事業再構築補助金を採択されたら必ずやってほしい実証作業
事業再構築補助金に申請した事業計画がもくろみ通りに成功することはまずありません。
これはすべての新規事業に言えることです。
このことを説明するために事例を創作しました。
事業再構築補助金に申請した事業計画(創作です)
●事業再構築補助金で古着のオーダーメイド・リメイク事業を始める。
●「事業再構築補助金を使ってデザイナーを採用してオンライン接客で顧客の希望を聞きながら元に使う古着数点を選び出し、数枚の古着を切り貼りして1枚の衣服に加工して完ぺきな殺菌消毒消臭をして販売する事業を始める。
ファッション感度の高い顧客は世界で自分だけのオシャレな1点を手に入れることができる。
個人客への注文生産によって顧客のファッションの好みのデータを蓄積し、切り貼り古着として需要があると思われる服の系統と種類とデザインと材質を解析し、全国のセレクトショップに提案し、受注生産して販売する。ネットでも販売して、ブランドに育てていく。」
●事業再構築補助金事業スケジュールには次のような項目が入っているとします。
・従業員の既存事業から当事業への転属
・金融機関との折衝
・古着仕入れルートの確保(ヤフーオークションやメルカリなどのネット仕入れ、リサイクルショップ仕入れ、均一古着屋からの仕入れ、海外仕入れ、店舗仕入れなど)
・デザイナーの採用
・オンライン接客のためのシステムの整備
・加工製造ラインの整備
・セレクトショップリストの入手
・リリース準備
・ホームページの制作(ロゴ、マーク等を含む)
・SNS活用マーケティングの準備
採択されても事業計画通りにはやらない
●採択されたとして、どのように事業再構築補助金事業を進めますか?
●申請した事業計画のスケジュールでは、まず最初に「古着仕入れルートの確保に取り組む」「デザイナーを採用する」としています。古着ビジネスの成否は安定した上質で安価な古着を仕入れるルートを確保できるかどうかにかかっていることは誰にでも想像できます。まず古着の仕入れルートをしなくては事業が成立しません。
●しかし、仕入れルート探しやデザイナー採用など、事業計画の行動スケジュール通りにすぐ動いてはなりません。必ずやらなくてはならない作業があります。
身銭をきっても求められるビジネスに修正していく
●それは、このビジネスモデルが本当に人が喜んでくれるものになるか、共感してくれるものかを実証して、実際に受け入れられるビジネスに修正していくという作業です。
●ぼくなら、実際に切り貼り古着を何着か作ってネットに出して、反応を見ます。答えは市場に聞くのがいちばんだし、しかも現代は、かんたんに市場に尋ねられるさまざまなインフラが整っています。
●反応を見ると言っても、ネットからコメントを集めてもむだです。ネットは匿名で好き放題にものを言える場ですから、ビジネスモデルを磨こうとする場合にはネットのコメントに価値はほとんどありません。アンケート調査も人の本心をまったく教えてくれません。
●ほんとうに価値があるのは、人の身銭を切るという行動です。
身銭というのは、まずメールアドレスを出してくれるかどうかです。住所、氏名の情報はもっと身銭を切った証拠です。さらには500円でも1000円でも予約金など何かの名目でお金を払ってくれると、これはたいへんな身銭です。極めつけは代金を払ってくれるという身銭です。
●どの服の系統と種類の、どのデザインタイプの、どの材質でどの価格帯のものに、お客さまは身銭を切ってくれるものなのか見極めていきます。
この時点で誰も身銭を切ってくれないなら、それはこの商品コンセプトに需要がないか、今の会社の力量では身銭を切ってくれる人へのリーチがまったくできないわけですから、根本的にビジネスモデルを見なおす必要があります。
●この実証作業では、ほかの要素も同時に検証できます。
オンラインの注文受付と販売でいいのか、実店舗はほんとうに必要ないのか、実店舗とオンラインの合わせ技がもっとも望まれているサービス形態ではないのか。
SNSはどれをどのように組み合わせて運営するとよいのか。
●身銭を切ってくれた人たちの意見を聞いたり、彼らのライフスタイルをSNSで調べるなどして、ビジネスモデルを修正していきます。
こうした一連の作業によって、本当に求められるサービスや製品にたどりつきます。
事業再構築補助金を使って成功する会社の特長
●このように、身銭を切った人たちからの実証を得てからはじめて、現実の各種の準備作業にかかります。
おそらく、補助金申請書に書いた行動スケジュールや投資内容は大幅に変更することになるでしょう。
