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宝箱を開けるように|2021年日本ダービー展望

ダービーだけは結果を知りたくない、と毎年のように思っている。

皐月賞は各路線を勝ち抜いてきた戦績の汚れていない馬たちの争いになるから。
各路線を勝ち抜いてきた雄を独自の物差しで比較し、幾つものレースパターンを想像し、まだ見ぬ未来を想像する作業は胸が高鳴る。
そして訪れる現実は、自らの好奇心が導き出した想像をいつも上回る魅力的な走りを見せてくれる。

その点、ダービーは一度は力比べしてしまったメンバーに、何らかの理由で少し遅れをとった別路線組が合流する構図となる。未知のページをめくる高揚感というよりは、十分なヒントが散りばめられた試験問題を解く気分になる。
純粋に予想を楽しめる皐月賞と違い、ダービーの予想を外すと「この一年、お前は何を見てきたのか。」と競馬の神様にお叱りを受けるような気持ちになる。

さらにタチの悪いことに、東京芝2400mは求められる資質がはっきりしており、ある種の再現性に優れたコースであるように思える。(もちろん現実的には同じレースは二度施行されないので、再現性なんて言葉に意味はないのだが。)
世代随一の力をこの舞台で発揮できる馬を見極められないことは、己の節穴ぶりを突きつけられることと同義なよう思える。

世代最初の新馬戦が始まったときから、すべてのレースで翌年のダービーのゲートに収まることがの能うか否かをを想像する。
それは過酷なサバイバルレース。世代上位の評価を受けながらも、距離に泣き、成長に泣き、怪我に泣き、気持ちが折れ、不運にも賞金を詰めず脱落していった馬が何頭いただろう。
ダノンザキッドの直前離脱でフルゲートにならなかったのは非常に残念だが、プラチナチケットを手に府中へ集うことができた猛者たちはみな魅力に溢れている。

さて、皐月賞でエフフォーリアがあまりにも強すぎたからか、今年のダービーは皐月賞組を差し置いて未知の魅力を有する別路線組が2~5番人気を集めている。(前日18:00時点)
そして、6番人気以降に連なる皐月賞組は、武豊の期待値で人気を集めているディープモンスターを除いてほぼ皐月賞の着順通り。

未知の勢力がエフフォーリアに通じるのか、それらの組は皐月賞組より強いのか。この二点がおよその争点である、というファン心理が如実に表れているように思える


もしあなたが馬券を当てたいなら、素直にエフフォーリアを信じればいい。
無敗の皐月賞馬は強く、1枠1番は有利で、殆どの有力各馬は既に撃破している。
皐月賞前にはむしろダービー向きの評で中山コースの適正を不安視されていたが、器用に対応して完勝。
折り合いに苦労する様子もないので距離延長も気にならないし、およそ戦前の時点で死角らしい死角を指摘することは難しい。

もし不安があるとすれば、まだ経験したことが無い展開への対応か。
多くの馬は敗北を重ねて自らの得手不得手を学ぶが、無敗馬はその経験ができない。
外々を回ってスパートしてしまったサートゥルナーリア、距離への不安を拭い切れなかったダノンプレミアムのような落とし穴が待っているかもしれない。
無敗馬はなんでもできる馬とは限らない、という点を、我々は肝に銘じなければならない。
でも、たぶん大丈夫。若き横山武史騎手は大舞台で臆するような性格ではないし、皐月賞で伸びないインを躊躇なく切り裂いたように、エフフォーリアの特質も十分理解している。そして大一番でも冒険心を持って攻めの騎乗ができる胆力を有する人物である。

戦前時点で、エフフォーリアの評価を下げる合理的な理由はない。だが、そこは各々の競馬観。
エフフォーリアを嫌う人は、各々の美学と競馬観と信念に基づいてエフフォーリアを嫌ってほしい。
後から見返しても、なるほどと膝を打てるような見識とともに。
それはきっと、幾重にも積み重なった2021年のダービーの論争に、新たな光を当てるだろうから。


