されユーザー満足度の高いプロダクトが存在していた場合、その体験を上回わる満足度と付加価値がなければ、既存のプラットフォームの代替にすらなれず、エコノミーとして浸透しません。
しかし、資本はあくまで資本であり、経済圏を循環・成長させていくのはユーザーとステークホルダーなのです。
そのため、エコノミーは循環しやすく、プロダクトは精神的にも物理的にも利用しやすいものでなくてはいけません。これは「IoTプロダクトあるある」との課題の類似点が見られます。
「安住の地」におけるUXデザインとは?
このプロジェクトを例に上げると「自分の糞便を提供することの精神的な敷居を下げるため」にどのようなアプローチで解決するかが重要になります。
また、我らが誇るMade in Japanの完璧なトイレ製品と、なにやらハイテクな見た目のトイレ施設、どちらが利用したくなるでしょう?答えは明らかです。
トイレでおこなわれるアクションはライフサイクルの一部であるならば、そこにあるUXの影響は甚大です。
目的のビジョンにたどり着くまでに、経済圏を構築するに至らなかったプロジェクトは、まもなく失敗を迎えることとなるでしょう。
逆に言えば最適なUXを導き出せば、ビジョンの実現はより短期間で達成できる可能性も秘めているということになります。
利用用途の拡張と新たなステークホルダーの発見
このトークンエコノミーのステークホルダーは「トイレを使う人だけ」で、さらに報酬である「kkul」が換金以外の利用用途を持たなければ経済圏が活性化しません。
人体廃棄物を提供する側が報酬を得て、換金するシンプルな構造でしかなく、さらに換金する際に取引所で手数料が発生してしまうと本末転倒です。
Ex:価値の転用
人体廃棄物のデータを研究者が収集し、利用者のあらゆる健康状態の管理や重大な病気の早期発見ができるだけでなく予防医学の発展に価値が転用できる。医療費の減額をしたり、法定通貨でない「kkul」で一部支払ができる。
Ex:価値の流通
このエコシステムでエネルギーが賄われている都市や街での消費活動で法定通貨とハイブリッドで利用できる。あらゆるサービス提供者でも気軽にkkulが所有でき、経済圏と共に価値が変動するため流通させるメリットが大きい。
このように、トークンエコノミーのマクロとミクロをバランスよく設計することで、ヴィジョンの具体化が進んでいきます。プロジェクトの「見える化」が望まれますね。
最後に
新しいトークンエコノミーを築き、浸透させることは、既存のプラットフォームや常識をぶち壊すこととなります。
ブロックチェーン技術を利用することで実現できる未来は、非常に大きな広がりを見せていますが、本来存在し、類似したプラットフォームや経済圏を体験しているユーザーは、十分な納得感と理解がなければ、体験の質を下げることはできないでしょう。
極端で急進的な改革は、分散型の経済圏を発展させていく主役(ユーザー)を置き去りにしてしまいます。
ブロックチェーン技術が世の中に熱量を持たせている今こそ、UX設計が必要とされる時ではないでしょうか。
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