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Younger Than Yesterday
今やもっぱら "フェス" というアーティスト集合型の大規模コンサートが隆盛を誇り、それ自体もコロナ禍で開催を見送る…という風潮になりつつあるが、フェス文化がピークに達する以前は、大物アーティストの来日コンサートは、基本的に単独公演で行われることが多かった。
滅多に来ない外タレがレジェンドであればあるほど、倍率も高くなりチケットも取りづらくなる。そして何より、今観ておかないと、果たして次の来日が(年齢的にも)あるかどうかも分からないとなると、レア度も高まる。
'99年。僕はバンドをやっており、オリジナルのデモテープができたばかりの時期だった。
当時行われた Brian Wilson の来日ツアーにて。場所は大阪フェスティバルホール。バンドのパートナーであり、僕に『Pet Sounds』の存在を教えてくれた友人とともに観に行った。
先述したとおり、著名な外タレのコンサート時はいろいろと油断できない。レア度が高いだけに、観客席にも有名アーティストたちが座っていることも多い。
それに目をつけた僕らは、心から敬愛していた日本屈指のポップメイカー、 L↔︎R の黒澤健一氏に自作デモテープを渡すという目的を達成できた。
L↔︎R の音楽、とりわけ黒澤健一氏の作る楽曲群は '60〜'70年代への愛とオマージュがふんだんに散りばめられており、当時業界内での評価が異常に高く、例に漏れず僕も彼を崇拝する一人だった。
そんな中、大阪とは言え、公演自体珍しかった Brian の来日。おそらく彼がツアーを観客として "ハシゴ" で観に来るであろうことを予想し、あらかじめ「彼宛て」と一目で分かるテープを持参して臨んだのだ。
第一部と第二部に分かれて行われたコンサート内で、各部の間に10分ほどの休憩が挟まれる。そこを狙って僕らは、開演前にめざとくすでに「そこにいる」と見つけていた黒澤氏の席に向かう。
緊張しながら自己紹介をし、連絡先とメッセージを同梱したバンドのデモテープを渡す。一瞬が永遠に感じられるような長い時間だった。
彼は気さくな表情で、突然不審に現れたどこの馬の骨かもわからない僕らのテープを快く受け取ってくれた。古い記憶だが、隣にはおそらく萩原健太氏もいた。
不思議なものだ。奇しくも同じフェスティバルホールで、ステージ上に立つ黒澤氏を観た数年後、客席でオフの顔をして座っている彼と直接対峙することが叶おうとは…。
若気の至りも甚だしい。でも、想定をしまくっていたので、見つけた時も不思議と落ち着いていたような気はするし、相手の時間を奪わないよう必要最低限の紳士的な振る舞いは保った気がする。
何より、ここ一番で「勇気を出して踏み込む」という度胸の源泉的な体験となったことは間違いない。
デモテープの返事は残念ながら無かったが、小さな想定や可能性を楔(くさび)を打つように描きながら、どんな時でも万全の気持ちを持って生きることは大事だな、という理念の礎となった、今も小さな大切な思い出として残っている。
その日は Brian の曲を生で聴けた幸せと同時に、大きなものをたくさん持って帰った。
20年も前の話。もう時効だろうと思い書き残しておく。タイトルは僕の一番好きな彼らの曲名から。
今日はこんなところで。
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