かつてインターネットは迫害を受けた。
【「インターネット」は白い眼で見られた】
インターネットを始めた当時の思い出って、いいことばかりじゃない。「女の子にモテない」と言われたくらいは、まぁ、ご愛敬の部類だが、目に見えないところ、あるいは見えるところで、本質的なところで迫害を受けていたのは自分でも感じたことがあり、おそらく実質的にそれはあった。
【マスコミ業界人の視線は冷たかった】
まず、マスコミの業界人も「マルチメディア」の掛け声のもと、様々なメディア進出をしつつ、まだ産まれたばかりのインターネットの規模も小さかった時代。ぼくらインターネットの関係者と見られる人間に会うと、刺々しい態度を取られたことは一度ではなかったのを思い出す。今テレビを見れば手のひらを返したように「ネットの話題」は毎日見る。今さら腹は立たないが、誰も「あの時は済まなかったね」みたいなことを言われたこともない。まぁ、そういう人たちなんだよな、と思うばかりだ。
【テレビ関係者ってこんなもの】
新聞関係者はともかく、特に露骨にいやな態度をしたのは、テレビ関係の人たちだった。なるほど、今の社会を見れば、それも当然だっただろうな、とは思うが、特に自分のように独立系でやっている、大企業に属さない「明らかなインターネットの推進者」は、はっきりと「自分たちが無敵でいられる秩序の破壊者」のような見方をされていたのだろう、と私は想像する。その業界のカンの良い人は、それに感ずいていたのだろうな、と思う。その通りになった、というだけではあるけれども。
【土木や建築の業界の事情】
また、ここ10年くらいの、日本政府こぞってのDX推進の前は、建築や土木の業界も、ITをあまり推進はできなかった。これは、私は迫害を受けた、というほどのことはない、というのは、ちゃんと言って置かなければならないのだが、なんとなくIT化推進には積極的ではなかったことは確かだ。これは当たり前の話だと思うのだが、土木や建築の業界、特に大きな規模の公共工事は、通常、多くの作業員などを必要とするため「人の確保」が重要な仕事の一つになる。裏を返せば、土木や建築の業界というのは「雇用」にも重点が置かれていた業界でもある。
【誰でもできる仕事での、たくさんの雇用が重要だった】
むしろ、日本の大規模公共工事は「大きなものを構築する」と同時に「多くの雇用の確保する」が重要な仕事だったし、いまもそうだ。これを逆転させて考え「実は巨大公共工事は雇用の確保のための方便だった」くらいに言っても良いくらい「雇用」「誰でも働ける仕事を作る」は、重要なものだった、と言っても良いのかも知れない(だからこそ政府からの補助金も多く、国土交通省は莫大な現業資金を持っている)。たしかに、巨大公共工事は大きな雇用を作るし、そうなれば役所の税収も上がる。政府としても「支出は多いが収入も多い」ことになる。ロボット・ITで「人を使わない」という「合理化」は、それまでの公共工事を行う業界の「秩序」の破壊者になりうる。だから、日本のこういった業界のIT化は遅れた、とも言えるのかもしれない。
【世界的な大津波「IT」】
しかし、世界的な資本主義原則に則ったIT化による合理化の波はすさまじく、かつ急激だった。この20年ばかりの、ごく短い期間でIT化は世界の多くのところで進んだが、日本という地域では進まなかった。「雇用」がキーだったのが日本の職業人口の流動を作らせなかった、とも言える。結果は「日本だけ沈没」と言われるくらい「生産性の低い地域」と、日本国内自身でさえも「日本」は言われるようになってしまった。
【「後進国」→「発展途上国」→「経済成長国」】
さらに時代は変わり、日本がかつて「後進国」と呼んでいた地域の経済発展が始まり、日本の多くの製造業も海外移転を始めた。今でもベトナムなどでの日本企業の工場は多く作られている。日本の巨大な工事では、日本人が作業員として来なくなったため「後進国」からの出稼ぎの外国人を雇う、ということをしたが、今は既にその「外国人」さえ来なくなった。わざわざ日本まで出稼ぎに行かなくても経済発展している自分の地元で仕事をしている方が良い、となったのだ。食えれば家族といられる地元が良い、ということだ。
【急激に機械化に向かう】
日本の巨大な公共工事は、構造変革を余儀なくされた。「日本人が来ないから外国人を雇う」→「外国人も来ないから機械化する」に、急激に時代が変わってきたのだ。
【ITという巨大な黒船。最後の黒船は「AI」】
「IT」という「黒船」はこの20年という短い期間で大きく世界を覆った。資本主義の原則を持つ限り「支出はできるだけ小さく」「収入はできるだけ多く」という「効率」を求めることは、全ての人が崩せない。であれば、いま、発展途上国と呼ばれている地域もやがて日本のようになっていかざるを得ない。いま「人工知能」という「最後の黒船」が世の中を覆い始めている。いや、その存在にやっと多くの人が気がついた、というべきか。
【資本主義の終わりが始まった?】
この社会に、かつてとは全く次元が異なる変化とスピードを、私たちIT関係者はもたらしたと言えるだろうが、一方で資本主義の終わりも、どうやら近くなったのかもしれない。やはり「ITは社会変化の触媒」だったのだ。しかし、私たち人間はその後の人間社会が存続するための新しい「原理」をまだ持っていない。いま、私たちはおそらく、こんなところにいるんじゃないだろうか?