札幌のVCが考える、高校生の進路選択や、新しい大学・学びのカタチ
はじめに
株式会社POLAR SHORTCUT(ポーラー・ショートカット)の大久保です。普段は札幌で、スタートアップ投資や起業家育成の取り組みを行っています。
先日たまたま高校生の方とお話する機会があって、中高生から進路相談やキャリア相談があったとき、自分ならどういう話をするかなーとざっくばらんに考えていました。その過程で、自分のまわりの高校生・大学生を見て日々感じていることや、日本の教育ってもっとこうなると良いんじゃないかなと、色々と思うところがあったので、普段の"起業"とは少し離れたテーマで今回のnoteを書いてみました。
それぞれのテーマについて深堀りして是非を問うのも面白そうだなと書きながら思いつつ、今回はまず全体感としてはこういう考え方だよね、というポイントを事例を交えながらまとめてみました。興味がある方はぜひお付き合いください。
徳島からスタンフォードへ。古い空気感を打破するロールモデル
最近見て、凄いなあと感じたのが、徳島県の高校生がスタンフォード大学に入学したニュース。
今までも灘や筑駒のような超有名進学校の生徒の進学先として海外大学というのは聞く話でしたが、今回話題性があるのは徳島県という地方の高校から合格者を出したという点でしょう。
インタビュー記事にもありますが、地方の高校って進路選択の幅(厳密に言えば進路選択の"空気感")にあまり多様性がないんですよね。だから地方の高校から海外のトップ校へ進学するというのは、単に難易度以上の意味を持つと思っています。
私も北海道の中ではそこそこの進学校の出身ですが、高校の進路指導としては、基本的に成績上位者は北海道大学への進学を目指すのが当然という空気感があり、早慶を第一志望としている人さえほぼいないような感じでした。私が在籍していたのは20年近く前になりますが、話を聞く限りでは今でも国立至上主義の空気感は根強いようです。
今回スタンフォード大学への合格者を出した徳島文理高校は、徳島県では二番手に位置づけられる中高一貫の私立高校だそうです。
進学実績を見ると、東大が1名、早慶が10名ちょっと、関関同立やMARCHに数十名が進学するという、まさに私の出身校と同じくらいのレベル感の高校なのだなと感じました。
地方の高校から海外トップ校への入学を果たした彼女がロールモデルとなることで、地方の高校生にもそういう選択肢があるという考えが広まり、ゆくゆくは母校からもスタンフォード大学合格者が出るといいなあと思っています。
せっかく注目を浴びたのだから、彼女にはスタンフォード大学での学生生活なども今後どんどんSNSで情報発信していってほしいと思います。
海外大学の実態がラフな形で情報発信されることで、日本の高校生にとっても、海外大学進学がより身近に感じられるようになっていくきっかけにもなるんじゃないかな。
令和の高校生は、コワーキングオフィスで仕事をするのも当たり前?
同じように、高校生世代を見ていて凄いなあと感じているのが、SAPPORO Incubation Hub DRIVEで出会った何人かの高校生です。
高校に在学しながら、電脳隊という中高生向けのプログラミング団体を運営したり、自身でWebサイトを作ったりという活動をしているエンジニアや、映像クリエイティブや映画制作などを行っている17歳のクリエイターなど、当たり前のように学校外で自分のプロジェクトを動かしている高校生が、札幌には何人もいるんですよね。
彼らのような活動を経てから大学に入学すると、実務経験を経て入学する大学院のようなもので、同じ授業を受けている学生よりも、色々な学びが得られると思うんですよね。さらに大学4年間という時間を有効活用して、さらにレベルの高いプロジェクト経験を積んでいくこともできる。
そう考えると、高校時代から学校外のコミュニティやプロジェクトに携わっていくというのは、キャリア構築の観点でも圧倒的に有利になります。
私が中高生に進路相談を受ける機会があったら、単純に大学進学実績ベースでの学校選びの話以外に、こういった学外活動の重要性は絶対にお話するだろうなと思います。
例えば、前述の17歳の高校生クリエイターなんかは、北海道教育大付属中からN高(ドワンゴが運営する通信制高校)に進学しています。道内トップ校への進学よりも、学業以外で色々な自分の興味がある活動に取り組む時間を作る方が重要だと考えているそうです。
たしかに昔よりも選択肢が増えている若い世代にとっては、こういう考え方こそが、実は最も時代に合った新しいキャリア選択なんだろうなと感心しながら、いつも話を聞いています。
Spread(スプレッド)がロールモデルとする北欧フィンランドのアールト大学
私の会社では最近、「Spread」という北海道のU-25世代に向けた新規事業創出プロジェクトを始めたのですが、実はこの取り組みも、北海道の学生に起業・アントレプレナー教育という切り口で、"大学の授業を補完するようなプロジェクト学習の機会"を提供したいという気持ちが、発想の根幹にあります。
