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北欧理事会/会議文学賞の日本での認知を広めたい!②

スウェーデン系フィランド人作家にご注目を!

 前回の①の記事で、北欧理事会/会議文学賞(Nordisk Råds litteraturpris/The Nordic Council Literature Prize)の概要と邦訳されている作品をお伝えした。

 ①の記事に書いた通り、本賞受賞作の大半は未邦訳なわけだが、とりわけスウェーデン語系フィンランド人作家による重要な作品が未邦訳なのが気になる。ムーミン・シリーズが特に有名で、今年、本会の久山葉子さん翻訳で自選短篇集が発売されたトーベ・ヤンソンなども、スウェーデン語系フィンランド人作家だと言うと、分かりやすいだろうか。

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 たとえば2014年本賞受賞作『蜃気楼38』(Hägring 38)(フィンランドの歴史を批判的な視点で、サスペンス要素も盛り込みながら振り返った小説)を書いているKjell Westöはスウェーデン、フィンランド両国で愛されているとてもポピュラーな作家のようだが、驚きの未邦訳だ。

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  私も彼の本は1冊だけ読んだことがあるが、流れるようなよどみない文章、サスペンス要素と詩情を感じさせるムードたっぷりな世界観、人間の心の機微を繊細にあぶり出す洞察力に魅了されながら、登場人物達は一体、何を考えているのだろうかと、最初から最後まで、ハラハラしながら一気に読んだ。そして読み終わった後も、世界にはこんなにすごい作家がいるのか、という驚きで、胸の鼓動が止まらなかったのを覚えている。ぜひどなたかに、邦訳してほしい。

 昨年本賞(児童書部門)を受賞した絵本『私たちはライオンだ!』(Vi är lajon!)も、スウェーデン語系フィンランド人作家による作品。こちらも版権は空いているようだ。

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他にも宝がごろごろ転がる賞

 スウェーデン語系フィンランド人による作品だけでなく、他にも宝物のような作品がこの賞を受賞/ノミネートしている。たとえば、デンマーク、ノルウェーでも評判のアイスランド作家Jón Kalman Stefánssonは、本賞に4回もノミネートしている。『魚に足はない』(Fish have no feet)は、北欧だけに留まらず、マン・ブッカー国際賞にもノミネートしている。この作家も私が知る限りでは未邦訳ではないか。

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↑ Jón Kalman Stefánsson魚に足はない』の英訳。

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↑ Jón Kalman Stefánsson『アスタについての物語』のデンマーク語版は同国で大変評判だった。ノルウェーでも話題に。

今年のノミネート作

 今年のノミネート作は去る2月に発表された。受賞作の発表は今年の11月2日だ。

 大人向けの作品、児童書ともに14作ずつノミネートされた。

ノルウェー、家族の愛憎劇の名手、Vigdis Hjorthとデンマークの詩人Ursula Andkjær Olsen

 4月15日には、ノルウェーの小説家Vigdis Hjorthとデンマークの詩人Ursula Andkjær Olsenを、日本語→スウェーデン語翻訳者で文芸批評家のYukiko Dukeさんがインタビューした。

 Vigdis Hjorthは前作の『遺言』( Will and Testament)が大ベストセラーに。全米図書賞にノミネートされたりと国際的にも成功を収めていて、邦訳が期待される作家だ。
 新作である今回のノミネート作、『母を亡くして』(Is Mother Dead)も、Vigdis節健在である。日本の作家で言うと、小川洋子さんに雰囲気が近いのかもしれない。 

 Vigdis Hjorthは自分の作品だけでなく、他の作家の作品や女性文学史を語るのにも長けている。以下のインタビュー(デンマークの作家トーヴェ・ディトレウセンについて生き生きと語っている)なども素晴らしくて、ため息が出る。

 ロサンゼルス・レビューの英語インタビューでも、Camilla Collett、Amalie Skram、ウンセット(Sigrid Undset)をはじめとしたノルウェーの女性文学の流れについても見事に語っている。ノーベル文学賞作家ウンセットは北欧のフェミニズム文学を語る上で決して無視できない女性作家(1949年没、版権切れ)。今Pengine社からもリバイバルが進んでいることもあり、世界的に再び注目を浴びている。このウンセットをはじめとするノルウェー女性文学の系譜を継ぐVigdis Hjorthの作品が、今年の北欧理事会文学賞受賞の本命ではないかと、遠い東の国の一北欧オタクとして、勝手に賭けたい。

