オフのサンタに会った
みなさんはサンタクロースの存在を信じているだろうか。
20歳の頃、どこかに一人旅に行きたいと思い立ち、フィンランドに行った。
10年経った今も、未だに何故フィンランドを選んだのかと聞かれるが自分でも良く分かっていない。が、なにはともあれ、初めてのフィンランドは20年暮した日本よりはるかに居心地の良いものだったので、気を良くして翌年、当時付き合っていた彼女と共に、もう一度フィンランドに行くことにした。
お金も掛けずに旅っぽいことをしたかったので、ユースホステルで自炊をしながらヘルシンキを観光していた。
旅程の半分が過ぎ、なんとなく生活リズムが出来上がった頃、晩ごはんの買い出しに、ホテルの近所にあるスーパー[S-market]で牛乳を選んでいると、後ろから、
「コンニチハ?」
と、声を掛けられた。
全身黒尽くめに立派な白い髭を蓄えたおじいさんが立っている。
なんとなく、周りに日本好きでもいて興味本位で声でも掛けられたのか位の気持ちでポカンとしていたらすかさず、
「ワタシハ、サンタクロースです。」
と言われた。
「はい?はあ。え?」
彼女と2人こんな感じであっけに取られていると、名刺を差し出された。
[サンタクロース協会公認サンタクロース]
ホンモノだった。
4月のフィンランドでサンタクロースに会ってしまった。
しかも、確実にオフの格好の。
聞くと、数年前に大阪の堂島でのイベントに招聘されて日本に親しみがあったらしい。
5分も話さずに去ってしまわれたが、終始優しそうな表情で話すあのおじさまはサンタクロースで間違いないと思わせるオーラがあった。
ご丁寧に名刺までいただいてしまったし、何より、なんだか幸せな気分になったのを覚えている。
童心に帰るとはこのことなのだろう。
なんとなく存在しないものとして感じていた存在を目の当たりにして、しかも幼い頃描いていたサンタクロース像とほとんど変わらないともなれば、自ずと笑顔になってしまうものだ。
その後、いただいた名刺は彼女の財布に大事に仕舞われていたのだが、数年後財布ごと紛失し、本気で凹んでいた。
今思うと、そうやって直接的な証拠がなくなる辺りもまた、サンタクロースという少し神秘的な存在に拍車をかけるような、そんな気がする。
現在その彼女と結婚し2人の子供がいる。まだまだ会話をするような年齢ではないが、何年か後、会話ができるようになってサンタクロースの存在を聞かれたらこう答えようと決めている。
「サンタはいるよ。オフの日はヘルシンキのスーパーで牛乳を買っているんだ。」
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