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帰ろうかな。散歩がてらに奥大日岳へ【雷鳥沢2021夏 5日目】
5日目も朝から雨、雨、雨。
雨雲レーダーをチェックしながら、今日もだらだらとテントの前室でごはんを食べて映画でも見ようかなと、のんびりした一日を始めることにした。
雨で靴下全滅により、ビニール袋靴下で過ごす昼下がり。物の豊かさよりも、心の豊かさが大切だわ、と格好つけて山を見つめる。
前室が昨夜の雨で水浸しの泥だらけになり、拭いたり水を吸い出したりしていたら、お昼前に、何となく山の空気が変わったような気がして雨雲レーダーを再チェック。
「30分後に雨が降ります」だったのが、「16時まで雨は降りません」に変わっていた。ほんまにこのサイトの雨雲レーダーは当てにならんなぁと思いつつ、雨が夕方まで降らないならさてどうしようかな、と考えてみた。
昨年の立山縦走で命を救ってくれた恩人くんと少しLINEをしていて、「奥大日岳へは小1時間(私の脚で2時間半くらいかな)の散歩がてらに行けるし、そこから運が良ければ剱岳が見えるよ」と教えてもらったので、ちょいと散歩がてら行ってみようかなという気持ちがムクムク出てきた。
奥大日岳は、いつも行く雷鳥荘の展望風呂から目の前に見える山で、途中までは平らな稜線を歩く道になってそうだった。
奥大日岳は立山を向いて左のほうにある山である。
命の恩人くんが言うには、あの平らでなだらかな場所まで行けば向こう側に剱岳が見えてくるらしい。「散歩がてら行ける」と山の猛者がそう言う。さて、山の素人はどうだろうか。どうせ天気は悪いし剱岳は見えないとしても、散歩がてらになるのかどうか、物は試しに行ってみることにした。
いつものようにグラグラの浄土橋を渡る。
川を渡って左へ進む。
歩きやすい道。見晴らしが良い気持ちいい道である。
と、のんきに鼻歌まじりに歩いていくと、やはりちゃんと登りのハードな道がやってくる。ゼェゼェハァハァタイムの始まり。だが、それも、30分くらいで終了。あっという間に稜線に出た。室堂乗越と書いてむろどう「のっこし」と読む。昨年見た「剱岳 点の記」の映画で香川照之が「のっこし」と言っていたので覚えている。
乗越をのっこしのっこしと歩く。気持ちの良い道。
天気が悪いので涼しくて良い。
体力がついたと言うか、高地に体が慣れてきた気がする。
雲がべったりと空に張り付いていて、面白いくらいだ。
奥大日岳の手前の開けた道で、急に右手に大きな山並みが見えてきた。
もしや。
もしやのもしや。
あの、ちょうど雲に隠れている部分って剱岳じゃありませんこと?
おおおー。
ツルギを感じる。
もはや、見えなくても剱岳を感じ取れる力を得てしまった私。
今日の昼ごはんは、ここに決定。
しゃけおにぎりに、昨日の残りのおでんをタッパーに詰めてきた。ここでランチタイム。
ゲバラマグには温かい台湾茶を淹れてきているし、ブラックサンダーもある。
完璧。
一番左の山並みが剱岳だと思われる。
てっぺんの三角形の部分がいつも雲で隠れているのだが、風が強いこともあって、おでんを頬張る隙に時々剱岳の先っちょをちょっと見せてくれたりした。
ずっと見てても飽きない。
ずっと座ってると少し寒いのだが、温かい台湾茶を飲みながらじっと雲が動いていく風景、剱岳を見ていた。
今回の雷鳥沢のキャンプも色々あったけど、満足感が込み上げてきた。
2日目にあんなに間近に剱岳を見てしまったけど、
3日目にバテて寝込んでしまったけど、
4日目も何にもしないつもりがすごく充実した時間を過ごせて、
5日目にお散歩がてら山を歩き、思いがけず剱岳を感じられたこと。
うん。
いい締めくくりになった。
ここで、終えていいな。
そろそろ帰ろうかな。
そんな気持ちになった。
奥大日岳の頂上へはもう少し登らないと行けなかったが、別に頂上に行くことはどうでもいいな。
ここで終わっていいな。
ここで引き返すことにしようか。
そんなことを思っていたらあっという間にまた雲に飲み込まれた。
今回、導入して使ってみたAR山ナビというアプリ。
アプリを開いて山に向ければ何という山かを教えてくれるという優れもの。
雲の向こうにiPhoneを向けてみた。
やはり、ちゃんと向こうに剱岳があるのだなと知る。
目に見えても見えなくても、感じる力。
なんとなくそんな壮大な力を信じる。
2日目のおでんのおかげで能力者となった私。
そろそろ15時になる。
雨が降らないうちに急いで山を降りようと、奥大日岳に背を向けて、来た道を戻ることにした。
行きはあまり目がいかなかったが、花がたくさん咲いている道だった。
チングルマが今年もかわいい。
雨に濡れすぎてスケスケチングルマ。
白いチングルマの花に混ざって時々ピンク色のチングルマが咲くという。ピンクのチングルマを見つけられたら幸せの印らしいと聞いて探して歩くと、あった。
わずかにピンク。
不思議。
ピンクのチングルマを見つけられたらいいことあるかな、と思って探していたが、見つけられたこと自体がいいことだと思った。
分厚い雲の下を真っ直ぐに降りて進む。
そして我が家に戻ってきた。
散歩がてらのちょっとしんどいバージョンだったが、それほど疲れはしなかった。だけど2日目のこともあったから、ちゃんと休憩して水分をとった。
テントを全開にして寝転ぶ。
ああ、やっぱりこの景色。曇っていても最高。
ちゃんと水分と休養を取り、雨が降り始める予定の16時まで休んだが、雨雲レーダーはまたもや外れて雨雲はどこかへ行ってしまったらしい。
明日の朝、撤収して帰ろう。
今日は最後の雷鳥荘温泉につかって、展望風呂から今日歩いた奥大日岳への道を見てゆっくりしよう。
最高の贅沢な時間になるだろう。
今日はご褒美にたっぷり保湿クリームを顔に塗って眠ろう。
最後の夜はまだまだこれから。
明日帰ると決めたのに、もう少しここにいたいなと思うわがままな私である。
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