野球の試合を見る時のポイント
前回は試合の記録をつける時のノートについて書きましたが、どんなデータを取っているかが中心だったので、今回はどんなポイントでプレーを見ているかについて書きたいと思います。
ただ全ポジションについて事細かく触れていくとかなり長くなるので、まずは大まかなポイントについてまとめました。
・試合前から人とは違う選手に注目する
同じ日に複数の球場を回るケースではできないこともありますが、基本的には試合前の練習からなるべく見るようにしています。アマチュア野球の多くのケースはキャッチボールからスタートしますが、東京六大学やプロの場合はフリーバッティングが見られるケースもあります。
重要な情報源となるのはシートノックです。特に外野手などは試合の中では肩の強さを確認できないことも多々あるため、返球の強さ、正確さなどはノックの時点で確かめる必要があります。
事前に注目する選手をリストアップしている場合も多いですが、ノックの時点では全員しっかり見ることを心がけています。そして何に注目しているかというと、他の選手と良い意味で「違う」かどうかという点です。抽象的な表現になりますが、良い選手と言うのは佇まいや雰囲気から違うものです。シートノックの前に内野手はベースについてボール回しからスタートすることも多いですが、最初の一球を受けた姿、投げた姿から明らかに違うこともよくあります。また、自分がノックを受けていない時の動きや視線も違う選手はよく目立ちます。こういう部分には普段から高い意識を持って野球に取り組んでいるかどうかが出てくるとよく感じます。
もっと言うと、その選手が動いていなくても伝わってくるものもあります。野球をよく知らない女性に「どの選手が上手く見えるか?」と聞いても、大体雰囲気で伝わるという話も聞いたことがありますが、あながちでたらめでもないと思っています。一昨年のドラフトの前にカープの苑田スカウト統括部長が佐々木朗希(ロッテ)を評して、「バスから降りてくる姿もかっこいい」とコメントしていましたが、それだけ佐々木の佇まいが人とは違うことをよく表したエピソードだと思います。『偉い』という字は『人と違う』と書きますが、野球の現場でも小さな部分で人と違う選手と言うのは目立つものだと常々感じます。
・現場だからこそ見られるものが価値がある
私は現場でしか得られないものをどう伝えるかが重要だと思い、日々球場に足を運んでいます。最初に触れたシートノックや中継映像で写っていない部分のプレーなどはもちろんそうですが、投手の投げるボールや打者のスイングなども現場でしか感じられないものは確かにあります。
例えば投手で言えばボールの『質感』とも言える部分です。例えば同じ140キロのストレートでも投げる選手によって全く違うように見えることも珍しくありません。最近よく言われる回転数、回転軸、リリースポイントなどトラックマンで得られるデータでもその違いはかなり明らかになってきていますが、それだけでは説明がつかない部分があると思っています。
そしてその要素の一つは選手の動き、フォームによるところが大きいように感じます。大きな体で明らかにダイナミックな躍動感溢れるフォームから勢いのあるボールが来るケースは分かりやすく威圧感を感じます。創価大時代の田中正義投手(ソフトバンク)なんかはまさにそうでした。その一方でフォームはそれほど躍動感を感じないのに、まるど指先からビームが飛び出してくるように勢いのあるボールを投げる投手もいます。打者はどうしても投手の動きが目に入るため、そのギャップが大きいと戸惑いも大きくなります。最近の選手では高橋遥斗投手(阪神)などはその部類に入るでしょう。こういう部分は現場でないとより強く感じられない部分です。
また打者の場合も映像だけでは伝わってこないことがあります。特に大事だなと感じるのは打席に入るまでと、ボールを見送った時の動きや仕草です。相手との力の差が大きい高校野球の場合などはそれほど細かいことを気にしなくても打ててしまうことはありますが、レベルが高くなるとやはり投球に対してどう対応するかということを考えてプレーしている選手が活躍できる確率が高くなります。そしてそういう意識が、打席に入る前の動きやボールを見送った時に見えてくるのです。
・映像の方がよく分かるものも
その一方で投手の球筋やボールの握り、選手の表情といったものは中継映像の方がよく分かることもあります。甲子園大会や大学選手権、都市対抗などは球場内で中継映像が見られるため、球筋や球種を確かめにモニターを見に行ったりすることもあります。現場で見た印象と映像で見る印象のギャップがどの程度あるかということを確かめる作業も重要です。
また当然繰り返し見ることによって見えてくることもあるため、現地で映像を撮影することもよくあります。指導の現場でもタブレットなどを活用して練習するチームが増えてきていますが、そのことも素晴らしいことだと思います。テクノロジーが進んで、現場でも映像でも更に多くの情報が得られるようになってほしいと思いますし、そういう進化にこちらも対応できるように日々情報収集することも大事だと日々感じています。
以前の記事で自分の考える野球の楽しさについても書きましたが、プレーについて色々と考えながら見ることで新たな面白さが見えてきます。奇をてらうつもりはありませんが、自分自身も野球を見ながら『人と違う』視点をより多く持てるように、更に精進していきたいと思っています。