ショートショート 外部メモリー
日向「僕を誰だと思ってる。僕に不可能なんてないさ。」
うわ~本当にこんなセリフ言う奴いるんだ〜。と、内心笑いそうになりながらも、真面目に話す日向の話を聴いていた。
彼は、自慢してくることを除けば、アタマもいいし、面白いし、男前だし、何よりも周りの人を明るくする完全無欠の男なのだ。しかし、彼の今回のアイディアはどうも恐ろしい。いや、今までに一度も恐ろしくないものはなかったのだが…。
どうやら、彼は彼が開発したスマホに自身の脳の記憶を移植することができるようになったらしい。そうすることで、記憶に割いていた脳のリソースを他に回すことができるとのことだ。何を言っているのさっぱりわからないが、例えば、同じものをみても以前よりも溢れ出すような刺激をうけたり、コンマ1秒を争う場面でも多くの情報を処理できるようになったり、新たなアイディアを創り出せるようになったりするらしい。
日向「で、最近の僕は外から見て何か変わったかい?」
「実はさ、あんまりわかんないわ。強いて言えば、スマホ持つ時間長くなったかもね。」
日向の顔は蒼くなった。
日向「僕は他の人が思いつかないようなことを創り出すためにスマホに記憶を移植したのに…。」
日向は変わってしまった。
僕から見ると、以前のような異質さは無く、ずっとスマホを見ているようなパンピーだった。
ある日、顔を見ようともしない日向に苛立ち、日向のスマホを掻っ攫い、そのまま投げ捨ててしまった。僕はバカなので、彼の記憶が彼のスマホに全て入っていることを忘れていた。
「うわ、僕、ご、ごめん…。」
日向「僕を誰だと思ってる。僕に不可能なんてないさ。」
慌てる僕。
笑っている日向。
彼は記憶をなくしたほうがずっと日向らしかった。