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カウトケイノー血塗られたナイフ

 あけましておめでとうございます。今年が皆様にとって良い年になりますように。

  昨年は、カウトケイノのトナカイ警察が活躍する『影のない四十日間』(オリヴィエ・トリュック著、久山葉子訳)が翻訳ミステリー大賞シンジケート「書評七福神の十一月度ベスト!」に選ばれ、北極圏ミステリーの時代が到来したか、とちょっと期待しております。

  カウトケイノを舞台にするミステリーのシリーズは、もうひとつ、ラーシュ・ペッテションによる検事アンナシリーズがあります。

 物語は、アンナが、夜遅く雪道をアルタからカウトケイノに車で向かう途中、トナカイと衝突する場面から始まります。アンナは車に備えてあるナイフで手際よくトナカイの息の根を止め(苦しまないように)、耳を切り落として保存し(耳に持ち主の印がついている)、警察に連絡します。北の国ではこうした事故を起こした場合どう処理するかが教えられています。

  アンナはストックホルムで働く検事です。亡くなった母は,トナカイ飼育の生活から自由を求めてラップランドを離れて都会に出たサーミ人です。アンナは母の親戚とはほとんど付き合いがありませんでしたが、カウトケイノに住む祖母から突然助けを求められます。レイプの嫌疑をかけられた従兄弟ニルスを、救ってくれというのです。アンナの一族は多くのトナカイを飼育していますが、山でトナカイの世話をするニルスは貴重な男手なので、彼が捕まると暮らしていけなくなります。アンナは自分の専門である法律とは異なる,サーミの厳しい生活に根付く「正しさの基準」と向き合うことになります。アンナはどう解決するでしょうか。

『カウトケイノ―血塗られたナイフ』の表紙

 これは『カウトケイノ-血塗られたナイフ』に載っている地図ですが、アルタはこの中で最も北の町でここに空港があります。まっすぐ南下するとカウトケイノです。

  この本はサーミ成分が満載です。なにしろ、最初の一文が「ヨイク。」ですから。(ヨイクはサーミの民族歌謡です。)

 サーミの伝統的衣装コルトについては、アンナに次のように言わせています。

 「多くの飾りがついたベルトを締めたサーミ人の政治家は、カウンターからビールを手に取った。ベルトに並ぶ丸いボタン、それは彼が独身であることを表す。ボタンには精巧な細工がなされベルトをぎっしり埋めている。裕福な家柄ということだ。もし私にベルトとコルトの飾りの意味を読みとる知識があれば、所有者の家族構成、川のどちら側に住んでいるか、トナカイをどのくらい所有しているかもわかるはずだ。」

 

 著者のラーシュ・ペッテション(Lars Pettersson)は、1993年以来冬はカウトケイノに住んでいて、アンナを中心とするシリーズを、すでに4冊書いています。

 アンナは自分がサーミの出身であることをほとんど意識せずに、ストックホルムで働いていたのですが、シリーズが進むにつれ、サーミへの帰属意識を強くしていきます。アンナの意識の変化が興味深いです。

 

 オリヴィエ・トリュックのトナカイ警察シリーズの翻訳が全部出版されたら(実現しますように)、今度はアンナのシリーズの翻訳がでないかな、とひそかに願っています。

サーミ人の伝統衣装コルト(samer.seより)
サーミ人の家族(1900年頃)(Wikipedia サーミ人より) 
円錐状のテントはコタとよばれる。

トップ画像は30 Best Kautokeino Hotelsのページより

(文責:服部久美子)


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