CL決勝トーナメントを展望する。ダークホースはナポリとベンフィカだ

 日本時間の2月15日から始まる、2022-2023シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメントの戦い。今シーズンはグループステージと決勝トーナメントの間にカタールW杯が行われたとあってか例年より注目度がやや増している印象もあるが、筆者のようなサッカー好きにとってはW杯と同じくらい(あるいはそれ以上に)楽しみな戦いであることに変わりはない。率直に言えば、試合のレベルはW杯を上回る。世界最高峰のサッカーを堪能できる、まさに至福の期間の始まりというわけだ。

 決勝トーナメントを戦うのは全16チーム。英国の某ブックメーカーのオッズによれば、この文章を書いている現時点での優勝予想(下馬評)は以下の通りだ。

1)🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿 マンチェスター・シティ 2.75倍
2)🇩🇪 バイエルン・ミュンヘン 7倍
3)🇫🇷 パリ・サンジェルマン 7倍
4)🇮🇹 ナポリ 10倍
5)🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿 リバプール 11倍
6)🇪🇸 レアル・マドリード 11倍
7)🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿 チェルシー 15倍
8)🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿 トッテナム・ホットスパー 19倍
9)🇵🇹 ベンフィカ 26倍
10)🇮🇹 インテル・ミラノ 29倍
11)🇮🇹 ACミラン 34倍
12)🇩🇪 ドルトムント 41倍
13)🇵🇹 ポルト 67倍
14)🇩🇪 ライプツィヒ 101倍
15)🇧🇪 クラブ・ブルージュ 151倍
16)🇩🇪 フランクフルト 151倍

 この中で個人的に気になるのは、マンチェスター・シティとパリ・サンジェルマン(PSG)になる。ブックメーカーから本命と見られているマンチェスター・シティと、その対抗と見られているPSG。この2つの金満クラブがはたして優勝できるのか。
 
 もうひとつの注目ポイントは、昨シーズンの王者レアル・マドリードの連覇なるか、だ。そんなディフェンディングチャンピオンの下馬評は現在6番手。思いの外高くないというのが正直な感想だ。昨シーズン決勝の再戦となった、決勝トーナメント1回戦の相手であるリバプールよりも僅かに低い扱いを受けている。昨シーズンの決勝トーナメントの戦いがそうであったように、下馬評が低い時のレアル・マドリードは不気味というか、なんとなくやりそうなムードを感じるのは僕だけだろうか。連覇を狙うには悪くない立ち位置につけていると僕は思う。

 そして3つ目に挙げたいのは、ダークホースの躍進なるかだ。前回ベスト4に進出したビジャレアルのようなチームが現れるかどうか。個人的にその匂いを感じるのはナポリとベンフィカ。特にナポリは現在4番人気というダークホースとは思えないような高い評価を受けている。鎌田大地と長谷部誠が所属するフランクフルト相手にどんな戦いぶりを見せるのか。

 今回は決勝トーナメント1回戦の対戦カードそれぞれについて、その展望と今後の予想を述べてみたいと思う。

・🇮🇹ACミラン対🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿トッテナム・ホットスパー

 過去10シーズンで5度CLに出場しているトッテナム(スパーズ)に対し、ミランは僅かに2度。ミランが決勝トーナメントに進出したのは2013-2014シーズン以来、9シーズンぶりの出来事になる。近年の実績で言えばスパーズ優位には違いないが、パッと見、両チームにそれほど大きな差があるようには思えない。スパーズのプレミアリーグでの順位は現在5位。チームの状態はいいのか悪いのか、順位的にはわかりにくい微妙な状況にある。ミランは現在のスパーズの力を推し量るには絶好の相手。またミランにとっても、スパーズは十分勝てる相手だと見る。勝利した方がベスト8となるこの試合は、再び欧州での存在感を示したい両者にとってはまさに大きなチャンス。両者ほぼ互角と見るが、結果もさることながら、その試合内容から今後の可能性にも注目したい。

