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企画投稿2025年1月19日#青ブラ文学部ショートショート


その日は突然に(紅一点の魔物)


その日、知子と良助は、田植えの準備をしていた。
田に水を入れ、耕運機でならすのである。
ちょうど畔道で、水分補給をしていたところだった。

時刻は夕方の4時ごろ、もう立っていられないほどで、
2人は支え合ったままで、しゃがもうとしたが、
そのまま、2人して畦道に転がった。

田の前の県道を見ると
海の方から道がうねるように波打ちながら亀裂がはいり、
その亀裂がどんどんこちらに近づいてくる。

そのときやっと揺れが収まり、
何が起こったのか薄っすらと理解した。

ずっと訓練していたから、
山に向かて逃げるのだけは分かっていた。
もう走る力もない年齢だが
必死で軽トラまで走り、車に乗った。
良助もあせっているのだ。
ニュートラルのままで走りだそうとする。
そしてまた揺れた余震である。

28年ほど前に襲った震度5強の地震でも
瓦が飛んできて怖かった
あのときは春先で、春野菜の手入れをしていたのだが、
揺れが収まり、家に帰ってみると
食器棚が倒れ、壁に亀裂が入っていた。
これが生まれて初めて恐怖を感じた地震だった。

今回はあの時以上である
心配だがもう家を見に帰る場合ではない。

予想はしていた。
この5年間
日向灘を震源とする地震が年に数回定期的に起こり
市民の防災意識も高まっていた。
だが、忘れていた。むぎ茶がもうないのである。
それでも、どこかに自動販売機でもあるだろうと安易に考えていた。

が、直ぐに車は渋滞になり、みな車を捨てて山に向かって走りだした。
2人の住む町のハザードマップでは
地震時の集合場所は四国88か所仙遊寺の宿泊所である。
大潮と重なると、川の逆流が心配なので、
少しでも高く広い場所を設定している。

喉が渇いた。
神社の狛犬や寺の墓石も全て崩れている。

そのうえ停電で自動販売機は動かなかった。
これより先は山だからコンビニもない。

もう死んだ方がましかもしれないと思った。
全て元通りになど出来ないだろうし、
先に熱中症で倒れるだろう。

後ろから来た人たちにどんどん抜かれ
「おとうさん、もうええがね」
「何いよんぞ!はよ動かんかい!!」
良助が大声で叫んだ。

その時である
寺が建つ山が轟音とともに崩れたのだ
先に行っていた人はその土石流に飲み込まれた
後から来る人っは叫び声をあげて
踵をかえした。

わたしたちは間に合わないだろうと知子は感じた。
知子がこけた。良助は振り返った。
あなただけ逃げてと、寄ってくる良助を手で制した。
声にはならなかった。

土石流と一緒にたくさんの樹々が流れてきた
茶色と緑の世界が蠢く
その中に
真っ赤な実をつけたザクロの木を一本見つけた。
仏様の助けだと知子は思った。
だが手でもぎ取ろうとすると、
ザクロの木に巻き付いていたハブが知子の手を噛んだ
土石に吞み込まれたのと、痛いと感じたのと
どちらが先なのか分からなかった。

そのあと友子の記憶は消えた

1200字

山根アキラ様よろしくお願いします

ヘッダーは呑気な散歩様の写真を使わせていただきました


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のり
この度はサポートいただきありがとうございました これからも頑張りますのでよろしくお願いします