サトノレイナスが2番人気に支持されているのは、ルメール騎手が早い時点で今年のパートナーに選んだからか。
とはいえ、いくら牝馬が時代といえど、混戦の世代の上位勢の一角に過ぎぬ彼女がここまでの人気を集めるのはいささかやりすぎのように思える。だが、父の産駒らしいしなやかで伸びやかな走りは、東京の広くて長くて速い直線が似合うだろう。
牝馬の時代を信じる方は、ぜひサトノレイナスを馬券に加えてほしい。


シャフリヤールグレートマジシャンは別路線。
前者は毎日杯のスーパーレコードで駆けており、共同通信杯でしのぎを削った馬たちはそのまま皐月賞や前哨戦でも存在感を示した。
後者は一時はルメールのパートナーの最有力候補ほどの逸材であり、サトノレイナス同様にしなやかで伸びやかで、どこまでも伸びる走りを見せており、未だレースで脚が上がった姿を見せていない。
本領発揮は秋以降かもしれないが、伸びしろはシャフリヤール以上。
彼らは二番手グループの上位の一角ではあるが、素質は認めても真の強さを手に入れるのはこれからのように思える。
シャフリヤールが共同通信杯での決定的な差がつけられた事実は忘れてはいけないし、毎日杯のままではまだ通用しない。その牙がエフフォーリアに届くかは、毎日杯からの二か月で成長にかかっている。


ワンダフルタウンは過去の青葉賞馬とは一線を画す存在。なにしろ年明け初戦で青葉賞を制した馬は初なのだから。
不安で皐月賞には間に合わなかったが、逆に言えば史上最も余力を残した青葉賞馬でもある。
父譲りの大きな走りもまた東京2400m向きであり、長く脚を使い続ける展開になれば台頭できる素地は十分。
和田竜二騎手も気が付けば43歳。かのテイエムオペラオー以来の大願が成就しても全く驚けないし、馬上で顔をくしゃくしゃにする和田騎手の姿は是非とも見たいワンシーンでもある。


エフフォーリアと勝負付けが澄んだと思われているのか、別路線組の評価は芳しくないがが、最もハイレベルな前哨戦が皐月賞であることに疑いの余地はなかろう。
王道を歩み、最上級の戦いに挑み敗れた経験が彼らを強くしているはず。自らの得手不得手を浮き彫りにし、逆襲の一手に繋げてくるだろう。

タイトルホルダーは勝っても負けても人気が上がらないが、世代の最前線で戦い続けてその地力に疑いの余地はない。
今回もペースを守って自らの競馬に徹するだけ。そうすればおのずと上位に浮上する。
ステラヴェローチェも世代の一戦級を戦ってきた一頭である。
極悪馬場のサウジアラビアRCと、高速決着の朝日杯FSのどちらでも結果を出している幅の広さは、父バゴから受け継いだ底力のなせる技か。
未知の魅力よりは既知の地力と底力。この二頭はどんな展開になっても見せ場以上の競馬を見せてくるだろう。

ディープモンスターは皐月賞組の中で最もダービー適正を示して敗れた。
中山で大外を回って四角最後方に近い位置から脚を余して敗れており、広いコースへの距離延長はプラス要素しかない。
中間、京都新聞杯に向けて仕上げてパスした臨戦過程がどう出るかだが、まだもう一段上のギアを秘めているし、それが解放すれば皐月賞組を一気に飲み込む魅力を秘めている。
そして鞍上が武豊というだけでエールを送る価値がある。


そんなわけで、この一年間を問う答案を提出するときが来た。日曜日15:40に、競馬の神様に採点をお願いしよう。
◎エフフォーリア
○タイトルホルダー
▲ステラヴェローチェ
△ディープモンスター
△ワンダフルタウン


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