・🇫🇷 PSG対🇩🇪 バイエルン・ミュンヘン

 2番人気(バイエルン)と3番人気(PSG)が相まみえる、1回戦屈指の好カード。両チームに共通するのは、国内リーグではダントツということ。ゆえに互角の相手と戦うことができるのは、毎度このCLの決勝トーナメント以降。平素の戦いとCLの戦いとの間に発生するギャップに戸惑い、そして敗退するという失敗を何度も繰り返してきたチーム同士でもある。しかし、この試合における両者の立場は同じなため、今回はそうした間の悪さ、変なミスはなさそうか。
 バイエルンを率いる35歳の若手ドイツ人監督、ユリアン・ナーゲルスマンにとって、この試合は自身の真価が試される試合となるだろう。昨シーズンは準々決勝で伏兵ビジャレアルに番狂わせを許し、まさかのベスト8敗退に終わっている。もしこの試合に敗れれば、たとえブンデスリーガで優勝したとしても、監督の座に居座り続けることは難しいのではないか。PSG戦は監督としての自身の将来を懸けた試合と言っても過言ではない。
 一方のPSGでの注目は、メッシ、エムバペ、ネイマールらの自慢のアタッカー陣、と言いたいところだが、彼らが揃って出場するかどうか怪しいとのこと。このスーパースターたちをどう使いこなすか。個人的にはこの3人が揃って出場するより、メッシあるいはネイマールがいない方がバランスがよくなりそうな気もするが、クリストフ・ガルティエ監督の手腕に注目したい。
 PSGの前回の成績は、レアル・マドリードに敗れベスト16。その分今回は気が楽というか、のびのびと戦えそうな気がする。カタールW杯を経て、メッシも重圧から解放された感じもする。エムバペもさらにひと回り成長した。一方のバイエルンで目を凝らしたい選手は、この冬にマンチェスター・シティからローン加入したポルトガル代表のサイドバック、ジョアン・カンセロ。ここ1、2年のバイエルンに欠けていたラテン系の選手は、チームにどのような効果をもたらすのか。勝利した側の喜びの量がひときわ大きいビッグカード。はたして笑うのはどちらか。

・🇧🇪クラブ・ブルージュ対🇵🇹ベンフィカ

 クラブ史上初のベスト16進出となったクラブ・ブルージュと、前回ベスト8のベンフィカとの対戦。グループステージでアトレティコ・マドリードやレバークーゼンなどを抑え突破を果たしたクラブ・ブルージュはもちろん称賛に値するが、それでもこの舞台では16チーム中15番手の弱者であることに変わりはない。一方のベンフィカは9番人気。相手がクラブ・ブルージュということもあるが、グループステージでPSGを抑え1位通過した実力は本物だと見る。
 そんなベンフィカの監督を務めるのは、ドイツ人のロジャー・シュミット。かつてレバークーゼンを率いていた時代、CLの舞台であの全盛期のアトレティコ・マドリードをあと一歩のところまで苦しめた実績を持つ、知る人ぞ知る監督だ。標榜するのは正統派の攻撃的サッカー。グループステージではPSG相手に2戦2分け、ユベントスに対しては2戦2勝と、まさにその強さを見せつけた格好だった。
 ダークホースとしては、現在セリエAで首位を独走しているナポリに目が行きがちだが、このベンフィカも結構いい線行くのではないかと筆者は密かに期待を寄せている。この冬にチームの中心選手だったアルゼンチン代表MF、エンソ・フェルナンデスをチェルシーに引き抜かれたことは確かに痛手だが、それでもベスト8は固いと見る。
 準々決勝以降、優勝を狙うクラブにとっては、ベンフィカの存在はかなり厄介なものになるのではないか。シュミット監督ともども、その行末に目を凝らしたい。

