IEAのシナリオの変遷(NHK「視点・論点」出演補足その1)
2023年12月11日、NHK Eテレで午後0:50から放送の「視点・論点」という番組に「エネルギー戦略大転換 ポスト石油時代をどう生き抜くか」というテーマで出演させて頂きました。出演は約10分間で、その中で一般の方々向けにできるだけわかりやすくお話ししたつもりですが、かなり端折ってしまったところもあるので、この場で補足させて頂こうと思います。
冒頭、
とお話ししました。昨今のエネルギー問題や気候変動問題において、やめるべき化石燃料として最もやり玉に上がりやすいのは石炭です。しかし、私の主な主張でもあり私の会社の社名でもある「ポスト石油」にあるように、今回あえて「石油」を主なテーマにしました。これは、現在産油国にあるドバイで開催されているCOP28で、石油も大きなテーマになっていることを考えても、時宜にかなっていると考えました。
前半の内容はIEAの報告書について触れることにしました。IEAは世界的に有名なエネルギー研究機関であり、その報告書の内容は広くメディアで紹介され、各国政府のエネルギー政策や企業の経営方針に大きな影響力を持っています。そのIEAが化石燃料、得に石油需要のピークを主張し始めたということは大きな意味を持っています。また、私のエネルギー専門家としての最初のキャリアは、化石燃料の供給ピーク、いわゆる「ピークオイル」問題のリサーチで、私は日本でも数少ないピークオイルの専門家でもあります。従って、IEAの化石燃料ピーク報告書について私が触れないわけにはいかないと考えました。
放送ではグラフについて特に言及しませんでしたが、IEAが発表した3つの化石燃料の需要シナリオをみると、確かに将来的に減少はしていますが、石炭が急激に減るのに対し、石油ガスはわずかな減少、ほぼ横ばいになっていて、扱いに差があることがわかります。
この図は、過去5回分のIEAのWEO報告書(World Energy Outlook)における、メインシナリオの化石燃料供給量を示したものです。これをみると、青線の2023年版の赤線(2022年版)からの変化は実はとても小さく、全体の趨勢(石油・ガスは横ばいで石炭は減少)は殆ど2022年版と変わらないことがわかります。変更点は、完全に横ばいで減少しないとなっていた石油とガスがわずかに減少することになったことと、石炭の直近の消費量が2022年版のシナリオより更に増えてしまったのにも関わらず、将来の石炭供給量を少し下方修正したということくらいです。
石油に関してはIEAの報告書では10年ほど前から横ばいのシナリオとなる傾向になっていたので、じつは大きな変化はずっとありません。IEAのシナリオが大きく変化したのは、石炭消費が増加から横ばいになった2019年版と、天然ガス消費が増加から横ばいになり、石炭消費が横ばいから減少に変わった2022年版です。IEAから発せられるメッセージの路線が大きく変更したのもこの頃からであり、その意味では今年の報告書に特に注目する理由は報告書の内容からするとあまりないのです。
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