サマー学童に補助金 から考えられること
2024年7月13日の日経新聞電子版にて、会員限定記事として「サマー学童に補助金 こども家庭庁、夏休みの受け皿拡大」との報道が出ていました。
有料記事を無断で引用できないので、見出しから推察されること等をまとめてみます。
サマー学童って?
あくまでも個人的な感想ですが、「サマー学童」というワードは一般的だったのでしょうか?? 正直、あまり聞いたことがなかったです。(検索しても、最初に出てくるのが今回の日経記事、あるいはその記事関連の投稿等でした。)
学童保育(=正式には放課後児童クラブですが、このnoteでは一般的に分かりやすい表現にしています。)は、前提として、保護者が就労等で放課後に家庭でこどもをみることができない家庭のみ利用できる条件となっています。
その前提から、授業のある通常時は、13~15時時点では保護者が帰宅していない、あるいは自営業で仕事中となる、介護の送迎等で不在にしている保護者でなければ、利用することができません。仕事自体はされていても、勤務形態により、14時までに勤務終了する就労形態の場合、家庭での保育が可能であるとみなされます。
ただ、そのような就労形態であっても、夏休みを含む長期休業期間(冬休み・春休み)であれば、朝~14時頃までは家庭でこどもをみることができなくなるため、学童保育の利用が必要になってきます。この部分のニーズが「サマー学童」に該当します。
これは、新たな運用方法という訳ではなく、従来から学童保育の利用の仕方として一般的なものです。
自治体によっては「長期休業期間のみの利用」という申し込みを受け付けているケースもあり、新年度の利用申込の時点で申請⇒利用決定がされていれば、保護者の方が夏休み直前に慌ただしくされることはないと思います。
仮に利用決定されなくても、待機者リストの順番として早い方、あるいは公設学童は諦めて民間学童等を探す、という切り替えもできます。
慌ただしくなるケースとしては、新年度申込(前年10月頃~1月頃)と就労形態が変わったり、家族構成・状況の変化(離婚された、祖父母にみてもらう予定が体調を崩された等)したり、あるいは留守番できると思っていたけれどやっぱり心配になったり、というような場合が多いです。
この場合、夏休みまでに日がなく、申し込んでもダメだった場合、どうにもできなくなってしまい、家で留守番をさせておくしかない、ということにもつながりかねません。
また、「長期休業期間のみ」の利用を受け付けていない自治体の場合は、通常時に利用しようにも利用条件を満たしておらず、夏前に申し込むしかない場合もあります。
反対に、実のところ通常時はあまり学童保育の利用は必要がないけれど、夏休みだけの利用申込ができない、利用申込はできるが待機になる可能性が高いことから、元々夏休み利用が目的であえて4月からの利用申込を行い、8月末で退会されるケースもあります。
夏休み期間の学童の課題
上記の理由から、必然的に夏休み期間中の利用児童数が年間を通して一番多くなります。支援員の配置基準は児童40名に対し最低でも2名となっており、40名以上の場合、20名ごとに1名の多人数加配が必要となります。また、障がいのある児童への加配(児童1~3名に対し支援員1名等)や施設上の問題に対処するための加配(学童保育の部屋と部屋とが遠い、トイレまで遠い等により加配が必要)があるほか、自治体・施設によっては休憩要員(6時間以上勤務する支援員が休憩に入っている間にこどもをみる)等の配置もあります。
ただ、夏休み限定での増員となることから、採用がうまくできないことも多くあります。(今はどの業界であっても人手不足だと思いますが…)
夏休みだったら大学生等、学生さんに活躍してもらえるのではないか、と思われるかもしれませんが、大学生の夏休み期間と小学生の夏休み期間は微妙にズレており、採用できても勤務に入れるのが8月中旬~というケースもあります。8月中旬となるとお盆休み等があり、一般的に学童保育の利用児童数も減るタイミングで、お盆休みが明けたらもう1週間~10日程で2学期が始まるため、結局シフト的にはあまり戦力にならないこともあります。
その他、これだけ気温が上昇してくると、熱中症の懸念から外遊びができず、体育館等も、使えたとしても窓を開けたぐらいでは熱中症対策にもならないため、体を動かす場面が激減しています。
エアコンのある体育館やプレイルームがある学童保育であれば状況は少し違いますが、そうではない学童保育だと、結局一日中同じ部屋で過ごさなければならず、運動が好きなこどもは特にストレスがたまり、イライラからけんかをしたり手を出してしまったり、ということも増えてきます。(=そうなると支援員1~2人が対応に集中することとなり、ただでさえ人が足りないところを残りのメンバーで対応しなければならなくなります。)
補助金で解決するのか
