(記述) 言語学の卒業論文の書き方〜やった方がいいこと・やらない方がいいこと編〜
「(記述) 言語学の卒業論文の書き方」という一連の記事では言語学における卒業論文の書き方について紹介したいと思います。
言語学で卒業論文を書こうという人が、どういうところに気をつけたらいいのか、どういうスケジュールで進めたらいいのか、そもそもどのようにテーマを見つけたらいいのか、などについて書いていこうと思います。
題名の通り、基本的には (記述) 言語学の卒業論文を書きたい人にむけた話ですが、もしかしたらそれ以外の分野の人にも役に立つかもしれません。
この記事では卒業論文の執筆中にやった方がいいこと・やらない方がいいことについて紹介します。
プロジェクトとしての卒業論文
卒業論文は多くの人にとって大学を卒業する際に、一生で一回書くだけの、特別なイベントです。
私自身も一回しか書いたことがありません。
一方で、ある程度の長い期間をかけて自分の設定した工程表のもと目的を達成するという意味では、卒業論文もふつうの仕事やプロジェクトと何ら変わるところはありません。
ここではプロジェクトとしての卒業論文という観点から、やった方がいいこととやらない方がいいことを紹介します。
❌️ 方針や内容がある程度固まってから相談する
⭕️ とりあえず相談する
❌️ 聞きやすい先輩や友人に聞く
⭕️ 指導教員にまずは相談する
❌️ 卒業論文では新規性にこだわるべきだ
⭕️ 卒業論文では新規性は気にしない[
❌️ 卒論は最初からできそうなことをやるべきだ
⭕️ 卒論は好きなことをやるべきだ
❌️ 卒業論文は一人だけでやるものだ
⭕️ 卒業論文は他の人と協力してやるものだ
❌️ 明日やろう
⭕️ 今日やる
ぜひこれらの点に気をつけて卒論に取り組んでみてください。
もしかしたら、これらのスキルは、卒論を書くときだけでなく、今後長期のプロジェクトを遂行する際に役に立つかもしれません。
❌️ 方針や内容がある程度固まってから相談する
卒業論文というのはほとんどの人にとっては最初の (そして最後の) 論文です。「はじめて書く論文だから、何をどうしたらいいかわからない!」と焦ってしまうのも当然ですし、「人生で最後に書く論文だからいいものにしたい!」と張り切る人もいるでしょう。
そうであるがゆえに「まずは自分で考えてみよう」「論文の方針や内容が決まってちゃんとした状態になってから指導教員に相談しよう」と考える人も多いようです。
しかし、これはおすすめしません。
「まずは自分で考えて」という習慣は確かに素晴らしいのですが、一晩考えても答えがでない問題はとりあえず指導教員に相談しましょう。
というのも、卒業論文は長期のプロジェクトとはいえ、各段階にかけられる時間はそれほど多くないからです。数週間も同じ問題で止まっている時間的余裕はありません。
特に卒業論文の終盤では「自分で考えよう」という判断が時間的に命取りになる場合もあるので注意してください。
⭕️ とりあえず相談する
卒業論文では、とりあえず指導教員に相談するという癖をつけた方がいいです。
たとえば、卒論のテーマを考えている段階では、アイデアの思いつきをいくつか持ち込む感じでもいいので相談した方がいいでしょう。あるいは「卒業論文で何を書いていいかわからない」という相談でもいいと思います。
調査段階では、データがうまく収集できないとか、結果が思ったとおりのものがでないというときも相談しましょう。
執筆段階では、節の構成やパラグラフの作り方について相談することもできます。
指導教員は既に多くの学生を指導したことがある場合が多く、そうでなくても指導教員自身も研究者です。卒業論文で起こるだいたいの問題はすでに本人が経験しています。
だいたいのケースにすぐに対応していろいろアドバイスをくれると思います。
卒論を書き始めるまであまり感じることはないかもしれませんが、文系学問の研究指導は一対一の面談で進むことが多いので、遠慮なく相談するとよいです。
授業の後のちょっとした立ち話でも十分です。
とりあえず相談するようにしましょう。
人生をある程度長く生きているとわかってくるのですが、相談を先延ばしにして事態がよくなることはほとんどありません。私自身、何度も痛い目を見てしまいました。特に、「このままでは書けそうにない」というときはすぐに連絡しましょう。
❌️ 聞きやすい先輩や友人に聞く
