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捨てた記憶のないものは…

先月の終わりと今月の初め、神田神保町の古本まつりに出かけた。
今年は目当ての本があったわけではない。
でも路上に所狭しと置かれているワゴンや臨時に設えられた本棚を見ると人ごみを縫って覗いてしまう。

そんな中、講談社学術文庫をたくさん並べている一角を見つけた。
青い背に白抜きの文字はよく目立つ。
「そう言えば」
と思わず身を乗り出して探した。
が、(やはりと言うべきか)ない。
なぜかふと思い出しては探してみる本だが、見つかった試しはなかった。

その本は私が大学生の時に履修していた授業の教科書だった。
別の大学の教授だった著者が私の大学にも非常勤講師として教えにいらっしゃっていたのだ。
最初は近世文学にはあまり興味がなかったが、講義の中で一文の中でいくつもの故事を踏まえ幾重にも伏線を張る作者のさいかく(西鶴/西鶴)にどんどん惹かれていった。
当時私の部屋にやってきた妹がその本を見つけ、彼女の大学にもその先生が出講していると聞き、本の内容とは別のところで盛り上がったことを折につけ思い出す。

古本まつりから戻り、どうにかもう一度あの本を読みたいものだと思い、近隣の図書館の蔵書検索をした。
だが所蔵はなかった。
しかたがないので相互貸借でリクエストを出した。

―そんな話を図書室にやってきた利用者にしたところ、「メルカリやアマゾンがありますよ」とわざわざ検索してみせてくれた。
確かにこの方法なら確実に手に入る。
メルカリはやっていないがアマゾンなら。

とりあえず置き場所を確保だな。
何気なく今までほうったらかしにしていた文庫を入れたケースを見てみた。
どれもカバーをかけていて、ぱっと見ではタイトルはわからない。
ぺらペらめくると家を出た娘が十年近く前に置いていった本も混じっている。
その中に!
なんと探していた本が見つかった。
青いものは鳥でも本でも家の中にあるというオチか。

相互貸借はいったんキャンセルだ。

電話したあと、とりあえず一行目を読む。
「恋は闇夜を昼の国」
このわずか八文字で表現することの多さよ。

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