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初めて買ったCDを知人に聞いてみた

 初めて買ったCDは何だったかを思い出したり、人に聞くのは実に面白い。その人のだいたいの年齢、時代背景、潜在的な好み、それに人柄だって知ることができるかもしれない。そう感じたのは、音楽好きの仁平さん(仮名)と「初めて買ったCDは何か?」ということについてインタビューをしたのがキッカケだった。

 仁平さんは小学4、5年生の頃に初めてフジファブリックの「フジファブリック」というアルバムを買った。「フジファブリック」は発売されたのは彼らがデビューしたばかりの2004年で、その頃はORANGE RANGEやケツメイシなど、爆発的に売れているアーティストが多くいた。そんな中で、なぜフジファブリックだったのだろう?と疑問に思った。
すると仁平さんは「フジファブリックだと知らなかったが、耳に聞こえてきた歌詞や曲に衝撃を受けて、誰の曲だろうと検索しまくった。そして見つけた曲が"陽炎"という曲で、それが入っているアルバムが欲しかった。」と言っていた。
今ほどインターネットで検索することは当たり前ではないし、気軽でもない。それでも何とか聞こえてきた歌詞をヒントに、フジファブリックだと見つけたそうだ。そこまでして仁平さんが知りたいと思ったのは、よほどフジファブリックの音楽に衝撃を受けたからだろう。

 ここからは少しフジファブリックについて語る。フジファブリックは山内総一郎(Vo.&Gt.)、金澤ダイスケ(Key.)、加藤慎一(Ba.)のスリーピースバンドである。そして、フジファブリックを語る上で欠かせないのが、志村正彦という天才ロッカーがいたことだ。歌唱力だけで言ったらお世辞にもうまいとは言えない。だけど、彼が生み出す不思議なリズムと思いも付かない詩の言葉選びに、聴けば聴くほど引き込まれるファンが多かった。
例えば、仁平さんが買うキッカケとなった曲「陽炎」は、「夏」というわかりやすい言葉は使わないのに、聴けば夏の切ない情景を思い出してしまう叙情的な詩だ。だけど、ゆらゆらと揺れるようなぼんやりとした始まりから、サビに行くにつれて息切れしそうなほどテンポが上がるロックなメロディーに仕上げている。
そんな天才的な音楽を生み出す志村正彦は、10年前にこの世を去ってしまった。フジファブリックは、突然フロントマンであるボーカルを失った危機的状況の中、ギターの山内が「俺がボーカルをやる!」と言い、今のフジファブリックがある。

 私がフジファブリックというバンドを知って好きになった頃には、すでに志村はこの世にはおらず、山内中心のフジファブリックだった。だから、志村が残した曲は知っているけど、特に違和感なく今の彼らを受け入れることができた。
だけど、志村あってのバンドが好きだったファンにとって、今のフジファブリックはどのように映っているのだろうか?とずっと気になっていた。
インタビューをした仁平さんも志村正彦に惹かれたその一人だ。「不思議な曲調だけどキーボードの音が強く、聴き心地が良かった。そして、歌詞も何を伝えているのか一見しただけではわからないからこそ、フジファブリックの内側に一体何があるのだろうと気になったのかも知れない。そこに特別感を抱いた。」

 まさに志村の詩とメロディーに惹かれた仁平さんだからこそ、新しいフジファブリックをすぐには受け入れられなかった。
しばらくフジファブリックの音楽は聞かなくなってしまったが、大学生になりフジファブリックのライブを観に行ったそうだ。受け入れられないのにライブを観に行けるのはすごいと私は思ったが、その理由が「1番最初に衝撃を受けたバンドだから、このまま一度も聴かずにいるのは少し違う。だからちゃんと自分の目で見て、それでも受け入れられなかったら諦めよう。」ということだった。

 生きている中で訳もなく衝撃を受けることなど、そんなに多くはない。だからこそ向き合いたかったという姿勢に、私はとても感動した。仁平さんの目に映ったのは、志村がつくった音楽を歌うフジファブリックに対して、観客が拳を築き上げて聴いている光景。それを見て、仁平さんは「ボーカルは山内で、山内の良さもある。その中でもしっかり志村正彦という存在は生きているんだ。」と気付き、「それまで志村じゃないと聴きたくないと尖っていた自分が小さかったな。」と振り返った。

 そんな話を聞きながら、仁平という人間は音楽だけでなく、色々なものごとに対しても自分が納得できるまで追求し、自分の目で真実を確かめて、しっかりと向き合う真面目な人なんだろうと感じた。それだでなく、フジファブリックが生み出す音楽のように、とても人間味のある人だった。何か影響されたもので人となりが出来上がるのか、それとも潜在的にある自分とどこか共感できるものがあって惹かれるのか、どちらかわからない。でも、ふと気になって買った一番最初のCDが、今でも仁平さんにとって大きな存在となっていることは確かだ。

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