とりあえず相談するということが大切だといいましたが、「相談しやすい」「話しかけやすい」という理由で、卒業論文の相談を先輩の大学院生や友人にするというケースがあります。
これはあまりおすすめしません。
というのも、第一に、卒業論文の指導は教員の仕事です。仕事としてやっている人に聞きましょう。
第二に、先輩の大学院生や友人の情報は不正確だったり不適切だったりする場合があるからです。指導教員に比べて研究や指導の経験が少ないので、それはしょうがないことです。
あとで言うように論文を書くことは共同作業という側面もあるのですが、指導教員に相談せずに大学院生や友人の情報だけで論文を進めるのは危険だと思います。
「これぐらいのことなら先輩でも大丈夫だろう」と思うこともあるかもしれませんが、論文を書くことに慣れていない人には「これぐらいのこと」かどうかという判断ができません。
⭕️ 指導教員にまずは相談する
相談するときは、まずは指導教員に相談しましょう。
卒業論文の指導は教員の通常業務なので遠慮する必要はありません。(もちろん相談しやすい環境を指導教員がつくるということは大切です。)
さらに、指導教員は多くの場合、卒業論文の審査員も兼ねています。
もちろん、研究者としてよい論文がどういうものかも分かっています。
指導教員は教育的な効果も考えてすぐに答えをポンと出すことはしないかもしれませんが、わからないときに相談したらきっと何かアドバイスをくれるはずです。
相談するべき人に相談することは人生で大切なスキルです。
探しやすいところではなく答えのあるところを探しましょう。
(ついでに言っておくと、もし在籍大学とは別の大学の大学院に進学を希望する場合には、その大学院の先生に卒論について相談することは悪い考えではないと思います。
先生によって考えが異なるかもしれませんが、私は大学院に進学する前に、指導してもらいたい先生に早めにコンタクトをとっておく方がよいという考えです。むしろしてほしいと考えています。)
❌️ 卒業論文では新規性にこだわるべきだ
卒業論文を書くとき、特にテーマの構想段階でよくあることなのですが、新規性にこだわりすぎる人がいます。
特に、大学院に進学しようと考えている人や、「人生で最後に書く論文だからいいものにしたい!」と張り切る人が陥りやすい罠です。
新規性の罠に陥ると怖いのは、テーマ自体の新規性を追い求めすぎると、「先行研究があったらテーマとしてだめ」という状態に陥ってしまって何もできなくなるからです。
よく勉強している学生ほど、教員の側からみると面白いポイントがあるのに「先行研究があるのでこのテーマはやりません」と諦めてしまいがちです。
最悪の場合、どうでもよすぎて誰も研究しようともしなかったがゆえに先行研究がないテーマに行き着いてしまいます。
さらに、研究歴が浅いのだからしょうがないことですが、論文をはじめて書く学部生がぱっと思いつく新規性はあまり新規性がないという問題もあります。
こういうわけで、最初から新規性のことばかり考えてしまうのはよくありません。
⭕️ 卒業論文では新規性は気にしない
個人的には卒業論文で新規性を気にしない方がいいと思います。
もちろん新規性があるにこしたことはないのですが、卒業論文では気にしないでもいいと思います。
その理由は大きく三つあります。
まず、新規性が本当にあるかどうかは研究を実際にやってみないとわからないからです。
したがって、新規性のある研究だけをしようとすることは、「必ず値上がりする株を購入する」「必ず役立つ研究だけに選択・集中する」と同じで、無理なのです。
やってみないことにはわかりません。やってみないとわからないことをできると考えてしまうと研究は停滞してしまいます。
次に、新規性にはテーマ自体の新規性以外にもいろいろあるからです。
(記述) 言語学の場合には、新規性はテーマ自体であることもありますが、着眼点、方法論、データ、結果の解釈、一般化などであることもあります。
テーマ自体に新規性がなくても、研究が進むにしたがって新規性が出てくることもよくあります。むしろそちらの方が多いです。
なので、「先行研究があるから」「もうやられているから」という理由でおもしろいテーマを諦めず、指導教員と相談しながら考えてみてください。
最後に、最近では新規性だけでなく再現性にも注目が集まっているからです。
既存の研究と全く同じデータと方法で同じ結果が再現できるかどうか、既存の研究と同じデータで別の方法を試したらどうか、既存の研究と別のデータに同じ方法を試したらどうなるか?