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ノルウェーの小説家Lars Amund Vaage とオーランドの小説家Sebastian Johansが対談

 4月22日にはノルウェーの小説家Lars Amund Vaage とオーランドの小説家Sebastian Johansの対談も行われた。

スウェーデンの小説家Andrzej Tichýの配信イベント

 4月29日スウェーデンの小説家Andrzej Tichýの配信イベントも行われた。

スウェーデンの小説家Johanne Lykke Holmとグリーンランドの小説家(グリーンランド語とデンマーク語の両方で書いている)Niviaq Korneliussenの対談

 5月6日スウェーデンの小説家Johanne Lykke Holmとグリーンランドの小説家(グリーンランド語とデンマーク語の両方で書いている)Niviaq Korneliussenの対談が配信された。

 Niviaq Korneliussenはトランネットのフランクフルトブックフェア旅行記の7ページ、6.グリーンランドからやってきた《北極ノワール》の項でも紹介されているようだ。

今年のダークホース? グリーンランドの才能溢れる新星Niviaq Korneliussen

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 前作『ホモ・サピエンヌ』(Homo Sapienne)もデンマークでヒットし、北欧理事会文学賞にノミネート。今回の『花の谷』(Blomsterdalen)で2度目のノミネートを果たした。1990年生まれとまだ若い作家だが、デンマークで現在非常に高まっているグリーンランドの独立と彼らのアイデンティティーについての議論の流れと彼女の大きな才能をくんで、彼女に賞が授与される可能性もなきにしもあらずか。今回の賞のダークホースと呼べるだろうか。

 上のインタビューでは、『グリーンランド人であること』について、デンマーク語で語っている。グリーンランド人である作者の操るデンマーク語のエキゾチックな響きと彼女の言葉の持つ独特のグルーブ感や、なんとも言えない美しいうねりをぜひ堪能してほしい。

フィンランドの作家Pajtim Statovciと アイスランドの作家Guðrún Eva Mínervudóttirの対談

 5月12日には フィンランドの作家Pajtim Statovciと アイスランドの作家Guðrún Eva Mínervudóttirの対談が配信された。

スウェーデンの詩人Heidi von Wright とフェロー諸島の詩人Lív Maria Róadóttir Jægerの対談

5月19日にはスウェーデンの詩人Heidi von Wright とフェロー諸島の詩人Lív Maria Róadóttir Jægerが対談。

北欧ブッククラブで『タイムボックス』が課題図書になっているアイスランドの大作家、アンドリ・S.マグナソンとサーミの詩人Inga Ravna Eiraの対談

 5月26日には『タイムボックス』(野沢佳織訳、2016年、NHK出版)、『ラブスター博士の最後の発見』(佐田千織訳、2014年、東京創元社)などの邦訳があるアイスランドのアンドリ・S.マグナソンとサーミの詩人Inga Ravna Eiraの対談が行われる。ちなみに『タイムボックス』は現在、北欧ブッククラブの課題図書になっている。

 アンドリ・S.マグナソンの今回のノミネート作On Time and Waterは、昨年の北欧語書籍プレゼン会でも展示がされていた本で、とても気になる。邦訳を待ちたい。本会には日本では大変珍しいアイスランド語の翻訳者も所属している。

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 11月2日の受賞作発表が今から待ち遠しい。

児童書部門も

 今回は大人向けの作品のみ紹介したが、本賞には児童書部門もある。

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 デンマークのZakiya AumiのYA『火山』(Vulkan)をはじめ、話題書が多数ノミネートされているようだ。

北欧の多様な言語に注目

 記事を書いていてふと思ったのだが、フェロー語、グリーンランド語、サーミ語を原語から日本語に訳せる訳者はいるのだろうか。今回は私が読むことのできるデンマーク、ノルウェー語(スウェーデン語)の作家について多く書いたが、他の言語の作家についてもぜひ知りたいものだ。

☆翻訳者選定にぜひ本会のサイトをお役立てください。

翻訳者リスト

(文責 枇谷 玲子

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