「世代間の引き継ぎ」の話。
【「営業先リスト」はただのリストではない】
例えば、営業の客先リストはただの名前の羅列ではなく、その1行1行に至る様々な経過があって、そのリストに載っている。先方の担当者、社長などといった人たちとの長い付き合いによる信頼関係もあるだろう。そのリストを他人にそのまま渡しても、実際にそれが有効になることはまずない。お金になることもないし、人生を豊かにする出会いなども生まれることは殆ど無いだろう。リストの裏に、そこには書ききれないものが山のように隠れている。そんなことが多いものだ。そのリストの価値を得るには、それ相応の努力と投資が必要になるはずだ。逆に言えば、そのリストの一行は「結果」であって、その結果(お金とか)をそのまま得るには、リストの一行に加えられるまでの同じ苦労と時間と投資が必要になる、ということだ。
【リストには無いものが重要】
仕事における人の信頼関係、というものは更にそうで、自分の親族、自分の交友関係、などなど、それをそのまま他の人に引き継ぐ事はできない。無理に引き継いだとたんに、それらは無意味な文字の羅列に成り下がる。「他人では替えられないもの」は、確かにある。それがない・あるいは少ない、という人もいるし、あまりに多くて大変という人もいる。
【申し送りができないものはやはりある】
一般的に、年齢が上がったり、社会的地位が上がっていくと、どの国や地域でも、こういった人の関係というものは、複雑になり「リスト」で申し送りできるものは少なくなっていく。
【技術も「引き継げないもの」が多い】
実は技術もそういうところがあって「Aさんが退職時に置いていったこの実験の方法ではうまくいかない」ということも多い。論文などで表現できるものは通常はごく一部で、論文に至る背景や人間関係のほうが実は重要だったりするから、結局「個人技」にならざるを得ず、引き継ぎができないものは山のようにある。SF小説であるような「XX博士の研究資料の奪い合い」みたいなものは、あるように見えて無い。せいぜいが論文や特許くらいだが、それらのものは通常は公開されているもので、スパイ合戦でドンパチやって奪うようなものではない。
【「見えないもの」が社会を支えている?】
要するに人の社会の成り立ちは単純ではなく、複雑で、それ故にその中にいる人自身でも気が付かず、言葉にもできないものを多く含む。それが人間の社会を成り立たせている、ということが結構ある。そして、社会的地位が高い人ほど、社会経験も多く、そういうものを多く持つ。
【「アヤシイ企て」は失敗する】
だから、若い人にありがちな「あいつはいいものを持っているから、横取りして自分のものにしてやろう」という企ては、うまくいかないばかりではなく、その社会のバランスを崩し、その社会全体をおかしくしてしまい、自分が立っているその場所をも壊してしまう、ということが多い。
【「後継者を考える年齢」で思うこと】
私も後継者をいろいろ考えなければならない年齢になって、いろいろ考えるのだが、やはり後継の人に継いでいくことができることとできないこと、長い時間と訓練を経なければ手にできない人間関係などもかなり多いものだな、ということがよくわかる。私程度の社会経験でも、社会のバランスを崩さずに、いかに持っているものを引き継ぎ、いかに次の社会に役立てるか?というのは自分的にも「大事業」にならざるを得ない。
【自分の場合は「日本標準」ではないが…】
特に自分の場合は、自分のキャリアが日本という地域ではかなり特殊なもので、一般的でないだけでなく、自分の出自、生まれ育ちも、かなり違う。「日本人の標準」ではないことが結構あるので、キャリアも訓練してきたことも違うし、思ってきたことも違う。
【「特殊」は特殊ではなかった時代もあったんだ】
ただし、これも私に限ったことでもなく、今の日本でもかなり多くの人が、それぞれにこんな感じなのだろうな、と思う。自分は特殊ではあるが、他にも特殊な人は何人もいる、という感じで、おそらく高度経済成長期とその後の「豊かだった日本社会」に、それでも(規格外でも)生きてこれた、ということなのかも知れないな、と思っていたりする。「特殊なこと」が特殊では無かった時代、なんだな。経済的には「インフレ利潤のおすそ分けを頂いた」という感じなのかもしれない。社会全体が豊かであるがゆえに多様性を許され、好きなことをやってこれた、というラッキーは、今の若い人の多くにはない場合が多いんじゃないか?と、見ていて感じることは少なくない。
【「世代間引き継ぎ」の難しさ】
こういった世代間の「引き継ぎ」を頭に置くと、社会の変化の様々なものが見えてくる。結局「引き継げるものに限って引き継ぐ」には落ち着くのだろうが、社会の変化でそれが陳腐化するものだってある。だから、しっかり周囲を見つつ、それをしていくしかない。
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