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"シルクドソレイユ" そこにあったのは、もう一つの世界。

人生で初めて、シルクドソレイユを観てきた。
北海道の札幌で生まれ育った自分にとって、シルクドソレイユはとても遠いものだったし、そもそもシルクドソレイユの存在を知ったのだって10代後半だった気がする。

決して裕福な家庭ではないものの、思い返せばサーカスには何度も足を運んでいた。
初めて見たのは北海道留寿都(ルスツリゾート)で観たロシアのグレイトモスクワサーカスだった。

まだ小学校に入っているかいないかくらいの幼い頃だったが、その時見た演目は今でも覚えている。
その中でもとりわけ鮮明に残っているのが、猫と愉快なご夫婦の演目だった。

ルスツリゾートの宿泊者であれば、追加料金を払うことなく遊園地やプールや温泉やサーカスに入場できるので、
その日はサーカスを見た後、遊園地に行き、プールで遊び、温泉に入った。
いとこも一緒に行っていたので、全部で8人。
それぞれ温泉に入った後、大きな噴水(のショー)がある広場で集合ということで、先にお風呂から上がった父親といとこのお姉ちゃんと待っていた。

そこで見かけたのが、サーカス団の猫のご夫婦。
おそらく、夜の公演が終わり、温泉に向かっているところだったと思う。
完全にOFFであるはずだったが、2人の関係性は演目中と全く変わらず、すごくドキドキしたことを覚えている。
ある種キャラクターであり、異世界の人物である人の、“生活“をのぞいている様な気がしたからなのか、
当時の自分にとっては珍しかった“外国人“だったからなのか、
それとも単に猫のご夫婦の奥さんがとても綺麗だったからなのか。

それはまた今度、あの日の自分に聞いてみたい。


何はともあれ、その日が自分のサーカスデビューの日だった。

そこから3泊4日ほどルスツに滞在していたが、何度もサーカスに足を運んだ。
一般客が1人だけ選ばれて舞台上に上がれる演出の時に、どうしてもそこに上がりたくて必死に手を上げてアピールしたのも懐かしい。

それから月日は経ち、小学校5年生くらいの頃に見に行ったのが我らが日本が誇る木下大サーカス。
世界三大サーカスの一つなので、世界的に認められている大きなサーカス団ということになる。

ジャグリングや空中ブランコももちろんあったが、ホワイトライオンやゾウやキリンが出て来るのが特徴的なサーカスで、その時に“ピエロ“という存在に取り憑かれた。

ピエロはパフォーマーとしての役割だけではなく、物語を進めるストーリーテラー(日本語だと語り部?)の役割も担っていて、さらには要所要所でのアクティングもあった。

開演前には客席に出てきて、1人で会場全体を沸かしている姿がとてもかっこよくて、帰りにグッズショップで“ピエロの赤い鼻“を買って帰った。

その後も、中学3年生の時に当時から付き合っていて今も一緒に住んでいる川崎の誕生日プレゼントに、木下大サーカスのチケットをプレゼントして、一緒に見にいった。

約4年ぶりのサーカスだったが、変わらずピエロに心を奪われて、また赤い鼻を買おうとしたけど、たしかその時は我慢した。


そして、超久しぶり&念願のシルクドソレイユ(アレグリアという演目)を今回観に行くことができた。

今まで観たどんなエンターテインメントよりもワクワクしたし、もう出会えないと思っていた僕がダントツで大好きなトイストーリーと並ぶエンターテインメントに出会えたことが嬉しかった。

サーカステント(ロビー)に入った時の空間の色や匂い、観客の興奮。

そして公演が行われるテントに入ると、予算なんて言葉が頭に浮かばないくらいの美術。
これは今まで観てきたものとは違うということが、その時初めて、本当の意味でわかった。

そしていよいよ、公演が始まった。
よくある“公演中の注意“からの“レディース&ジェントルメン〜“からの“音楽バーーーン“なんてものではなく、ごくごく自然にショーが始まった。

そして最初の演目で心を奪われた。
久しぶりにエンターテインメントを観て泣いた。
隣で座っていた川崎も泣いていて、一緒に連れていった自分と川崎の妹(高2、中3)も椅子から前のめりになって、舞台に釘付けになっていた。

公演中のメモはこんな感じで、たくさんのことを感じて、たくさん心が動いた。

空間を色で埋める
世界を作る
アニメーションと同様の総合芸術
サポート役の顔
フォーカルポイントを程よく絞らせない
アートとエンタメの融合
パフォーマーではなくアーティスト
脚本当て書き
演者の性格
オープニングで心を掴む
スポンサーを大切にする
棒を棒として見ない好奇心
脳の錯覚

この中でも、特に『世界を作る』というのが、僕が今まで観たエンターテインメントで最もワクワクした理由だと思う。

僕と同じようにシルクドソレイユを観にいったことがない人もたくさんいると思うので軽く説明しておくと、シルクドソレイユにはストーリーがある。

従来のサーカスのようなざっくりとしたストーリーではなく、その脚本を映画にすればアカデミー賞を取れるような骨太のストーリー。

そこに無理や矛盾はなく、どれ程バカバカしい事を展開しても、それによってむしろますますかがやきを増すパフォーマンス。

実際に会話をしたわけではないが、物語の中のキャラクターと実際の演者の性格は完全に一致しているように見えた。

そのテントの中では、もっというと公演が始まってから終わるまでの限られた時間は、
自分は日本、東京、お台場という世界ではなく、
もう一つの世界、アレグリアにいた。

その瞬間は間違いなく、脳が錯覚を起こしていた。


トイストーリーを観た後も、アレグリアを観た後も、同じように自分の眠っていた好奇心が蘇るような感覚になった。

自分がいつも遊んでいるあのおもちゃたちにも世界があるような気がしたし、アレグリアのキャラクターたちにも世界があるような気がした。

それと同じように、野良猫には野良猫の世界があって、本には本の世界があって、ありにはありの世界がある。
そして、人間には人間の世界ももちろんある。

僕らは世界を一つだと思っているが、世界には世界がたくさんある
頭ではなく、心でそれを感じることをできたら、本当の意味で好奇心が動き出す。

だから、僕が作りたいのは世界の中にたくさんある世界のうちのもう一つの“世界“

アニメーション、テーマタウン。
この二つは“世界“を作ることができる可能性があると僕は信じているので、どうにかしてこの土台を自分が死ぬまでに作りたい。

そして自分が死んでからもその世界が生き続け、自然に発展と衰退を繰り返していってくれるなら、これほど幸せなことはない。

最後に。

荒んでしまったこの"世界"にも、
今なお、わずかながら大きな希望は残っていると感じさせてくれたシルクドソレイユのアレグリアのメンバーのみなさんに、心から感謝と敬意と尊敬と、、、その類の全てを伝えたい。

すごいや、シルクドソレイユ。

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