そのような、ある意味では新規性に欠けると言えるかもしれない研究の重要性が最近高まっています。
特に、卒業論文ではそういう再現性に注目した研究こそ行うべきだと考えている研究者も世界にはいます。私もそれに賛同します。
❌️ 卒論は最初からできそうなことをやるべきだ
卒論のテーマを選ぶときに「学部生の段階でもできそうだ」という理由でテーマを選ぶ人がいます。
これはやめた方がいいと思います。
できそうなテーマは実際にできることは多いのですが、最初から答えがわかっていたり、答えがわかってもつまらないことが多いです。
さらに、大学院で研究を続けようとする人の中には、失敗を恐れるあまり、やる前から答えがわかりそうなコンパクトなテーマがやりたいという人や、大学院の研究計画との一貫性を気にしているという人もいます。
しかし、そういうことも気にしないでいいでしょう。
大学院の入試では、卒業論文できちんとした結果が出ているかどうかとか、一貫した研究経歴を持っているかどうかとかはどうでもよいと思います。
⭕️ 卒論は好きなことをやるべきだ
卒論においては、できそうなことよりも、本当に自分が興味のあることに取り組んだ方がいいでしょう。
おそらくほとんどの人にとって、卒業論文は人生で最後に書く論文です。
そんな卒業論文だからこそ本当に好きなことをするべきでしょう。遠慮はいりません。
今自分が勉強している学問で一番おもしろいなとか楽しいなとか思っていることを卒業論文のテーマとして選んでみたらいいと思います。
もちろん、そんなことをすると、論文になりそうもないテーマや、なりにくいテーマになってしまうこともあるでしょう。
しかし、安心してください。
そういうときのために指導教員がいます。無理そうなときややめた方がいいときは教えてくれるでしょう。
だからまずは自分のおもしろいと思う話を用意して指導教員に相談するようにしてください。
❌️ 卒業論文は一人だけでやるものだ
学問は、特に、論文を書くという作業は孤独なものです。
それは事実です。
その孤独が論文にとって必要なことも事実です。
学生のたまり場でだらだら話をしながら作業しても生産性がよくないのも事実です。
しかし、このことは卒業論文が一人だけで行うものであることを意味しません。
⭕️ 卒業論文は他の人と協力してやるものだ
人文系の学問の卒業論文も、一般に思われているよりもチームワークが大切です。
ここでいう「チーム」とは、自分の指導教員や、ゼミの先輩、後輩、同級生、もし言語調査をするならその言語の話者などのことです。
人によっては、自分の友だちや家族など、自分の書いたものを読んでくれる人なら誰でもチームに入れることができるかもしれません。
卒業論文を含む論文には二つの側面があります。一つは自分の研究を自分のためにまとめるという側面です。それはそれで大切です。
もう一つは自分の研究を他人に読んで知ってもらうという側面です。
このような自分の研究を他人に知ってもらう局面においては、特に、自分の研究をある程度進めた段階では、チームのメンバーからのフィードバックが重要になってきます。
私が以前書いた卒業論文のスケジュールでいうと、だいたい8月や9月の中間発表会あたりから、このチームでの作業が大きな意味を持ってきます。
お互いにお互いの論文を読み合う中で、実際に論文を書いているからこそ言えるコメントをお互いにすることができます。
書き手と読み手の両方の側面から自分の論文をみるためには、このようなチームでの作業がとても役に立ちます。
❌️ 明日やろう
「明日やろう」と思っていることは、明日になってもやりません。
たぶん一生やりません。
⭕️ 今日やる
卒業論文のように本当に大切なことは今日やりましょう。
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