最新のスマホのトレンドは「衛星通信」へ行くのか?
【iPhone14の目玉機能の1つが。。。】
Appleは、日本時間の9月8日午前二時に、iPhone14を始めとした新製品発表を行った。その発表を眠い目をこすって見ていた人は多いはずだ。私は、なかなか眠れずにいたので、ついつい見てしまった、というのが正直なところだ。その中で、眠くならない私の目を、意地悪なことに、更に覚醒させたのはiPhone14の新機能である衛星通信でのメッセージング機能だ。山の中、海の上で、全く基地局が無いところでも、SOSのための文字テキストを送信・受信できる、というiPhone14の機能だ。
【中国HUAWEIも】
一方、中国のHUAWEIも、スマホの新製品「Mate 50」でも、同様の機能が搭載されることを、既にアナウンスしている。おそらく、AppleもHUAWEIも、衛星通信のチップやモジュールの量産が安価にできるようになった、ということだろう。
【衛星インターネットは今はまだ機器が大きく電力を食う】
スピードの早い、一般人が使える衛星インターネット接続データ通信は、既にイーロン・マスクの「SpaceX」社が市販していて、YouTubeなども盛んに「うちにも導入しました」などの動画が上がっている。ウクライナ-ロシア紛争でも、インターネットインフラ確保に、ということで、イーロン・マスク氏自身から、ウクライナ政府に衛星通信ユニットとアンテナが送られたのは、記憶に新しい。しかしながら、SpaceXの現在市販されている装置は現代の普通のスマートフォンに使えるほどの通信スピードは持っているものの、消費電力が大きく、アンテナも大きくて重いアンテナを外付け設置する必要がある。日本ではまだそれさえ使えない。日本上空での一般人による衛星通信の電波の送受信はまだ法整備も全てができていない。
【スマートフォンの最先端:衛星通信】
そうこうしているうちに、スマートフォンの「最先端」では、大電力もアンテナ(実際に導入してみるとルーター付きのアクティブフェイズドアレーだったが)も必要のない「スマートフォンだけで衛星通信」の時代が始まろうとしている。これまでは安くても数十万円はした衛星を直接通した電話やテキストデータの送受信が、手元のスマートフォンで出来るようになる。おそらく、この先はそれが更に進み、通信速度の改善(現在のスマートフォンに搭載されている衛星通信機能はあまり速度が出ないので高精細の画像を送ることさえできない)も実現していくことが、あちこちで言われている。当然だが、一般的になってくると、その通信料金も安価になっていくだろう。
【衛星通信はどこで使えるか?】
実は前述のようにSpaceX社の衛星インターネット接続は日本では、このnoteを書いている時点では使えない(その後実際に導入した)。同様に、iPhone14の衛星通信もまだのようだ。そして、iPhone14の衛星通信は、中国本土では使えない。一方、HUAWEIのMate 50の衛星通信も、米国本土では使えない。これはそれぞれの衛星からのビームが制限されているためだが、やはり世界がつながるこの時代には、人類には紛争そのものがそぐわないのかもしれない。本来、通信衛星の電波は国境を越えるのが当たり前だからだ。
【これからは公衆衛星通信の時代?】
良く考えれば、世界での紛争は広がる可能性を見せており、スマートフォンをスマートフォンたらしめる地上の通信インフラは破壊されることもあるし、実際、今回の紛争だけではなく、破壊されているのは見ての通りだ。しかし、人間の地域間紛争が国境を越えるインターネットを必要としている、というのは皮肉でしかないんじゃないか?一方で人間の活躍するフィールドは更に広がっている。都市部ではない場所などでインフラが無い地域での通信には、いま以上に多くのデータ通信需要が見込まれる。であれば、この時期に普段使っているスマホからの衛星通信を実現することには、人間の活躍のフィールドを広げる、という意味で、大きなものがあるのかもしれない。
iPhone14/Appleが始めたのは「公衆衛星通信時代」という新しいスマホの時代なのだ。