Spreadのロールモデルとしているのは、北欧フィンランドにあるアールト大学。ヘルシンキ工科大学(1849年創立)、ヘルシンキ経済大学(1904年創立)、ヘルシンキ美術大学(1871年創立)という歴史のある三大学が合併して2010年に設立された大学で、フィンランドのイノベーション創出のモデル校としての役割を担っている大学です。
フィンランド政府はアールト大学を新たな高等教育の公開実験の場として位置付けており、起業家養成プログラムの”Aalto Venture Program”ほか、複数の専門プログラムが提供されています。その成果として毎年70〜100社のスタートアップが誕生しているそうです(凄い!)。
大学としてのオフィシャルな取り組みだけでも充分に凄いのですが、さらに凄いのが学生団体「アールト・アントレプレナーシップ・ソサエティ(アールトES)」の存在です。アールトESは学生組織ながら、欧州最大の起業コミュニティと言われており、世界最大のスタートアップイベント「Slush」の主催・運営を行っているほか、「スタートアップ・サウナ」というアクセラレータープログラムや、欧州最大のハッカソン「Junction」などを生み出しています。
実践的な教育プログラムやプロジェクトが生まれやすいような環境を大学側が提供したうえで、さらに学内の学生団体からワールドクラスの取り組みがいくつも生まれているアールト大学は、紛れもなく新しい大学の形であり、日本国内の教育機関も大いに学ぶべき点があると思います。
私たちが取り組んでいる新規事業創出プロジェクト「Spread」でも、アールト大学をロールモデルに、今まで北海道には存在しなかったような起業家創出の取り組みを、どんどん実現していきたいと考えています。
地元の歴史を学ぶ新しい取り組み、札幌解体新書
そしてもう一つ、学外の学びの可能性という文脈で紹介しておきたいのが、私も運営として携わっている札幌解体新書です。
札幌解体新書は「過去からさかのぼって現在を眺め、未来の札幌への提言を行う連続トークライブ企画」と銘打って、北海道の街づくり、金融、産業構造”などのテーマを学んでいこうというトークイベントです。(運営はえぞ財団の一部メンバーなどを中心に、完全ボランティアでやっています…!)
毎回、大学教授をメインの講師としてお呼びしているのですが、こういったテーマのコンテンツは一般的に堅苦しくなってしまいがち。
若い世代にも興味を持ってもらえるようにするための工夫として、街歩き研究家でありNHK「ブラタモリ」の札幌編案内人でもあるブラサトルさんにメインキャストとして参加いただいたり、歴史好きな小樽商大の学生をイベントの司会として抜擢したり、バラエティ番組的な砕けた雰囲気を上手く醸成しつつ、SNSでの情報発信やFacebook LIveでのライブ配信など、若者に届きやすいようなメディアリーチを行っています。
最初は勢いで始めたこの企画、一つの回が2時間近くの長尺にも関わらず、なんと常時100名以上の方が視聴してくれるという、かなりの人気コンテンツになりつつあります。
▼興味がある方はこちら。7/30に配信された札幌解体新書:金融編
https://www.facebook.com/events/337858334740753
SNSなどを通じた動画配信が一般化したいま、大学教授や地域の有識者が参加する、いわば大学の寄付講座に近い形のコンテンツをプライベートな組織が実現・情報発信できて、さらにそれを多くの人が見てくれる。
手作りで新しい学びの場を作ることができる手応えは、この札幌解体新書のプロジェクトを通じて強く感じたところです。
個人の興味や学びのニーズが細分化されてきているなかで、民間の企業や団体(場合によっては個人も)が、民間大学のような役割を担っていくことこそ、新しい教育・学びの在り方なのかなとも思っています。
さいごに
今回のnoteでは色々な切り口で、私のまわりで目にした・参考にしている事例を紹介させてもらいました。
個人的なメッセージとして、「教育や学びは学校が提供するもの」という時代から「より若い頃から、主体的にプロジェクトの実践経験を積むことで、与えられた機会のなかでの学びを深めることができる」という時代に変わってきていて、実際にそういう選択をしている高校生も実はいるんだよってことを、特に地方の学生には知ってほしいです。
そして、札幌解体新書でもやっているように、そういったきっかけ作りや教育コンテンツは、高校や大学のような教育機関だけがやるという話ではなくて、民間企業や団体でも作れるんだということ。
子どもの可能性は親の教育や家庭環境に依存するという話も真実ではあると思うのですが、特にWebやSNSを通じてスマホから積極的に情報を探しに行ける今の時代では、地域の機関や第三者が新しい取り組みを積極的に発信していくという方法でも、一人ひとりの可能性を広げていける余地がありそうだなと感じています。
普段は札幌で、スタートアップ投資や起業家育成の取り組みを行っています。何かご一緒できそうな方、興味があるという方がいれば、ぜひご連絡ください!
Mail:info@polarshortcut.jp
Twitter:@OkbNori