・🇩🇪ドルトムント対🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿チェルシー

 欧州では名の知れたクラブ同士だが、意外にもその対戦は今回が初という。
 昨シーズン、準々決勝でレアル・マドリードに延長戦の末に敗れたチェルシーに対し、ドルトムントはグループステージ敗退。近年の欧州における実績を相撲の番付風に言えば、大関のチェルシーに対して、小結のドルトムントといったところか。チェルシー優位。先のW杯でも活躍したエンソ・フェルナンデス(アルゼンチン代表)やジョアン・フェリックス(ポルトガル代表)など、この冬に派手な補強をしたチェルシーに対して、ジュード・ベリンガム(イングランド代表)、ユスファ・ムココ、カリム・アデイェミ(ともにドイツ代表)など、ドルトムントは20歳前後の若い選手が目立つ感じだ。
 チェルシー優位には違いないが、チェルシー絶対という感じは全くしない。プレミアでは現在10位。このままでは来シーズンのCL出場権獲得(4位以内)はかなり厳しい状況にある。シーズン序盤に監督をトーマス・トゥヘルからグレアム・ポッターに交代したが、状況はより悪くなったという印象だ。リーグ戦で抱えるストレスがCLでどのように影響するか。下馬評の低いドルトムント側にチャンスあり。少なくとも僕はそう見ている。
 
・🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿リバプール対🇪🇸レアル・マドリード

 昨シーズンの決勝戦と同じカード。下馬評はその時と変わらず、リバプールの方が僅かに優位と見られている。しかし、リバプールの状況は前回対戦時より明らかに良くない。プレミアでは現在9位。チェルシー同様、来シーズンのCL出場が難しい位置に追い込まれている。モハメド・サラー、ルイス・ディアス、ディオゴ・ジョタ、ダルウィン・ヌニェス、コーディ・ガクポ、ロベルト・フィルミーノなど、アタッカーに好選手を多く揃えているものの、チーム状況はここ数年で一番の低迷ぶりと言えるだろう。
 一方のレアルは、昨シーズンと比較すればほぼ横ばい。今シーズンは特段大きな補強をしたというわけでもない。リーグ戦では現在首位を行くバルセロナに大きく離されてはいるが、こちらの本命はあくまでもCLだ。先ほども述べたが、CLにおけるレアルは、相手の下馬評が高い時ほど強さを発揮する。この試合も僕は逆にレアルが優位だと見ているが、問題はその先だ。リバプール戦を含め、ここから決勝戦まで4連勝しそうかと言えば、少しばかり厳しいというのがこちらの見解だ。その理由はズバリ選手層。昨シーズンは決勝トーナメント以降をほぼ固定したメンバーで戦ったカルロ・アンチェロッティ監督だが、今シーズンもそれで上手く行くとは限らない。ジネディーヌ・ジダン監督時代の3連覇も含め、メンバーがマンネリ化している印象は拭えないのだ。ティボー・クルトワ、ダヴィド・アラバ、ダニエル・カルバハル、トニ・クロース、ルカ・モドリッチ、カリム・ベンゼマなど、主力の多くは30歳を越えている。彼らが昨シーズンと同等のパフォーマンスを披露できるかどうかと言えば、筆者は難しいと答えるだろう。
 結果も気になるが、注目すべきはやはりその内容だ。それぞれの勝ち方、そしてその負け方に、その後の可能性をどれほど感じることができるか。PSG対バイエルン同様、世界中のサッカー好きが注目する1回戦屈指の好カードに目を凝らしたい。
 