「円安でiPhoneが高い」と、日本のスマホのマニアがゴタゴタ言っている間に、世界のスマホは次の時代を迎えようとしている。
※ 2023年3月、米国ワシントンD.C.で開催された「Satellite2023」において、AmazonがStarlinkの対抗サービスとなる「Project Kuiper」を発表した。また、Starlinkは、世界中どこでも使える「Roam」サービスを開始、と、発表し、T-mobileの5Gを衛星経由で使えるサービスを考えている、とのこと。また、今年1月にはCES(Consumer Electronics Show)で、Qualcomm社が「Snapdragon Satellite」を既に発表している。「スマホだけで衛星通信」の時代が目の前にあるのを感じる。現状の盛り上がりを考えると、おそらく5年以内には「衛星インターネット」の時代が来て、スマホから直接衛星につながる世界が来るかもしれない。既に英国の衛星インターネット提供をする会社「OneWeb」は、打ち上げている衛星の数(600個超)からしても、Starlinkのそれ(計画で1万2千個、2022年末現在で4000個超)を大幅に下回っており、これからは米国発の衛星インターネットに主流が移ることはおそらくかなり確実なところと考えられる。また、このビジネスに参入しようとして開発していた日本の「H3ロケット」は、2022年の二度の打ち上げ延期と失敗で、2023年第1四半期の時点で、明らかに追いついていない。
なお、Washington D.C.で開催されたSatellite2023でのAmazonのProject Kuiperの開発責任者のインタビューが興味深い。既に衛星用の5Gの統合チップなども作られていることなど、多くの情報が語られている。このビデオを見ると、Amazon/ProjectKuiperで使われるアンテナの小ささにまず驚かされるが、その裏側にはかなりの技術の蓄積があることが見て取れる。
【衛星インターネットの技術のコア】
様々な情報をあわせて見ると、衛星インターネットの技術は、低遅延を実現するための低軌道の衛星に、5G/6Gの技術を基礎とした基地局を載せた事によって実現されるようだ。そこで問題になるのが、低軌道での衛星のカバー範囲の狭さと、数万という衛星が常に上空を動く事により接続されては切れる、を繰り返すことによる「通信の途切れ」だ。実はこの通信の途切れを解消するのに、3Gの時代から地上の携帯電話網などで使われている「ハングオーバー」の技術が使われている(高速道路や鉄道で移動中に通話中の携帯電話で地域の基地局が切り替わっても安定して通話ができる技術)。この技術は既に20年以上の蓄積があり、当然これまでの間に大きく発展している。また、動的なメッシュ接続の技術も、元はと言えば地上の携帯電話網で培われてきた技術だが、更に元をたどると、それ以前からある技術だ。これらの技術を「低軌道・多数の衛星」の地上基地局、スマホと衛星の両方でフルに使う事により「地球上のどこでも安定して高速のインターネット」を作る事ができる、と言う訳だ。別の言い方をすると、既存技術の組み合わせの妙、という感じだ。軌道上の数が限られる「静止衛星」でなくとも、無線通信であれば安定・高速な衛星通信ができるようになった、ということだね。
【衛星ビジネスの重要度】
ということは、おそらく、これから年間で何万、ことと次第によっては何十万の「一般消費者向けインターネットインフラ衛星」の打ち上げが始まる。「おそらく」ではなく「確実に」だろう。であれば、低価格の衛星打ち上げが、金額的にも規模的にも非常に大きなビジネスになる。日本でもH3ロケットではその市場参入を狙っている。この「ビッグビジネス」に日本という地域の産業が乗れるかどうか?というのは、地球規模のインターネットの世界=情報交換の世界、をどれだけ支配できるかどうか?にかかっているから、たくさん失敗をして、多くの知見を得ての確実な商用衛星の安価な打ち上げビジネスを作ることが重要になる。
2023年は衛星によるサービスが熱い。いや、それが始まったのが2023年だ。