掌握小説 夢のあとさき
この小説は山根あきらさんの
#青ブラ文学部
お題 「あれから10年も」に参加する小説です
約800字です
山根様よろしくお願いいたします
由美が1週間ぶりにXを開くと
「Xに登録した日を覚えていますか?」
というメッセージが届いていた。
ああ、あれから10年も経つのかと深いため息をついた。
あの青年に出会ったのは
ひとり息子を大学に送り出した夏のことだ。
青年は、まだ少年で、映画界初の快挙を成し
世間は大騒ぎだったが、その意味が分からぬほど幼かった。
が、その瘦せた体と、はにかんだときに見える八重歯が
こどもの頃の息子に似ていた。
運命だと思った。
少年は、年に1本主演映画に出演したが、
数年後睡眠薬を多量に飲んで、ブラウン管から消えた。
同じころ由美にも病気が見つかった。
子宮と卵巣を切り取り、薬の副作用もきつかった。
ただ毎日が苦しく、思考力も落ち、
労わりのない夫亘の態度に辟易していた。
なんとか通院が半年ごとになったころ
少年は青年になり、主演舞台が決まっていた。
ファンクラブも出来ているではないか。
そのファンクラブがXと連携していたので、
直ぐに会員登録をした。
Xで多くの推し友ができ、
今までにない高揚感を味わった。
映画の舞台挨拶があれば東京へ、
トークショーがあれば北海道まで追いかけた。
彼を追いかけることが生きている証だった。
亘は何も口出ししなかった。
その資金は自分の給料で賄えていると思っていたようだ。
由美は命がけだった。
いつ新たな転移が見つかるかもしれない。
6年間、体の許す限り日本全国飛び回り、
ロケ地ツアーにも参加した。
雑誌やDVDも買い揃えた。
そんな中、カードの支払いが滞り督促状が届いた。
そうなってはじめて亘の知れるところとなり
亘は両親に頭を下げてお金を借りた。
怒鳴れ、罵られ,叩かれた。
が、自分が女に入れあげたのだと両親に嘘をついた。
ファンクラブは3年前に退会し
由美は今、死んだように生きている。
それでも定期的にXを開く。
この秋、青年が主演しているドラマの評判が気になるからだ。
見出しの写真はすのふさんのものです
ありがとうございます
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