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創作童話:かなちゃんのふしぎな帽子

かなちゃんは、小学校の2年生。ふわふわのくせ毛で、雨の日には、かみのけがボワーッと、ふくらんでしまいます。今日も、学校の帰りに同じクラスのつよしくんにからかわれました。

「お前の頭、ボワボワで鳥のすみたいやなあ。鳥のす、鳥のす、やーいやい」

ほかの男の子たちも、いっしょになってはやし立てます。

「鳥のす、鳥のす」
「ぴっぴぴのぴ」

かなちゃんは、涙をこらえて、走っておうちに帰りました。

かがみを見ると、ほんとうにクシャクシャです。
「お母さん、わたし、こんなかみのけ、もういや」
「そうねえ、何かいいほうほうはないかしらねえ」

「これは、どうかしら? おばあちゃんが大切にしていた帽子よ」
それは、タンポポみたいなきいろの、ベレーぼうでした。

「これで、どう?」
かなちゃんは、かがみにうつして見てみました。ボワボワだったあたまの上に、きいろのぼうしがちょこんとのって、その下にクリクリの目がのぞいています。

「うん、これいいかも」
かなちゃんは、さっそくぼうしをかぶって遊びにでかけました。

「おじょうちゃん、ぼうしがよくにあってかわいいねえ」
知らないおばさんにほめてもらったかなちゃんは、うれしくなってかけだしました。

すると、あたまの上から、とつぜん声がしました。
「あー、外に出たのはひさしぶり」
「えっ?」
かなちゃんは、立ち止まって、キョロキョロとまわりをみまわしてみましたが、風がそよそよ吹くばかり、だれもいません。
「おかしいな…」

また歩き出したとたんに、声がしました。
(なんていい天気なんでしょう)
「なに?」
かなちゃんは、首をかしげて、声の主を探しました。
「だれかいるの?」
声は、すぐ近くからするようです。

(ここよ、あなたのあたまの上)
かなちゃんは、ぼうしをそーっとさわってみました。
(やだ、くすぐったいわ)
かなちゃんは、まさかと思いながら、ぼうしを手にとってみてみました。うらがえしてみても、やはりふつうのぼうしです。

「へんだわ」
また、そーっとかぶってみました。
「あなたは、シズさんのまごむすめね。シズさんは、それは大事にしてくれたものよ」
「ぼうしがしゃべってる?」
「わたしは、かぶった人を幸せにするぼうしよ」
「そして幸せは、分けてあげるとふえていくのよ」

かなちゃんは、まだ信じられないようすです。
「でも、どうしたら幸せって分けてあげられるの?」
「それは簡単。みんなのいい所を、見つけてあげればいいのよ」
「そっかー」
かなちゃんは、帽子がにあうといわれて、うれしくなった事を思いだしました。

 ふと前を見ると、むこうからつよしくんが、下をむいてトボトボと歩いてきます。かなちゃんをからかった時の元気はどこへやら、なんだかしょんぼりしています。

「おう」
かなちゃんは、そのまま通りすぎようとしましたが、ぼうしが頭の上で、ささやきました。
(ほら、今よ)
「えーっと」
つよしくんが、立ち止まりました。
かなちゃんは思いきって、いってみました。
「つよしくんて、かけっこが早いよね」

つよしくんの顔が、パッと明るくなりました。
「うん、まあな」
つよしくんは、ちょっとはずかしそうに言いました。
「さっきはごめんな。テストの点が悪くて、しかられたんだ」
「あのテスト、むずかしかったよね」
二人は顔を見合わせて、クスっとわらいあいました。

そうしてずんずん歩いていくと、今度は仲良しのみどりちゃんが、通りかかりました。
「あら、そのぼうしかわいい!」
「うん、おばあちゃんの帽子。内緒だけど、まほうの帽子なんだよ。かぶった人を幸せにして、それを分けてあげる事ができるの」
「へー、すごい。じゃあ私にも分けて」

かなちゃんは、少し考えていいました。
「みどりちゃんは、絵をかくのが上手だよね」
「え、ありがとう!」
みどりちゃんのほっぺが、ポッと赤くなりました。

「幸せって、人のいいところを見つけてあげると、ふえるんだよ」
「ふーん。じゃあ今度は、かなちゃんのばん」
みどりちゃんは、一生けん命に考えました。
「かなちゃんは、幸せをふやす名人!」
今度はかなちゃんの心が、ぽかぽかとあたたかくなりました。

「さがせばさがすほど、ふえていくってふしぎだね」
「ほんとだね、ぼうしのおかげだね」

二人はもっと幸せを探そうと、進んでいきました。するとその時、ふわっと春風がふいて、帽子がもちあがり、風にのってどんどんとんでいきました。

「まってー」
二人は、帽子をおいかけて一生懸命に走りました。

気がつくと辺りには帽子と同じ、黄色のたんぽぽ畑が、一面に広がっていました。そして帽子はその真ん中で、お日様みたいにピカピカ光っていました。

「黄色って、幸せ色ね」 
たんぽぽ畑にねころがった二人の、軽やかな笑い声が聞こえてきました。


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