ズル休み
低気圧のせいの頭痛が酷くて仕事を休んだら、仕事に行く気力が尽き果てて、頭痛はとっくにないのに次の日もその次の日も休み続けてしまった。
めちゃくちゃ忙しい時期を抜けて、ぷつんと糸が切れたかのような感じでずるずるとズル休み。
子供の頃からのクセである。
親によると、幼稚園もよく突然仮病を使って休むような子供だったらしいが、それは覚えてない。
物心がついた頃から、時々、何もかもいやだ、消えてしまいたいという気持ちが、なぜか心の底の方から湧いてくる時がある。
多分この延長線上に「死んでしまいたい」があるのだろうと思ったりする。きっと「死んでしまいたい」と思う人と自分とはそれほどかけ離れた人間じゃない、と思うようにしている。元々ネガティブなので同じチームだと思う。別に今、私に死にたい気持ちはない、120歳まで生きるのを狙っているし。多分延長線上の手前で対処できるかどうかが左右するのでは、とも思っている。
消えてしまいたい、という気持ちが出てくるのはもうどうしようもないのである。いつもの定期的なやつなので、抗わないようにしている。
学生の頃は、何もかも嫌で消えてしまいたい病がむくむくと湧いてきたら「しんどい」という理由を使えば割と簡単に学校を休めるということを覚えた。成績さえ良ければ休んでも咎めない放任主義の家で良かった。もともと私の体は弱い方なのでそれに伴い熱も出たりする。病は気からで、気で熱を起こすのである。
「休める」と決まれば体はスッキリして、熱は数時間後には下がり、ひたすら眠るかマンガを読んだり音楽を聴いたりして、誰もいない家でひとり時間を堪能していた。それを数日続けたら、何となく憑き物が落ちるように、いつもの生活、つまりは学校に戻っていけるのである。
小学校低学年の時は、ズル休みの日はずっと劇団四季のミュージカル「キャッツ」のカセットテープを繰り返し聴いていたし(だから今でも山口祐一郎ヴァージョンで全て歌える)、小学校高学年からはダウンタウンのラジオ「ヤングタウン」をカセットテープに録音して繰り返し聞いたり、4時になるのを待って、ダウンタウンの大阪時代の伝説番組「4時ですよーだ」を楽しみに見るような、ふざけたガキだった。
中学高校も、学校を時々訳もなく同じように休んだし、大学なんかはほとんど休んでいたような気もするし、大学院も休み続けてそのまま途中でやめた。これは別理由だったけど。
こんな私に会社員はとてもじゃないが務まらないと思っていたが、働いてみたらそうでもなかった。
学校と同じように「風邪をひいた」とか言って時々有休で休めたし、1〜3年で仕事は辞めて、適当に旅に出ればいいやという新たな道ができた。どうやら私は相当要領の良い人間のようだということが分かった。休んだらみんなに迷惑がかかる、と思い詰めるほど真面目じゃないし、いざ休むとなると、他の人のことなんか知るかよと思えちゃうくらい自己中心的でいられたし、休んでもそこまで責められないほど仕事はコントロールできていた。そしてそれなりに罪悪感があったりしたし、休み明けはがむしゃらに仕事をして取り戻せていた。
今の職場は長く勤めているが、これが出そうなタイミングで長旅に出て、日常から期間限定で消えることができていたから、本当の意味で消えずに済んでいる。
家族とか全部ひっくるめた人間関係を、ファミコンのリセットボタンのように押して(古いが常にイメージはそれ)、何もかもリセットしたい欲望に駆られる。
当時の恋人は私のそれを理解しようとしてくれていたが、本当のところでは理解してもらえなかった。そりゃそうである。他の誰も理解していないし、自分ですら理解不能である。
そんな訳で、この現象をあえて理解しようとはせず、久しぶりに仕事をズル休みして、だらだらと過ごした。
更年期のせいかなおさら体も怠い気がする。掃除するか本か映画でも…と思ったが結局何もしなかった。部屋は散らかりまくっているが目を背けた。
今再放送をしている大好きな坂元裕二のドラマ「最高の離婚」を見たら、瑛太が演じる濱崎さんが、「昔から長縄跳びでみんなが普通に跳んでいる所に入れなかった、普通のことが普通にできないんだよ」というようなことを言っていて、私もそうだと思った。私は多分、濱崎さんと違って、普通のことを普通にやれているように見せるのが上手だけど、それが続かなくて長縄跳びから抜けたくなるのだろう。このドラマは見るたびに響く言葉が違って面白い。
そうは言ってもいつまでも長縄跳びを抜けてぼーっとしている訳にもいかないので、どうしたものかと思い、気分転換に期日前投票に行った。
投票所は、普段滅多に寄らない町だったので、辺りを散歩して、バスクチーズケーキとフルーツサンドを買って帰ってきた。
フルーツサンド屋の同じ並びに、別のフルーツサンド屋が来週オープンという看板があって、ここにも闘いがあるのか、と選挙後にしみじみ感じた。
今流行ってるのかな。フルーツサンドは高いけどケーキと違ってパクパクと歩きながら食べていい気がして好きだ。だけどそんな近くで闘わずに分散してうちの近所に店を構えて欲しいものである。ここのはサイズが小さくて表面にもフルーツを乗せる珍しいタイプだったので4つ買った。
それと、バスクチーズケーキは、専門店のくせに、それほど美味しくなかった。いや訂正。美味しかったけど、バスクで食べたやつほどではなかった。そりゃそうだけど。
スペインのバスクのあの店で食べた時にめちゃくちゃ感動したなあとか、このバスク文字のAの上の横棒が好きで看板見ながら歩くだけで楽しかったなあとか、色々思い出してると、そろそろ戻らねば…という気持ちが出てきた。
そろそろ戻らねば。
槇原敬之の「ズル休み」を聴きながら、今回の消えてしまいたい病はそろそろ一旦終了かなと思っている。
明日は月曜日 会社をズル休みして
すいたコーヒーショップで
おなかいっぱい食べよう
煙草をとり出して
ぼんやりしてるうちに
ウエイトレスがカップと
気持ちまで全部片づけて行く
家に帰ってきて、わざと、気分の上がるチャイグラスにバタフライピー茶を入れて、バスクチーズケーキとフルーツサンドの残り(いくつか食べ歩きで食べた)を並べてみてiPhoneで撮ってみた。
なんか良かったので、そろそろ長縄跳びの輪に、「せーの」で戻ろうと思う。
こちらはスペイン、バスク、サンセバスチャン。
バスク文字の看板とバスクチーズケーキ。また食べたい。バスク文字のフォントはAとRがお気に入り。
La Viña
+34 943 42 74 95
https://goo.gl/maps/aHRwU86g5sMqXQ8t5