久しぶりに高校の同級生に会いました
鼻にツンとする臭いは隣のスーツからにじみ出ているようだった。臭いは車内の上空に滞留し、前へ後ろへと行ったり来たり、逃げ場を失ったようにさまよっている。もし君の背が高いのであれば拷問でしかないだろう。そんなことは何処吹く風と、隣のスーツはニタニタした表情を浮かべ、窓ガラス越しに身だしなみを気にしている。これから推しにでも会いにいくか。金曜日の夜に。神奈川に向かう電車は、1週間の疲れと微かな週末の楽しさをかき混ぜて運んでいた。
集合場所は傾斜のあるエスカレーターの先にあるドンキホーテだった。最寄りの居酒屋は既に予約済みだという。やはり日々働いているだけあって、仕事ができるやつだ。あと1人は遅れてくるようで、もとよりそいつに会うために来たのだから少し残念な気持ちになった。
老舗と呼ぶには年季が入りすぎている店内。椅子はすり減って所々破れており、壁に貼られたメニューは黄ばみ、今にも落ちてきそうだった。明らかに酒が安い。グラスも大きそうである。高校の同期なんだから気にしないでしょと言い訳していたが、まあ、個人的には安上がりに越したことはないので素直に聞き流した。
空のグラスが3つほど目前に並んだ時に、ごめんごめんと彼女は現れた。ベージュのニットに、タイトな黒のロングスカート。カジュアルなものの統一感があった。CAなこともあり、スタイルもよく、自分がどの服が似合うかを熟知しているコーデだった。この店には場違いではないが、どう思われるかも含めて、もうちょっといい店を選べばよかったと後悔した。男飲みのテンションで予約していたからである。
ニタニタと白い歯を見せる友人を横目に、静かに彼女の話を聞く。主導権は友人にあり、さんま御殿のように話を広げていくので結構助かった。やるべきなのは適度に相槌を打ち、話を振られたときに長すぎない程度に答えるだけだった。あとはお酒を飲むことぐらいか。
高校から社会人までの記憶を並べて、我々の想像と彼女の実情の答え合わせをしていく。高校生の記憶のままであった彼女は、東京の生活を経て思った以上に大人になっていた。仕事では海外を飛び回り、東京に帰ってきても職場の引き合いでご飯に行く日々だという。出会いもあるようで、酸いも甘いも経験したのかなと感じてしまう。はきはきと話す彼女を見て、ふと麻布のバーでお酒を呷っては背伸びしている自分が恥ずかしくなった。何だが取り残されている気がして、次々にお酒を注文する。5つグラスを空にしたころには、なんだかどうでもよくなっていた。
その後、バーとカラオケを回って2時頃に解散したという。全く記憶がなく、次の日に友人が教えてくれてそのことを知った。彼女からは昨晩のお礼メッセージが来ていた。定型的な文章を見て、自分が粗相を繰り返していただろうと勝手に猛省する。
なんだか、大人になり切れていない自分を再確認する出来事だった。それは、日々逃げるようにお酒を飲む自分であったり、そして日々仕事に向き合う彼女を見て感じることだった。