皆伐はもう怖くてやれないんです。
先週、林業から製材業、木造建築までトータルで行なっている会社の社長と従業員2名、ならびにそのパートナー会社の社長1人の計4名で日本から来独され、私がアレンジした南ドイツの森と木材クラスターの視察に参加されました。
その会社の社長は、現状の「一斉に伐って、植えて、育てて、また伐る」という畑作的な林業から、自然の力とプロセスを活用した近自然的な森林業へ転換することを考えられていて、森の視察では、特に天然更新のノウハウと技術を学びたい、というご要望でした。
バイエルン州とBW州で、畑作的な発想で管理されている「林」から、近自然的な森林業の考え方で造られている多様な構造の「森」まで、数ヶ所の森を訪問し、天然更新が成立するための複合的な条件や試みられている方法、日本の条件に照らし合わせたときに特に気をつけたほうがいいと思われる観点、「林」を一斉に伐らないで、間伐を繰り返しながら多様な恒続森に転換していく方法、日本の現行の制度でそれをやるにあたってのコツや注意点など、森でも車中でも夕食の席でも、濃密な対話をしました。
複合的で絶えず変化する自然のメカニズムやプロセスを、人間はほんの1部しか理解・解明できていません。だから機械のように思い通りに制御することは到底無理です。わかっていないことのほうが多い、ということを踏まえた謙虚さを持って、天然更新を促進するために人間ができることを、私なりに集約すると次になります。
・列上間伐や定性間伐ではなく、選別間伐で、林内に光のギャップ(光の多様性)を与える。そうすると陽樹から陰樹までの更新のポテンシャルが生まれる。
・光のギャップは、広葉樹が混ざっていることで、さらに高まる。
・一度に大きな間伐をやるのではなく、小さな控えめの間伐を繰り返す。特に下層植生の繁殖力が強いところでは、光を一度に当て過ぎない。
・ただし標高の高い場所や夏でも寒冷の場所では、太陽光エネルギーが地面に熱を与えることが更新の重要な条件になるので、群状択伐などで比較的大きな光の穴を開けることが必要になる。
・大きな切り株や倒木も、ゆっくり土に還りながら更新の貴重な培養体になる。
・狩猟などでシカの頭数マネージメントを行いながら、適切なバランスを探る。
社長は森での議論の最中に「皆伐はもう怖くてできないんです」と本音を言われました。「皆伐したら、一斉に植えて、下草刈りが大変だし、鹿の食害も深刻で、鹿柵や食害防止のクリップなど使っても効かず、多大な事後コストがかかるから…」と。
エリア全体で暗い林床が多い場所でスポット的に稚樹があると、そこに鹿が集中するので被害が深刻になりますが、エリア全体で下層植生が旺盛にあるところでは、シカにとっても、分散して必要以上の豊富な食糧があるので、食べられる稚樹よりも生き延びる稚樹がはるかに多い、というバランスが成立します。
天然更新は無料でしかも、上手くいけば、人間が植林する5倍から10倍の数の苗木をプレゼントしてくれます。母樹や兄弟姉妹、親類、コミュニティの集団の下、守られた多様な光環境で時間差更新するので、過密であっても一斉に均等に成長することはなく、下草刈りや除伐の必要性も少なくなります。
PS: 最後の写真は2019年に日本の日光の近くで撮ったものです。周りの林は強度の定性の均質な間伐(30%間伐という補助制度)のせいか、笹が繁殖して樹木の更新がないなか、この場所は、何かの理由で不均質な間伐になり、光のギャップができて、スギ、ヒノキが更新していました。実はここ、今回来独された社長の所有林で、「なぜここだけ天然更新をしているのか、見てもらって意見が欲しい」と言われて見学しました。
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5月17日(火)に、近自然的森林業のドイツの現役のパイオニアに「自然森施業」についてオンラインで話をしてもらいます。
https://naturwald-luebeck.peatix.com/view
通訳付きで、対話(質疑応答)の時間も30分とります。チケット購入者には講演部分の録画視聴も提供しますので、当日オンタイムで参加が難しい方も是非に!