個人的な見解ですが、ただ補助金を出すだけでは、大した解決にはならないと思います。現状、公設公営・公設民営の学童保育運営において、夏休み期間の運営に関する予算はとられているので、これまで通りの運営をするだけなら、結局現場に本当に必要なお金が下りてこないこともあり得ると思います。
初めての実態調査を今年度に実施されるとのことなので、そこで課題が出てくるとは思いますが、こども家庭庁が対策を講じるのであれば、一番必要なことは、補助金の運用方法も含めた、全国統一の仕組化だと考えます。
まず、夏休みの一番の課題は、こどもの人数に対して部屋が足りていない、人も足りていない、スキルも足りていない(夏休みだけの勤務なので、経験者でもない限り、スキルが足りないのは仕方がありません)ということですが、そもそも論として、学童保育だけでなんとかしないといけない、ということ自体が、限界にきていると思います。
補助金の運用方法
これは、用途とそれに必要十分な上限額を設定した補助金にしないと、何に使えばよいのか分からなかったり、運営側もマンパワー不足で十分な計画が立てられなかったり、委託の場合、なんやかんやで委託先の経費削減に使われてしまったりして、何のための補助金か分からなくなってしまいます。
また、「サマー学童」だけのための補助金とするのではなく、「サマー学童」問題を解決するための年間予算への補助金も必要になります。(例えば、まだ出欠管理やメッセージ等のシステムを導入していない施設・自治体の、システム導入に関するイニシャル・ランニングコストの補助金等)
具体的な課題と手立て
職員配置の問題
夏休みだけの勤務が都合の良い方というのは、学生さん以外でも、通常時に午後からの仕事をされている方が午前中だけ働くことができる方も含まれると思います。
一番良いのは、主婦層等で同じ方が毎年夏休み・春休みに働いていただける、ということかもしれません。ただ、そのような人材だけで夏休みが乗り切れる訳ではありません。では、どうすればいいのか。
一つは、夏休み期間だけ仕事がお休みになる方に入っていただくことです。学校が夏休みになると仕事も休みになる方は、学校の非常勤講師や給食調理員(給食事業を受託していり民間企業勤務の方に限るかもしれません)の方々です。
また、自治体によっては放課後こども教室を長期休業期間中開設していないところもありますので、そのスタッフも対象になると思います。学校の学生ボランティアも、夏休みだけの勤務であれば可能性があります。
ただ、なぜかこれが、うまくいきません。学童保育担当部署が教育委員会に投げかけても色よい返事がいただけず、周知自体をしてもらうことできません。
また、周知自体ができたとしても、今度は待遇(時給)の差が現場感情・個人感情の不満につながることもあります。(一般的な時給で言えば、非常勤講師>学童保育支援員(無資格者含む)≧=放課後こども教室スタッフとなり、非常勤講師にとっては魅力がない、学童保育支援員からすると放課後こども教室のスタッフは学童保育を分かっていないのになぜ同じ時給なのか、等の感情で支障を来すケースがありました…。)
そこで、こども家庭庁として、自治体・教育委員会(⇒各学校)・私立学校・放課後こども教室・給食事業等の委託先等へ、サマー学童運営に関する連携・協力の通達が必要となります。
学童保育を管轄している部署への通達だけでは、正直理解が進まず、結局校長先生が協力的か、担任の先生方の理解が得られるかどうか次第になってしまいます。そんな現場レベルでどうにかしないといけないものだと、なかなか進みません。
何も夏休み期間中に教諭・常勤講師に学童保育業務をお願いするものではなく、夏休み期間に勤務がなく収入減となる方への有効な手立てとして周知していただくだけです。それだけで、夏休み期間の人員確保、それもスキル・経験のある方が一定数確保できます。
そして、補助金の使い方としては、通常時から勤務している支援員を含めて、サマー学童勤務手当の創出が必要だと考えます。これがあれば、従来の支援員時給+αでの募集を行うことができるとともに、現職の方の不満解消にもいくらかつながると思います。
どれだけの予算があるのか、どこまで可能か分かりませんが、夏限定なので、キャリアアップ処遇改善よりも加算率の大きいもの、勤務時数に合わせて月額上限なく加算されるもの(人が足りず残業で踏ん張っていただいている常勤職員も多いので)であれば、有効なものになると思います。
施設面積・部屋数等の課題
まず、現実的な問題として、夏休み期間だけ学校の近隣で、学童保育ができるだけの物件を借りて運営すること等、全国で実施しようとしても不可能です。日本の全ての校区に、都合よくそんな物件は存在しません。
仮に広さと近さの条件を満たしていても、近隣住民の理解問題(騒音だと苦情を言われる方への対応)や設備上の問題(エアコン、トイレ、手洗い場所、飲食に適しているか等)がクリアされなければなりません。
