統計学実践ワークブック問15.1[1]じっくり解説
※問題を少し変えています。
問題:
ある都市の株式市場の取引開始時刻を t=0、終了時刻を t=100 とし、特定の企業の株価 $${Y_t}$$ が次の確率過程で表されるとします。
$$
Y_t=y+σB_{t} (1)
$$
ここで、$${B_t}$$ は標準ブラウン運動(Standard Brownian Motion)であり、σは株価のボラティリティ(volatility)を示します。
このとき、株価 $${Y_t}$$の増分 $${ΔY_t}$$の二乗平均(mean squared increment)を求めたところ、0.0225でした。
モーメント法(Method of Moments)を用いて、σの推定値 $${\hat σ }$$を求めなさい。
モーメント法について:
モーメント法を腑に落とすには、統計でモーメントという言葉を用いた背景の物理学を考えればよく、
物理学でいう重心(1次モーメント)から距離×おもりの分慣性モーメント(2次モーメント)が働くものを、
統計学でいう期待値E(1次モーメント)から距離を考慮した散らばり具合V(2次モーメント)に置き換えてみた
考え方もしくは方法ということで捉えれば良い。
要するに、
モーメント法とカッコよくいうが、単に期待値Eもしくは分散Vをまず数式的に導くことがポイントで、実際の観測値と比べることでその数学式でわからない変数およびパラメータを求めればいい。
標準ブラウン運動について:
ブラウン運動は以下のように定義される。
$$
B_t = μt + σW_t
$$
μ: μは期待値ではなくここではドリフト係数(drift coefficient)と呼ばれるパラメーター。μの値により、$${B_t}$$の描くグラフが変わる。
$${W_t}$$: ウィナー過程(Wiener process)といい、以下が成立する。
sがtより後の時間だとすると、
$$
W_s - W_t \sim N(0, s-t)
$$
覚えるというより、当たり前のことで、s=1, t=0であれば
$$
W_1 - W_0 \sim N(0, 1)
$$
であるし、s=9, t=8としても
$$
W_9 - W_8 \sim N(0, 1)
$$
という定常増分性(stationary incrementality)が成立する。
今回前提となる標準ブラウン運動はドリフト係数μ=0の場合なので、$${W_t}$$と完全に一致する。
回答:
株価 $${Y_t}$$の増分 $${ΔY_t}$$の二乗平均の1次モーメント、つまり期待値$${E[(Y_t - Y_{t-1})^2]}$$について考える。
与えられた式(1)を代入し、
$$
E[(Y_t - Y_{t-1})^2] = σ^2E[(B_t - B_{t-1})^2]
$$
ここでブラウン運動は標準ブラウン運動であるから、
$$
E[(B_t - B_{t-1})^2] = σ^2E[(W_t - W_{t-1})^2] (2)
$$
ここで、$${W_t - W_{t-1}}$$は標準正規分布に従う。これは標準ブラウン運動がΔ=1だけ動いた際の変動分が標準正規分布に従うという定義そのもの。つまり$${W_t - W_{t-1} = X}$$とおくと、
$$
W_t - W_{t-1} = X \sim N(0, 1)
$$
(2)の式は以下のようになる。
$$
σ^2E[(W_t - W_{t-1})^2] = σ^2E[X^2] *ただしX\sim N(0,1) (3)
$$
Xの2次モーメントを考えた際
$$
V[X] = E[X^2] - (E[X])^2
$$
より、$${V[X] = 1}$$、$${E[X] = 0}$$により$${E[X^2] = 1}$$であることから、(3)の式は$${σ^2}$$となる。
サンプルによる$${Y_t}$$の増分 $${ΔY_t}$$の二乗平均は0.0225であるから、
$$
σ^2 = 0.0225
$$
これを解くと、$${σ = 0.15}$$となる。
以上より、モーメント法により求まったσ、正確にはσの推定量$${\hat σ}$$は0.15である。