・🇩🇪フランクフルト対🇮🇹ナポリ

 グループステージ最終節で劇的な逆転勝ちを収めた末に2位通過を果たしたフランクフルトと、前回準優勝のリバプールを抑え首位通過を果たしたイタリアの古豪ナポリ。名前的にはそれほど大きな差があるようには見えないが、フランクフルトがこの16強の中で最下位の評価(16番手)であるのに対し、ナポリはマンチェスター・シティ、バイエルン、PSGに次ぐ4番人気という高い評価を受けている。
 ナポリは現在、セリエAで2位のインテルに勝ち点15の差をつけ首位を独走している。この成績が高い評価の大きな理由に違いないが、最も外せないのは、そのサッカーの内容が素晴らしいこと。監督はルチアーノ・スパレッティ。イタリア人監督きっての戦術家であり、イタリアでは珍しい攻撃的サッカーの信奉者でもある。グループステージの初戦では同系統のサッカーをする強豪リバプールを4対1で一蹴した。また選手の顔ぶれを見ても、イタリア代表はもちろん、ポルトガル代表、ウルグアイ代表、カメルーン代表、ナイジェリア代表、韓国代表、さらにはジョージア代表など、知名度の低い各国の好選手で固めた、まさにダークホースらしいカラフルなチームと言えるだろう。ブックメーカーの予想通り、マックスベスト4は十分あり得る。優勝を狙うチームにとって、これほど嫌らしいチームも珍しい。
 対するフランクフルトには前述の通り、2人の日本人選手が所属する。39歳の長谷部にどのくらいの出場機会が与えられるかはわからないが、中心選手である鎌田はスタメンで出場すると見て間違いないだろう。ポイントはフランクフルトの布陣だ。グループステージでは主に3-4-2-1を採用したオリバー・グラスナー監督は、鎌田をその守備的MF(「4」の真ん中)で多くの時間起用した。日本代表よりも1列低いポジションと言えばわかりやすいか。
 この試合でも3-4-2-1が予想されるフランクフルトに対して、ナポリはおそらく攻撃的な4-3-3(あるいは4-2-3-1)で向かってくるだろう。この2つの布陣が相まみえれば、フランクフルトは3バックの両脇を突かれると必然的に5バックになる。ナポリが攻め、フランクフルトが守るという光景が自然と浮かび上がってくる。もしこの3バックの真ん中に晴れて長谷部が出場するとすれば、はたして39歳の彼に今をときめくナポリの猛攻を耐えることができるのかと、余計な心配をしたくなるほどだ。
 ナポリの勝利は9割方固い。逆にフランクフルトが勝利を収めれば、文字通り番狂わせに相当する。どちらも勝てば初のベスト8だが、その立ち位置は大きく違う。フランクフルトが勝つ可能性はかなり低い。そうした状況のなか、はたして鎌田はどのくらいやれるだろうか。CLの決勝トーナメントで活躍すれば、その名は瞬く間に世界中に知れ渡ることになる。1歳下の三笘薫に負けない活躍を鎌田にも期待したい。

・🇩🇪ライプツィヒ対🏴󠁧󠁢󠁥󠁮󠁧󠁿マンチェスター・シティ

 ブックメーカーが本命に挙げるマンチェスター・シティがここで負けることはおそらくない。もちろんライプツィヒにも好選手は多くいる。W杯のような一発勝負(90分)ならライプツィヒにも勝つ可能性はそれなりにありそうだが、ホーム&アウェーの180分の戦いとなると、どうしても弱者の方が分は悪くなる。ホームで1-3、アウェーで0-2、合計で4点差くらいはつきそうなムードがある。もし初戦で引き分け、あるいは1-0で勝利したとしても、2戦目では強者が本気で襲いかかってくる。
 世界のサッカーファンがこの試合に期待するものは、ライプツィヒの頑張りに他ならない。マンチェスター・シティがすんなり勝つ試合は、できることなら見たくはない。見たいのはマンチェスター・シティが苦戦する姿、言い換えれば、ライプツィヒが格上マンチェスター・シティを苦しめる姿だ。
 ライプツィヒは世界のサッカーファンの期待に応えることができるか。そして、大本命マンチェスター・シティは優勝候補に相応しいサッカーを披露することはできるのか。また、カンセロを放出したマンチェスター・シティに影響はないのかなど、個人的に確認しておきたいこともある。名将ジョゼップ・グアルディオラが率いて7シーズン目のシティのサッカーにはとりわけ目を凝らしたい。

・🇮🇹インテル・ミラノ対🇵🇹ポルト

 欧州では名の知れた強豪同士の対戦ながら、勝って当然なのはどちらかといえば、明らかにインテルの方になる。つまり、負けられないのはインテル。負ければ格好悪いのもインテルだ。逆にプレッシャーが少ないのはポルト。実際戦力的に見てそこまで大きな差は存在しない。ほぼ互角。むしろ下馬評が高いインテルの方が不利だと僕は見る。ポルト有利。ライバルでもあるベンフィカのベスト8も有力なため、もし今回ポルトガル勢2チームがベスト8入りすれば、それなりに話題になることは間違いない。個人的にはポルトがよいサッカーでインテルを苦しめる姿を期待したい。

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noriaki0357
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