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翻訳者が出版社をはじめて――『ブリクセン/ディネセンについての小さな本』

 デンマーク語(ノルウェー語、スウェーデン語)翻訳者の枇谷玲子です。
 
 2005年に『ウッラの小さな抵抗』(インゲ・クロー作、文研出版)を翻訳して以来、80冊ほどの本を訳してきました。
 2021年8月に合同会社子ども時代という北欧専門の出版社を設立し、『デジタルおしゃぶりを外せない子どもたち』と『ブリクセン/ディネセンについての小さな本』という2冊の本を翻訳、刊行しました。


 2冊刊行した時点では、まだ見えていないこと、分かっていないことが多いのですが、短い期間で分かった、翻訳者が出版社を運営するメリットとデメリットについて今思うことを簡単に書いてみたいと思います。

メリット

1.著者来日イベントや刊行イベントを自分の裁量で行える

 翻訳書の利益は概してあまり多くなく、多くの出版社が外国の著者を招いてのイベントを行うことに消極的なのも無理はありません。費用対効果を思うと、著者来日イベントや刊行イベントは行わないというのも一つの道です。
 ですが、自分で作った出版社であれば、自分の裁量で著者来日イベントや刊行イベントを行うことができます。

参考:『ブリクセン/ディネセンについての小さな本』著者来日の様子

2.販売や宣伝の状況を把握しやすい

 訳者として訳書を出しても、果たして本が売れているのか、きちんと宣伝がなされているのか全容を知ることは難しいです。せっかく時間をかけて訳した本が、十分に宣伝されていないのではないかと疑心暗鬼になったことも。
 ですが、自分の出版社から出した本でしたら、販売や宣伝の状況についてほとんど全て把握することができます。
(出版社をしてみて分かったのが宣伝の方法は新聞広告や書店営業の他にも色々ありますが、大抵は宣伝費がかかるということです。翻訳者目線だと宣伝がされていないように見えても、実は見えないところで出版社がお金を払って宣伝しているケースもあるのではないかと気付かされました)

3.編集者さんや営業さんの仕事を知れる
 

 1人出版社と複数の従業員がいる出版社さんとでは状況は同じではないでしょうが、編集者さんや営業さんがどういう仕事をしているかを一部かもしれませんが、知ることができ、1冊の本を作るのに多くの人の手がかかっていること、皆さんのご苦労の一端を知ることができます。
 そうした中で、翻訳者としてもっとこういうした方がよいのではないかと別の視点から考えられるようになったのは大きな収穫でした。

デメリット

1.制作、宣伝、配送など翻訳以外の作品に多くの時間をとられる

 どれも楽しい作業ですが、かなりの時間をとられるのは確かです。特に大変に感じているのは法人税の申告です。

2.お金がかかる

 
本を1冊作るのには数百万のお金がかかります。そのような大金を用意しなくてはいけないのは一番の大きなデメリットかもしれません。
 最近ではクラウドファンディングで資金を集める出版社も出てきていますが、そのような方法をとる選択をしている出版社がいらっしゃるのはよく分かります。

 ざっくりとですが、出版社を1人で運営するメリット、デメリットについて書いてみました。

 昨年12月に刊行しました『ブリクセン/ディネセンについての小さな本』を引き続きどうぞよろしくお願いします。

 本の作り方についてはこちらの本が大変参考になります。

 営業の仕方についてまとめられた本はあまり出ていないようなので(社外秘が多いのでしょうか)、これから出てきたらありがたいなと思っています。版元ドットコムに私は入会しているのですが、そちらで営業の仕方についての講座も開催されているようです。ありがたい限りです。

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