海外製スマートフォンを日本で使う。
【「技適なし」でも「適法」】
最近は「外国版スマートフォン」を日本でも簡単に通販サイトなどでも買うことができるようになった。そのいくつかには日本での「技適」が取れていない、技適マークの無いものがある。そんなスマートフォンを紹介するYouTuberなどに「それは違法だ」を言って回る「(通称)技適警察」なる人たちもいる。私も「こりゃ大変だ」と、手元にあるスマートフォンなどを調べてみたが、今のところ私の手元には「技適」の無いスマートフォンは無いのは確認した。ついで、といってはなんだが、なにかと騒がれている「技適」について、少し深堀りしてみることにした。
【「技適」とは】
「技適」とは「電気通信事業法に基づく、技術基準適合認定」のことで、総務省が定めており、総務省の関係機関が、電波を利用する部品や製品などに対して「技適マーク」を発行し「技適の通った製品・部品」と「技適の通っていない製品・部品」を分けている。技適を取得した製品には「技適マーク」が付けられ、識別できるようになっている。これらのことについては総務省のこのページに詳しい。そしてこのページの説明を良く読むと、技適マークのついていない無線機器の利用は「違法(電波法に違反)の恐れがある」と繰り返し書いてある。ここで注意が必要なのは「恐れがある」のであって、正確には「違法」である、と言うことではない、ということだ。では、どんなときに「技適」の無いスマートフォンが「違法」になるのだろうか?
【電波法を良く読むと】
日本国で定められている電波法(e-Govのページ)を良く読むと、発射された電波が違法な電波と認定されるには「段階」がある。まず、その機器での電波の利用が、他の適法な電波利用者の利用の防げになった場合、それを政府(電波監理局)が発見し、違法な電波発信者に対し、その電波の利用が違法である可能性があると認定し利用者に違法な電波の発射をやめるよう通告し、直ちにその電波の利用をやめるように命令できる。この違法の認定に伴う電波の停止の命令に従わないで利用を続けた場合、総務省は他の警察などの取締の権限を持つ政府機関に通報し、違法な電波の発信者として、それを取り締まりの対象にでき、逮捕や罰金などの量刑を課すことなどができる。これが「ある電波が違法となるまでの手続きの順序」である。
【「技適なし」は「違法」ではないが「違法の恐れあり」ということ】
これらの文書を詳しく読むと、簡単に言えば「技適なし」=「即違法」ではない。「技適なし」無線設備を利用し、他の適法な無線設備に妨害等の不利益を与え、総務省に不利益の通報があった場合、総務省は違法な電波利用をしていると認定した設備利用者の行為を違法と認定できる。違法認定されると総務省は電波停止の命令ができる。この命令に従わない場合に違法となる。
【なぜ「技適なし=即違法」ではないのか?】
なぜ「技適なしの無線設備=即違法」ではないのか?と言うと、例えば「技適が取れていない開発中の無線設備を「電波暗室」のようなところで使うこともあるし、地下深いトンネルなどの施設の中で使えば、そもそも電波は外部の妨害には出ていくこともない。そういう電波利用も想定している。こういった場合は誰に対しても不利益を生じさせないはずだから、違法とは言えない、ということもあるからだ。こういう利用まで制限をかけると、研究開発の制限などにつながってしまい、産業の発展を阻害することにもなりかねない。要するに、他の適法な無線設備に全く悪い影響を与えないのであれば、その無線設備が技適の適合機器であろうがなかろうが、関係ない、ということだ。
【技適マークがあっても】
一方で、技適マークがついているスマートフォンでも、その電波が他の通信に悪い影響を与え、それが違法な電波であると疑われる場合には、場合によってではあるが、電波管理局からの命令が行われ、利用停止となることもないわけではない。その命令に従わなければ、当然「違法」となる。普通のスマートフォン利用では注意が必要な場面はまず無いものの、覚えておくと良いかもしれない。
【「技適なし」は違法ではないが不利益がある】
とは言うものの、例えば「技適なし」のスマートフォン等の無線設備は携帯電話会社では扱われない(売らない)ことになっているし「技適なし」のスマートフォンを基地局に接続するときに、それが「技適なしのスマートフォン」と基地局側でわかったら、携帯電話会社に接続を切られても文句は一切言えない。それが携帯電話会社(キャリア)の規則だからだ。だから、安心してスマートフォンを使いたい場合は「技適なし」の機種は使わないほうがいい、ということになる。逆に言えば、そう言うリスクを承知なら、技適なしのスマートフォンを使っていてもいいですよ、ということになる。
【もしもあなたが「技適警察」だったら】
もしもあなたが、YouTuberでスマートフォンなどの海外ガジェットの利用紹介動画を通報する「技適警察」であった場合「いかに気に食わないYouTuberを凹ませるか?」という視点でこの法律を考えて見よう。一番意地悪なヤツになったつもりで、考えて見る、ということだ。
(1)まず、海外ガジェットを紹介しているYouTuberを発見する。そして、そのYouTuberを2箇所、(A)「携帯電話キャリア」、(B)「総務省・電波管理局」に「不利益を被った」と通報する。
(2)電波管理局ではそこで「どんな不利益があったか」を通報に従って調べる必要があるので、技適警察(あなた)にその証拠を求めることがある。それを求められた場合、あなたはそれを証明する証拠を虚偽ではないと証明する必要がある。もちろん、不利益の申告には、自分の住所氏名その他の公的な証明も必要になる可能性はある。
(3)携帯キャリアでは、そのSIM(契約情報が書かれたICチップカード)などの契約があるスマートフォンが誰のものであるかを調べ、利用停止が必要であるとわかったら、そのYouTuberの使っているスマートフォンが基地局につながらないように設定できるかもしれない。技適警察(あなた)ができるのは「通報する」ところまでだ。その先は各携帯通信事業者の判断による。
と、こんな感じになると想像できる。技適警察をやるのも、けっこうたいへんなのだ、とは思うが、時間が余っている人はできないことではないと思われる。
【電波は適正な利用を】
「電波は限られた資源」と言われている。そのため、国などの地域ごとに非常に厳正な法律が定まっていて、これに適した利用がされないことが、他の無線設備への妨害などで発覚し、利用停止の命令に従わないと、刑事罰も適用されることがある。地域によっては、許可のない無線設備の所有そのものが法律で制限されている地域もあるし、電波の受信だけしかできない無線設備でも(利用しても他人に迷惑がかからないことが明白でも)、政府の許可なく所有しているだけで違法になる地域もある。
日本での無線設備としてのスマートフォンの利用にあたっては、それが、その地域で適正なものと認定されたスマートフォンであるかどうかを「技適マーク」で確認しておくのが良いのは、言うまでもない。