●仕入れルートですが、もしかしたら海外に買い付けに行くのが最適かもしれません。すると国内の仕入れ先を確保するという作業はまったく必要がなくなります。
デザイナーを採用するのでなく、身銭を切ってくれた人の中から協力者が現れてくるかもしれません。
セレクトショップも身銭を切ってくれた人たちのよく行くショップに働きかけ、お店の人に直接話を聞いて回ることが決定するかもしれません。
●このように行動計画を修正して実務を進める間も、身銭を切ってくれる人の数を増やし、その人たちから新たな情報を得たら、それをまた実務のスケジュールに反映して、行動計画を修正していきます。
●こうしたPDCAのサイクルを回していくことでしか、現実に成功するビジネスモデルは創れません。
ぼくは長らく戦略コンサルタントをやってきましたが、机上で考えた事業計画通りに現実が回ったことはまずありません。
これだけ変化の激しい時代になってしまうと、これからはますます、戦略を決め打ちして成功するとは思えません。
●事業再構築補助金で実際に成功するのはこの実証作業をすばやく何度も回せる会社です。
●事業再構築補助金で申請した事業計画を実証不足のまま進めていけば、十中八九、どこかでつまずきます。
いくら完ぺきな競合調査や市場規模のみごとな推定計算をしても、どんなに理路整然としたビジネスモデル図を描いても、それらはすべて机上の作文です。
壮大な書類を作るとその達成感からいかにもそのビジネスが成功するような錯覚を持ちがちですが、それが落とし穴です。
身銭を切ってくれた人たちだけが、そのビジネスの進むべき正しい道を教えてくれます。
PoC (Proof of Concept)
●こうした一連のプロセスを専門用語でPoC (Proof of Concept)と言います。コンセプトは正しいかどうかの証拠集め。まさに言葉通りです。システム構築や製薬の世界で使われる用語ですが、PoCはビジネスモデルの修正にもたいへん有効です。
●PoCによってユーザーの評価を明確にすることができます。技術的な問題点を見つけてその解決策を考え、要件定義から設計、実装までをスムーズに行うことができます。正確なコストの見通しがついてきます。
●ほんとうならPoCは事業再構築補助金の申請の前に終わらせておかなければなりません。でもぼくの見てきた多くの場合、申請が先で、つまり事業再構築補助金という資金の確保が先で、事業の実現可能性のチェックは事前には行われません。審査員に高い点数をつけてもらえる事業計画の申請書を書ければいいわけです。
●事前の実証作業がありないのはしかたのないところがあります。
既存の事業がある中で、新規事業の有効性をチェックしてその磨き上げを行う時間の余裕も人の余裕も中小企業にはありません。
●補助金を採れたらそのときは社長も社員も「やるぞ!」と腹をくくりますから、そこではじめて本格的に資金と人を投入し始めます。だからこのPoCは補助金が採れてから手を付けるのがふつうです。
事業再構築補助金の事業計画はスタート台に立つための作文と割り切る
●補助金申請書に書いた事業計画は、スタート台に立つための作文だったと割り切って、本当の事業計画を、補助金を採った後で変え続けながら進めていくことです。
常に良い結果が出るとは限りません。課題が浮上した場合には、事業やサービスのコンセプトを修正し、再度実証するといったトライアンドエラーを繰り返すしかありません
●もしかしたら申請したものと事業内容がかなり変わることもあるでしょうが、それは気にすることはありません。申請書の通りに行動することよりも、ほんとうに成功する事業を見つけることのほうがよほど大事です。
●事業再構築補助金の精算の際には実績報告書が必要ですが、それは作文でいくらでも埋め合わせできます。(ただし経費項目だけは作文では逃げられないので、申請時に要注意です。このことは別に書きます)
終わりに
●事業再構築補助金に限らず、補助金とは事業経費を全額もらえるものではありません。1/3なり1/4なり、必ず持ち出しがあります。しかも補助事業に貴重な社員の時間を大量に投じますから、人件費や逃した機会費用も入れると、ばくだいな投資になります。
事業再構築補助金を使うなら絶対に成功させないとなりません。
●事業再構築補助金を採択された方は、きちんと実証を進めながらビジネスモデルを磨きこんでいって、必ず事業再構築を成功させてください。
応援しています。
以上です。お読みいただきありがとうございました!
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