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DVD特典映像の裏側

 映画のDVDやブルーレイディスクをレンタルしたり購入したりするとついてくる特典。監督や出演者のインタビューやメイキングなどの映像、関係者が本編に沿って話をする音声解説(オーディオコメンタリー)など種類はさまざまですが、近頃は動画配信サービスに対抗する策として、その内容が充実してきているそうです。ときには本編より面白いと話題になるようなものもあります。私自身は普段、DVDを見ても本編だけで満足してしまって、なかなかオーディオコメンタリーまでたどり着くことができないのですが、作品のファンにとって、特典の映像や音声はDVDを見たり買ったりする際の楽しみの1つだと思います。

 しかし、字幕演出家・落合寿和氏が著書『英語字幕ナビ』で「本編より作業が大変な音声解説の翻訳」と言っているように、とくにオーディオコメンタリーの翻訳はなかなか手がかかります。

 「1つの作品の本編と音声解説両方を同一人物が訳す事は実は少ない」そうで、これは推測ですが豪華特典とは謳っていてもオマケなので本編より安価に仕上げなければならないといった裏事情もきっとあるのでしょう、駆け出しの翻訳者にその仕事が回ってくることがしばしばあるようです。私もこの5~6年の間にインタビューやメイキング映像、オーディオコメンタリーを翻訳する機会が何度かありました。今回は、そんな特典を訳した際の経験談(主に苦労)を少しつづってみたいと思います。

オーディオコメンタリーは話がマニアックになりがち

 オーディオコメンタリーはたいてい出演者やスタッフが何人かで対話する形式が多いのですが、出演者や監督をはじめ、カメラマン、美術担当、脚本家などが登場します。アニメーションの場合は、アニメーターやクリエーターが話すこともありますね。監督の過去作品や参考とした映画、文学や歴史、機材や撮影手法、ファッションや美術…。ありとあらゆることが語られ、話はあちこちに飛びます。撮影時に起きたちょっとした出来事やロケ地だった小さな町の話などとなると、裏取り(事実確認)はほとんど不可能です。
 マニアックな内容だからこそ特典としての意味があるのですが、ある場面の余談のような感じでちょこっと触れられただけの話を訳すのは、けっこうな難易度であります。そして、本編ではセリフのない静かなシーンでもずっと解説し続けているので字幕の枚数が多くなりがち、さらにいろいろ話している内容を制限字数内に収めなければいけない…と、翻訳者はさまざまな困難に立ち向かうことになります。

誰が話しているのか分からなくなる

 本編と違って、台本のないオーディオコメンタリー。音声から書き起こしたスクリプトをいただけるのですが、話者までは書いていないこともあります。複数人で男性ばかりがしゃべっていたりすると、音声からは区別がつかず誰の発言なのかはっきり分かりません。何度聞いても分からなければ、話している内容や順番から推測するしかないのですが、「この人だろう」と思って訳していたら、話者が変わって「この人」と思ってた人が話し始める(=推測が間違っていた…!)なんてことも。
 前出の『英語字幕ナビ』では「母国語以外の場合、声の質の違いは意外に区別しにくい」と説明されていましたが、私は日本語の会話の聞き起こしをしたことがあるので分かります。母国語でも複数名でランダムに話されると(自分が知らない人の場合は特に)、音声だけで話者を区別するのは意外と大変なのです。ましてや外国語では…ですよね。
 また、スクリプトも誰かが聞き取ったものなので、明らかな間違い(文脈から考えて絶対にこの単語じゃない…)があったり、inaudible(「聞き取れない」って私も聞き取れない…泣)に悩まされることもあります。

本編を見ることができない場合もある

 インタビューなどの場合、数分程度の映像ではあるものの、当然ながら映画本編の内容に触れられているわけです。2時間程度の映画で本編映像も参考として支給された場合には、もちろん見ないわけにはいきません。時間に余裕があれば嬉々として視聴します。しかし、数分の映像(当然ながら翻訳自体は数分では済みませんが)のために、まず下準備として数時間を費やすのは、迫りくる納期を考えるとツラいこともあります。
 一方、ある映画のオーディオコメンタリーを訳した時には、公開前のタイミングだったため、本編の映像や字幕を見せてもらえなかったことがありました。本編のセリフが聞こえている箇所(「抜き」と言います)もあるというのに…。幸い(?)、その作品は実話に基づくストーリーだったので、リサーチをすることである程度話の流れや結末も見当がつきましたが、抜きの字幕は前後が分からない中で四苦八苦しながら訳出しました。

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 特典映像や音声解説では、どのようにして作品が出来上がったのか、監督の意図や制作の裏側を知ることができます。特典の翻訳をしていると上記のような苦労もありますが、面白い裏話や作品理解を深めてくれるような話が多く、それらをしっかり伝えるためには気が抜けません。そうして訳した字幕を通して、みなさんに作品をより楽しんでいただくことができたら翻訳者冥利に尽きるなと思います。

 (自分のことを棚に上げて言いますが、)特典もぜひ見てくださいね!

(文責:藤野玲充

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