これはもう、夏休み期間において、小学校の「学童保育が適切に実施できる教室」活用を全ての小学校に義務付けるぐらいの通達でないと、解決しないと思います。
現在でも、学校によっては必要十分な部屋の学童保育利用を許可されているところはあります。ただ、「学校によっては」というところと、教室は提供されているが「学童保育が適切に実施」できない教室であることも多いです。「空き教室」という条件になっているため、図工室や理科室、家庭科室等を提供され、活用のしようがない、あるいは活動を制限した学童保育を余儀なくされている場合があります。
通常教室に入られるのは学校の先生方が難色を示され、校長先生が内部で打診されても反対に合い実現しないケースもあります。
でも、夏休み期間中は通常教室を開けなければならない、というレベルにまで上げないと、もう解消しないと思います。
学校の先生が難色を示される理由としては、
・教室を勝手に触ってほしくない、外部の人に入ってほしくない
・教室備品や掲示物、こどもの作品等の破損や紛失の懸念
・夏休み期間中に教室が使用できない(登校日・補習等)
・職員室に居づらい場合の先生のパーソナルスペースがなくなる
・仮に明け渡すとして、机や備品、掲示物の移動や原状復帰の作業が大きな負担
(触ってほしくないけど、自分でしろと言われると負担が大き過ぎる)
ぐらいなのかと思います。
これを補助金を活用して解消するなら、引っ越し業者等に依頼して、終業式後と夏休み最終日の前日等に運び出し・原状復帰をお願いすることが考えられます。引っ越し業者によって見積もりが異なることと、委託先の事業者に選定を依頼すると金額だけで選定して、作業の不備等から後々学校とのトラブルにもなりかねないので、ここは自治体主導で選定した上で、学校と学童保育のどちらもの職員が同席する場で丁寧な説明会を行い、適切な事業者による作業が必要となります。
教室利用が可能になるのであれば、年度当初に学校の職員会議で共通理解を図り、見通しを持っていただくことで混乱が防げます。
また、安全と適切な環境が両立できるので、ただ単に箱だけ用意したというような学童保育となることを防げます。
その他の課題
人材・施設確保以外で、補助金に関連する課題として残るのは備品関連と昼食提供になります。(研修等もあるのですが、学童保育の全ての課題を書き出すとキリがないので割愛します。)
備品に関しては、1.エアコン増設(室温が基準を超える場合) 2.遮光・遮熱カーテンの設置 3.冷蔵庫の設置 4.おやつ保管庫の設置 5.おもちゃ・文具・制作等に使うもの 6.テーブル 7.マット 8.PC・ポケットwifi・電話(スマホ)※学校wifiはセキュリティの観点から児童は使えても支援員・運営団体は不可となるため
9.熱中症対策品(暑さ指数計・塩タブレット・経口補水液・冷却剤等)
あたりが最低限必要になります。
本に関しては、学校の教室活用前提であれば図書室利用か一定冊数を借りることで対処できます。
また、これらの備品を夏休み終了後どうするのかという段取りも必要です。
例えば冷蔵庫を教室に置いたら置いたで、学校授業再開後は必ず撤去しなければなりません。
どこまで学校と連携できるか分かりませんが、検便の提出や使用後の消毒の運用で解消できるなら、給食室の冷蔵庫使用ができればベストです。(この場合、給食調理員さんに勤務していただくことが更にメリットになります。)
昼食提供に関しては、公設公営・公設民営に関わらず、学童保育運営事業者とは別に宅食事業者をプロポーザル公募し、サマー学童を含む市内全ての学童保育での一括契約が一番現場の負担がないと思います。
補助金+自治体予算で委託することと、弁当の売上はそのまま事業者の売上とすれば、民間企業にとってもメリットがあるはずです。
また、ご存知の通り学校現場自体が疲弊しているので、学校に通達やお願いをするだけではなく、学童保育側が学校の困る場面での協力体制を構築することも不可欠です。
まとめ
今回の考察でお伝えしたものはあくまでも一例であり、これだけすれば解決するというものではありません。地域ならではの事情等もあるでしょう。
ただ、これが実現するだけでも、夏休み中の学童保育の運営改善には繋がるはずです。
学校教育自体も、そのあり方を見直さなければならない時期にきています。
「学校教育だけ」「学童保育だけ」改善をしたところで、全体を見据えた手立てを講じていなければ必ず歪みが生まれます。
ちなみに、午前中だけ、短時間だけの居場所であれば、夏休み中も放課後こども教室が開設されているのであればそちらの活用や、近くに児童館があるなら一般来館として利用することもできます。(ただし一般来館の場合、昼食時間は一度帰宅しなければなりません。弁当を持って行って一般来館可能というのは、あまり無いと思います。)
「サマー学童」ということだけを捉えたピンポイントの対策ではなく、小学生の教育・過ごし方を縦割りではなく横串で考えた施策が必要です。