老人よ。あんたが偉いわけじゃないが。
【「老人」が活躍する時代】
知人が米国で快進撃を言われている研究開発企業を訪れた。その中枢の技術開発部署にいたのは60歳代以上の「老人」ばかりだった。同じような年代の彼は「俺もそろそろ引退かと思ったけど、まだ頑張れると思った」と、言った。その会社に若い優秀な人はいる。投資家との交渉などで、相手に良い印象を与えることが必要な部署が主だが。いや、自分も「老人」と言われる年代ではあるんだけれども。
【技術開発は「人」だから】
よく考えればわかるが、例えばロケット開発のようなものは、いくら優れた人でも、経験の短い若い人は間違いも多く仕組みもいくら勉強しても全部はわからない。「これから経験を積んでいく」のだから、彼・彼女が積み上げていく仕事では老人以上になることはない。特に技術は「人」に付くものであって、その人を会社が雇うので「会社の技術」になる。優秀で老練な技術者を雇い開発研究の仕事をしてもらう。それが現状では手っ取り早く利益を得られる道だが、同時に企業の長期に渡る継続のために若い人の次の世代を育てる、という役目も負う。だからこそ「成果」が上がる。その成果を他の会社よりも早く手にできる。表に出ない「文章にならない(できない、しない)ノウハウ」は今もたくさんあるから、技術はまだまだ人のものなのだ。特に高度な技術になればなるほど、表に論文さえ上がって来ない重要なものも多く、かつ、重要なのに使われる場面そのものが少ないので、AIの検索対象から外れることも多いからね。「生成AI」は多くの人を驚かせるためのものなので、AIがプログラムを組める、と言っても、高度でニッチで重要なものはもともとデータがなかったりするわけですね。逆に言えば、AIで組めるプログラムではこれから商売にならないよ、ってことです。みんなやってるから。
【老人はお金をかけて育てた「結果」】
現在の産業において「老人の技術者」とは「豊かな時代にふんだんにお金をかけて育てた投資の結果」である。それは現代においては強力な企業発展のための資源の一つなのだ。前記の企業も、米国が豊かだった時代の政府の宇宙関連の開発をしていた人たちや、その周辺の有名な製造業の技術者だ。特に技術を売り物にする製造業など、技術の分野ではそうだろう。営業など、その他の分野ではおそらく「人脈」や「人脈の作りかた」が、企業の経営資源としては強力なものになるだろうが、人には寿命がある。「人脈」は、後輩にそれを教えても、人同士のつながりである以上、時間とともに消えていく運命にある。人の一生以上の時間を生きなければならない「企業」では、その経営資源としての価値は、だからあまり高くないのだ。
【「若者の価値」】
若い人間の企業から見た価値は「体力」であることは明白だ。しかし、その「体力」がロボットなどのキカイに取って代わる時代がやがてやってくる。今でも、同じようなことが既にある。小さなある分野に特化した話だが、既に「経営者以外に社員はいなくて、AIが社員の代わりをする企業」が動き出しているという。
【ヒトの価値は「お金」だけじゃない。でもお金も大事だよね、という「矛盾」】
現代の資本主義社会においては、ときに「お金」はヒトの命を奪う。「お金」とは、製造業においてはヒトが生きていくための「人件費(保険等含む)」「仕入れ」「工賃(外注する場合)」「販売促進費用」などに分類されるが、要するに「お金」だけで考えれば会社なんて全部AIとITでやったほうが「安い」「高利益」「高売上」になる。お金は寿命がなく死なないし衰えもしないが、ヒトは寿命があり衰える。だから、長い時間でお金のほうが勝つに決まっている。しかし、人間社会で価値を持つ産業はヒトを生かすためのものだ。だから、資本主義とはこういう矛盾を抱えつつ、今ここにあるものだ。いま、AIが登場し、そのバランスが大きく崩れ始めている。それがどこかで安定するまで、この混乱は続く。