実のなる木のある暮らしのすすめ
「頭の上を飛ぶ鳥の種類が増えるほど人の幸福度は上がるらしい。」
そんな話を聞いた。
確かに街なかでありふれた鳥じゃなく、見たことのない鳥を見かけると少しテンションが上がる。田舎に行けば山や畑の風景を見ながら動く物を見つけると瞬時に目で追いかけ、それが何かを確認したくなる。
高い木の上に止まる猛禽類や水辺に止まるカワセミや、キロロロとなくアカショウビンの鳴き声や、コンコンコンと木に穴をあけるコゲラの気配など、それらに気づいたときになんだか幸せな気持ちになる。
ただ、その話を友人にした時「俺は鳥が飛んでても幸せを感じないよ」と言っていた。…人それぞれである。
最近、学生と話をしていて感じることは、「社会貢献」や「まちづくり」などの言葉に対する反応が高いということ。
お金の量というよりも心的な満足を得ることの方に重きを置いているように思う。ある学生からは「幸福度」という言葉を聞いた。内地の学生だったけど、沖縄は全国で一番幸福度の高い県らしく、そのことにとても興味があるようだった。
「実際に生活してみて幸福を感じることがありますか?」と質問されたけど特に何も思いつかなかった。反対に不幸だと思うことも少ないのかもしれないけど、適当で緩い沖縄は規律やモラルも緩いと思う。でもそれは決してだらしないという事ではなく、人生にとって大切なものが何か?を本能的に知っているように思う。
規律やモラルで縛るよりも、楽しい方を選ぶことが容認されている場所。僕の好きな映画のワンシーンで「正しいことより親切なこと」というセリフがある。
そんな考えを正に体現しているのが沖縄なのかもしれない。
鳥と幸せの相関関係があるのなら、そもそも幸せな沖縄で頭上に飛ぶ鳥の種類(数ではなく種類。鳥がたくさん飛んでいたらそれはそれで怖いし、フンも怖い。)が増えた時、幸せのさらに向こう側に行けるのではないかと閃いた。鳥を増やすためには鳥の好きなものを用意すればいい。
鳥の好きなもの…。
僕は数年前にヤンバルで柑橘栽培を始めている。
農業を始めてみて思うことは、作物は常に何かに狙われているということ。鳥獣、害虫、病気やウイルス。それら敵から果樹を守るのが農家の仕事。子守役、護衛隊、そんな言葉が相応しい。実が色づくとき無数の鳥がやってくる。実際に昨年は鳥に収穫の全てを奪われてしまった。「一年かけて鳥の餌を育ててた訳だ」と皮肉り、その時は馬鹿馬鹿しい1年だったと悔やんだけど、視点を変えれば鳥を呼ぶにはこの上ない方法だということだ。
「実のなる木のある暮らしのすすめ。」そんな言葉が思いつく。
家の庭先や、自分の暮らす町に沢山の種類の鳥が飛んだ時、そこに暮らす人々は今よりも幸福度が上がるかもしれない。(そうでない人もいるけど、不幸になるわけでもない。)
かく言う僕は、フルーツタルト店を営み、柑橘農園に精を出す日々を送っているので果樹にはとても縁がある。
農園で過ごす時間はとても心地良い。農作業は体力勝負なので体はきついけど、農園を「ガーデンジム」と称し、筋肉痛を「ギフト」と呼んでスポーツジム通いをする経営者さながら楽しんでいる。
ランチの時間には、果樹の下にテーブルを出し、使い古しのテーブルクロスを広げてピクニックをする。日頃は目にも留まらない小さな虫を子供たちが見つけ会話が弾む。
収穫の時、作業で喉が渇いたら捥いだみかんを食べればいい。捥いですぐは酸味が少し残っていて火照った体には丁度いい。
汗をかいて作業した日には水浴びが気持ちいい。子供達は水着に着替え裸足で農園を駆け回っている。
農業を仕事として勧めるつもりはないけど、ただ暮らしを豊かにする一つの方法として、小さな農園を持つことをお勧めしたい。庭やベランダに果樹を植えその成長を楽しみながら、収穫の喜びを得る。鳥にお裾分けをして飛んできてもらい、その姿を見ることで幸福度が上がる。もし自分たちで消費できないぐらい採れたなら友人にあげればいい。きっと友人も採れた何かを持って来てくれるはずだから。
自分の農園を持つことが難しい人には、僕の農園に来て貰えばいい。「シトラスガーデン」と名付けて、これからみんなが楽しめる場所にしたいと考えている。
農園には「ピクニックカフェ」を併設する予定。注文の際には「テイクアウトですか?それともピクニックですか?」と聞こうと思っている。ピクニックを選んだ方には、テーブルクロスや、レジャーシートを貸し出して、食器に盛ったデザートやコーヒーのポットサービスを小さなカートに積んで、園内をコロコロ引きながら思い思いの場所でピクニックを楽しんでもらう。
季節が寒くなってきたらファイヤーピットを始動して、串に刺したソーセージやマシュマロをカフェで販売する。それを焚き火にあたりながら焼いて食べる。
焼いたソーセージを挟むホットドッグ用のパンも用意してるし、スモア用のチョコとクラッカーもある。
焚き火を見ていると心が安らいで、自己開示をしやすくなるらしい。だから知らない人同士が焚き火を囲んでソーセージを焼くと仲良くなる効果があるそう。
捥いだレモンをレモンサワーにして飲みながら焚き火をしてもいいし、お酒を飲んだら泊まって行ってもいい。
農園で目覚める朝もなかなか良いものだと思う。
…実のなる木があることや、それが植ってる場所があることで生まれる体験やコミュニケーションを、すでに幸せな沖縄で作って行けたなら、沖縄での暮らしが世界で一番幸せな場所になるかもしれない。
そんなことを目指して僕は「実のなる木のある暮らし」をぜひ皆におすすめしていきたい。