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連載小説「のりさんと7匹の猫たち」
飼い主が2度変わったみーっちゃんの物語
前
のりさんのお父さまが、心筋梗塞で亡くなったとき
お母さまはまだ69歳でしたが、余りに突然の死にショックを受け
ぼんやりするときが多く
軽い認知症のような症状が出てしまいました。
気丈な様子で葬儀も済ませ、
納骨を終えたころからその症状が出はじめました。
「テレビの録画の仕方やが分からない大事な韓ドラがあるのに」
「洗濯機の使い方がわからん。どうしよう」
「二階に怖くて上がれない」
そんな内容の電話が何度も掛かるようになりました。
最近の家電は便利だけれど、ボタンが多すぎて、
まだ40歳だったのりさんも
説明書を見ながら四苦八苦しています。
それまで、強く厳しくのりさんを育ててきたお母さまでしたが、
寂しい。寂しいとのりさんに甘えるようになったのです。
親子の力関係が入れ替わった瞬間でした。
「お母さん!電気屋さんのいうままに、どうしてこんな洗濯機買ったのよ!」と、お母様をを𠮟るま始末。
普通の全自動ならボタンを一つ推せば済むのに
洗い方とか、時間とかいろんなボタンを押さなければなりません。
女性は男性が亡くなってから
より元気になるのだと、
世のなかでは言われていたのですが、
お母さまは、姑や小姑と一緒に暮らしていたので
お父さまだけを頼りにしていたのだと
あらためて思い当たり
のりさんは項垂れるのでした。
それは、自分がしっかりしていないことで、
皆に責められたのだと分かっていたからです。
のりさんは、いつでも里に帰って
お母さまと一緒に住みたかったのですが
結婚するときに、のりさんのお父さまから、
「どこの馬の骨かもしれんような男にのりはやれん!」
と、目を据えて言われたことが、
今でも心にの奥に残っているようで
旦那さまがのりさんの家に帰ることを渋っておりました。
だれだって深く傷つくことはあるのです。
旦那さまは彼のおとうさまが早くに亡くなってから
貧乏で、中学を出ると直ぐに、
育ててくれた祖母のために働いていて
今も貧乏だったので強い引け目があったのです。
元は甲府を治めていた戦国大名の末裔なのです。
勝頼さまが落ち延びた地とされいました
人里離れた山奥に身をひそめて生きてきた者たちの一族で
その里には同じ苗字の家が40軒もありました。
どこの馬の骨などではなかったのですが、
のりさんのお父さんさまの剣幕に、言い返すこともできず
ふたりは式も挙げず、駆け落ちしたのでございました。
「一緒に住むのはいやだなあ~」という旦那さまの気持ちもわかるので、
今まで通り、近くの空き家を安い家賃で借りて、
そこから毎日のようにお母さまのところに通っておりました。
のりさんは高校生のときに
はじめて猫を飼った日から猫が大好きだったので
今までも飼いたかったのですが
借家住まいだとそれもできず
寂しがるお母さまに
「猫でも飼ったら」と薦めました。
世話する家族がいれば
少しは元気になってくれるし、自分も猫の世話ができるし
一石二鳥だと安易に思っておりました。
すると、若いころ犬や猫やニワトリまで飼っていたお母さまは
それは良いわねと、
とんとん拍子で猫を飼うことになったのです。
家で飼う、猫ちゃんやワンちゃんにはブームがあって
そのころはヒマラヤンやソマリなど毛の長い猫が流行っておりました。
が、お母さまは家が汚れるから毛の短い猫が良いわと
ざわわざ松山のブリーダーさんからわたしを引き取ったのです
そしてわたしはアビシニアンのみーちゃんになりました。
この家に来て三カ月経た頃、わたしは手術を受け
子供を産めない体になりました
すると。今まで聞こえていた不思議な声も聞こえなくなりました。
でも、あれは何だったのっでしょう?
庭の奥の方から、細い揺れるような声で
「のりをここへ戻せ それだけがお前の役目だ!」
「その後のことは庭にいるルルという者に任せておけばいい。
その猫はわたしの支配下にある、特殊な猫だから心配ない
のりがこの家に戻ってくれば、わたしの心も静まるだろう」
こんな内容だったと思います。
毎日のようにそんな声が聞こえてきて怯ええおりましたが、
聞こえなくなってホッと胸をなでおろしまたところです。
続く
ヘッダーは松田さんのイラスト使わせていただきました
ありがとうございました
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